この記事は
「歪められた環境理論:バーチャルウォーター」「歪められた環境理論:バーチャルウォーター(回答編)」「歪められた環境理論:バーチャルウォーター(回答編2)」の続きである。
あらすじを解説するのもなかなか手間であるが、前提となる詳細はとりあえず
「歪められた環境理論:バーチャルウォーター」を先にご覧いただき、その上でご興味のある方のみそれ以降や関連ブログ記事をご参照いただきたい。恐縮にて。
なお、前回より何のかんので2ヶ月弱もお待たせしてしまい、stachyose氏には申し訳なく思う。謹んでお詫び申し上げる。
今回は、前回記事「回答編2」で中途切り上げたstachyose氏からの疑問・質問・反論等にお答えしていく。
対象となる参照記事は以下の通り。
「何も予断無く・・・」(
「ある紛争についての考察」より。以下同じ)
「Tamanegiさんへの質問 その3」
「Tamanegiさんの返答」
それと、コメント欄でのやりとりが一部関わっているのでそちらも提示しておく。
「間抜けな自然科学批判 その1」
さて、
「何も予断無く・・・」の記事は、私が『読売新聞の記事を取り上げたNGOブログの
エントリー』を紹介して「日本悪玉論の広がりに対する危惧」として示した事への反論である。
読売の報道記事(読売サイトの記事はすでに消えている。ご容赦)の見出しは「日本の輸入食料、海外産地は水427億トンで生産」。
もちろん、普通に読めば「日本の食料輸入量を
仮想水使用に換算すると427億トンになる」という話である。が、それがNGO記事では「日本への
食糧輸入に伴って生じる輸出国の水使用量」と紹介されてしまった。
「日本が
輸入しようとするから輸出国が食料を生産する」のか? 「水を使用する」のか?
逆である。「生産国が
生産し、輸出する食料を輸入国が購入する」のである。
「輸入国が自分の欲しいだけ生産=水使用を要求」しているわけではない。該当NGOも、stachyose氏もここを(意識的にか無意識にかは不明)理解していないのだろう。よって、
>
ここでは、日本に輸出される食糧の生産に使用される水の量が約42・7立方キロ・メートルであるという推計結果(事実)しか書いてない。「予断無く」読めば、それしかいえない。
という反論になってしまうものと思われる。
stachyose氏自らいきなりNGO記事「日本への食糧輸入に伴って生じる」の部分を「日本に輸出される食糧の生産に使用される」と
『ほぼ正しい意味で』書き換え解釈してあげてしまっている。これこそまさしく「予断」の為せる業であろう。
繰り返すが、「食糧輸入に伴って生じる水使用」など
存在しない。あるのは「日本の輸入量にあたる食料の生産に計算上使用された水量」である。stachyose氏の表現にあえてわずかに訂正を加えるなら、「日本に輸出される食糧の生産に使用され
た 水の量」が適切か。
>
「!」のようなマークを二個もくっつけちゃって(笑)何が「凄まじい言い換え」なんだろうか?
説明した通りである。能動と受動を入れ替えた「地味だが凄まじい言い換え」である。
>
輸入食糧が生産されるのに伴って使用される水の量だと認められるから、「日本の食糧輸入量」から「輸出国の水使用相当量」を換算することが許されるんでしょうよ。Tamanegiさん、大丈夫か?
「生産されるのに伴って使用される水の量」など
ない。
あるのは「輸出される食糧の生産に(計算上)使用された水の量」である。
上ではちゃんと『正しい意味』で擁護していたのに、こっちでさっそく誤った表現になってしまっているところからして、おそらくstachyose氏の予断は無意識の領域だろう。ご心配いただき恐縮だが、まずはご自愛を願えれば幸いである。
もっと言えば、
実際に使用された分の水コストは輸出価格に当然乗っている(枯渇危機のリスクコストまでは乗っていないが、それは生産側のリスク意識の不備が主因)。釈迦に説法だろうとは思うが、念のため。
>・「日本が無理矢理水を使用させている」かのような
>・日本を悪者にすべく
>
この二つ、NGOの文のどの部分から読み取れるかぁ?「に伴って生ずる」の部分からは無理でしょう
説明の通り、まさにそこから読み取れるのであるが。
まあ、「予断」により誤謬に気付かない事は誰しもままある……私も気をつけねばなるまいと痛感するものである。
さて、このエントリーのコメント欄では「dan」というコメンターが私と類似の視点からstachyose氏に異論を投げ掛けていた。
最後には質問と回答が揃わないグダグダに陥って(どっちが原因かはあえて伏せる。実際にお読みいただくのがよかろう)切り上げられてしまったが、いくつか補記すべき点もあるように見えたのでフォローしておく次第。
>
danさんは、食糧の安定供給のためにその生産現場における水資源状況について注意を払うのがおかしいと考えているのですね。
「
輸入側が主責任をもって注意を払う」のはおかしいと私も思う。
それを主体的に考慮すべきは生産側の国策である。まさしく
「輸出で利益を得た国や企業が個々に対処すべき話」であろう。dan氏は「対処する=注意を払う」べきは輸出側だと最初から述べている点、stachyose氏の決め付けはやや乱暴に映る。
昔は植民地に強制作付けを行わせるなどの有害な「生産押し付け」が存在したが、少なくとも現代日本との輸出入関係にそのようなものは皆無である。stachyose氏の「予断」(輸入側に大きな責任がある、的前提)がここでも発揮されているものであろうか。
まあ、dan氏も「知ったこっちゃない」はちと言い過ぎだとは思う。
「主たる責任を負うはずがない」くらいにしておいてもバチは当たらなかったかも。
s:何が根本的な間違いなんでしょうか?
d:端的に言えば「日本は水を購入している」という話で、商取引が発生しています。資源確保は売り手の責任ですが解りませんか?
s:だからさぁ、ちゃんと質問に答えなよ。「何が」間違っているのさ? 資源確保の責任が売り手にないなんて誰がいったんだよ。
「間違い」→「輸入国側が水資源確保に貢献を」という「沖教授の主張」であると私は読み取った。
確保・保全の主責任は
買い手=輸入側じゃなくて売り手=輸出側にあるっしょ、わからんの? という一文であろう。
それに対して「何が」と聞き、さらに「資源確保の責任が売り手にないなんて誰がいったんだよ」と述べるstachyose氏であるが……私も聞きたい。「誰が言ったの?」
「資源確保の(主たる)責任が買い手にない」とはdan氏も言っているし、それは正しいと思うが。はて。
で、問題としては沖教授の「買い手に責任を負わせる」方向に向いた主張の危険性、そして「食糧輸入に伴って生じる水使用」などに代表される「輸入側に主体をかぶせる」的歪曲認識の流布。結局はそこに回帰してくるものである。
以降のやりとりは上記が整理されないままの水掛け論なので割愛。
この整理だけでも多少は話の焦点が明確になったかな、と思っているのでその点はお二人に感謝している。
続いては、
「Tamanegiさんへの質問 その3」のエントリー。
こちらは、私がstachyose氏のこの件最初のエントリー
「間抜けな自然科学批判 その1」へのコメント(2008-08-05)として残した主張に対する反論である。
>
再通過しないというのは、単純に同じ流域内で河川水や湖沼に再び還元されることなく流域外にでてしまうことをいうのであって、地球の水循環から外れてしまうということを意味しているわけではありませんよ。
それは理解している。
日本の農業は河川ベースのものが多く、特に稲作が全国で行われている関係上「用水路整備・ため池備蓄・排水再利用や下流域での再取水」等の施策が他国より有効活用できている点を申し上げたものである。
>
流域外にでてしまうから、再利用できずに、消費されたと捉えるわけですよ。おわかり?
その「流域外に出た」水が下流でさらに別の水利として活用される、その頻度が日本の農業は(広い平野が少ない島国かつ河川が多い、という地勢的な要因により)他の国より高いということである。繰り返しになるが念のため。
私とて海に出たり蒸発したり浸透した分まで「いつかは再利用されてる〜」などとは言っていない。それは資源量増減の話だ。
>
このような計算をしている「各地方自治体の農業・環境セクション」の運営しているHPとかを紹介していただけませんか?
これについては、確かに前に調べて見つけたはずなのだが、再検索したところ見つからなかった。自治体の農業政策サイトだった記憶だけはあるのだが、迂闊にもメモ等を消してしまったらしい。
なので、再発見するまで保留という手もあるのだがここは潔く撤回してお詫び申し上げる。
不確定な情報に基づいた主張(実際の水使用を例えば1/3にできるシステムを導入している自治体すらある、という話)については取り下げさせていただきます。大変失礼致しました。
次は
「Tamanegiさんの返答」のエントリー。
s:食糧生産地で水の循環サイクルに還元される分まで重複カウントしていることを問題にするのであれば、トニー・アレン氏の学説も支持できないということ。
T:アラン説は「実際の水消費」に対するネガティブアプローチはしていないので、重複カウント問題(=実際の消費をカウントする際の課題)はまったく影響しない。お気遣いなきよう。
s:こういうのをご都合主義というのだよ、Tamanegiさん。
きみは なにを いっているんだ
だいたい、1/10になったとしても「水資源を巡るアンバランスや奪い合いの解決」のための「VW概念活用」をしているアラン教授の
着眼点の良さは揺るがない。
同じ概念を「大量輸入国=日本よ、もっと負担すべし」へと持って行っている沖教授についても、その換算数値が1/10になったとて
危険性にいささかも揺るぎはない。
>
取水された水の90%以上は再利用されるんだったら、他国から食料を輸入することによって水を節約しているといっている分も過大評価しているわけだよね。それも10倍ほど。それは問題ないと?
節約量に再利用換算の減算を掛けるのであれば、生産量にも同じ減算がかかる。
その上、仮想水は「水の再利用を考慮した概念」ではもともと無いので、重要なのは「仮想水でこれだけかかるものに対して、
実際はこれだけ節約できていますよ」という指標になろう。
沖教授もその視点にはニアピンしているのに、どうして「輸入国がもっと資源保全の貢献を」という話になってしまうのか……何とも悲しいところ。
>
90%以上は再利用できるのであれば、自国でやれるじゃないかという話になるでしょうよ。
無理である。水よりもまず根本的に、生産のための
「土地が足りない」。
日本にアメリカ並みの国土面積があれば別かもしれないが。
さて、ようやく宿題が終わりそうである。安堵。
最後は、
私の記事についたコメントでのご質問への回答である。
「2008/11/5 0:12」投稿のstachyose氏コメントより。
>>私の主張をはなっから否定的に断定する表現
>
>
具体的にご指摘下さい。「はなっから」ですか・・
上の文章はこの件の前エントリー
「歪められた環境理論:バーチャルウォーター(回答編2)」における本文中、一部回答先送りについて記載する際の
>もう1つご連絡いただいたエントリー「何も予断無く・・・」はコメント欄でのやりとりが多く為されており、その中で私の主張をはなっから否定的に断定する表現も散見される。
のことである。
では、ちゃっちゃと簡潔に回答を。
>
さりげなくここに書いておくと、相手が己の知識レベルを把握しておらず、さらに知識が限定されていたとしても避けられる論理破綻まで出現してくるので、どこから攻めたらいいのか困惑しているところなんですよ。
「何も予断無く・・・」の、stachyose氏が初っ端につけたコメント(別のコメンターへのレス)である。
まさか「Tamanegiのことじゃないよ」という話でもなかろうが……
まあ、別にこう言われたからどうこうという話ではない。単に「予断をもって事に当たるとこうなる」という実例として例示しただけである。
もう一つ、「2008/11/28 2:19」のご質問
>質問をさせていただいていますが、これをすぐに示せない事情がおありでしょうか?
>また、これらのことは「畑地」においても適用できるという認識なんでしょうか?
については、上に関してはすでに申し上げたが「資料メモを無くして示せなくなったので、撤回して謝罪します」ということで。改めて、大変申し訳ない。平伏。
下については、日本のような特殊な地勢(稲作中心で農業用水設備が昔から高度に発達しており、畑作にも容易に流用可能)では別として、世界一般としての畑作では再利用効率が低く、当てはまる割合は日本でのそれよりかなり低いことだろう。
まあ、それだけに現在も日本の技術投資・支援は各国で重宝されているわけであるが。
「輸入側」にも関わらず、十分に「貢献」し「責任を代わりに果たしている」日本の姿は、しっかり認識できるものであろう。
そういう視点を、沖教授にも持ってもらいたいと切に思わずにはおれない。アラン教授が日本を評して「good for your health」と言ってくれたように。

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