2006/6/24

AERA編集部に送ったメール  音楽全般

先日話題に出したAERAのジャズフェスに関する記事について編集部に感想のメールを出しました。一応、メールの内容を公開します。

先日の日記とあまり変わりませんが、もう少しコメント個所が増えています。長くてすいません。_(_^_)_

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2006年6月26日号掲載の記事「復興のうたげ、苦い後味」(北村和哉氏)を拝読いたしました。多くの人に愛されるニューオーリンズという街に対して愛情の感じられない本記事掲載に、その被災状況に心を痛めているひとりとして、とても残念に思います。

私も先日ニューオーリンズに2週間ほど滞在し、北村氏と同じくジャズフェスを始め、市の状況を見てきましたが、印象は氏とはかなり異なるものでした。被災地の多くで復興が殆ど進んでいないのは事実ですが、街を復興するためのボランティアも活動していますし、強度の問題を指摘されながらも堤防の再建工事も進んでおり、下9地区隣接の工業水路沿いの堤防は私が見た5月初旬の時点でほぼ完成というところまで来ていました。また、各地の音楽ファン等が現在も募金活動も行っており、Musicares等の団体がその受け皿となって被災者に支援金を渡しています。日本にも支援団体が複数存在します。

記事の全体を覆いつくすネガティブなトーンには、そのようなポジティブな面が抜け落ちており、復興のためにどうすればいいのかなどの提言や問題提起があるわけでもありません。このような内容は、復興を願う多くの人々に対してあまりにも無神経であり、また何ら役に立ちません。北村氏のブログを見ると、氏は被災者への同情もジャズフェスに対する興味もあまりないと公言しています。このような執筆者に執筆依頼をする編集部の姿勢に疑問と憤りを感じます。

また、内容的にも明らかな誤りあるいは誤解を招く記述が多く含まれております。以下指摘をさせてもらいます。

1.現地の被災状況について
記事右下写真のキャプションに「ニューオーリンズ最大の観光資源でだったフレンチクオーターにある廃屋。修復された家屋も多いが、廃屋となったものも残る」とあります。フレンチクオーターが比較的被害の少ない地域だったのは周知の事実です。細かい被害はありますが浸水は免れていますし、私のみる限り写真のように大きく壊れている建物は皆無でした。これがフレンチクオーターの写真であったとしても、同地区の様子を的確に伝えたものとは到底言えません。

一方、記事には、最大の被害を受けた下9地区(Lower 9th Ward)ならびにレイクビュー地区等への言及がありません。特に下9地区は貧しい黒人たちが多く住み、ニューオーリンズ音楽の源泉とも言われる地域ですので、音楽という視点から被災を語る上では避けて通れません。私がここを訪れた際、広がっていたのはフレンチクオーターとは別世界の言葉を失うほどの廃墟でした。作業員等がところどころいるだけで、住民はまったくいません。北村氏が触れていたジャズフェス会場周辺の被災状況と比較しても、明らかに被災のレベルが違いました。

サブタイトルの「ダウンタウンに復興の光は見えない」という記述も疑問です。市全体の被災状況がダウンタウン(フレンチクオーターとその近辺)と同程度であれば、復興はさほど難しくないでしょう。

記事は、被災地を十把ひとからげにし、フレンチクオーターに集約してしまおうという意図が感じられ、著しく事実を誤認させるものと言わざるを得ません。フレンチクオーターはニューオーリンズのほんの一部でしかないことを認識して欲しいと思います。

2.ジャズフェスの集客について
ジャズフェスの観客動員について「例年に比べ2〜3割ほど少ない」との「広報担当者」のコメントが紹介されていましたが、これは具体的には誰の発言なのでしょうか?今年は公式な観客数が発表されていませんので断定的なことは言えませんが、計4回同フェスに行っている私の眼からみて出足は決して悪くなく、どちらかというと例年より人出は多いとさえ思いましたので、違和感を感じました。また、フェス・プロデューサーのクイント・デイヴィス氏も「例年よりは出足はよい」とコメントしており、それは地元メディアで報道されました。そういう事実には触れず、匿名の「広報担当者」の発言を引用して出足が悪いかのような印象を与えることは、事実を歪曲するに等しい行為と考えます。

さらに申し上げれば、仮に観客が例年より2〜3割少なかったとしても、それは失敗ではなく状況から判断しても「2〜3割程度の減少にとどめることができた」と考えるのが自然ではないかと感じるのです。会場となったフェアグラウンズ競馬場もカトリーナで浸水しており、被災当初はフェス開催自体を危ぶむ声も聞かれました。市民の半数がいまだ戻らず、インフラも依然脆弱、フェス主催者の財務状況も被災前から危機的な状況にあったという事実を踏まえれば、2〜3割減であっても大成功でしょう。

ニューオーリンズは様々な問題を抱えたままの状態であるものの、私はジャズフェスは、地元経済にも好影響だったろうと思いますし、地元の人々を元気づけることにもなったと思います。しかし、記事では「苦い後味」と表現するなど、まるでフェスが失敗であったかのような書かれ方をされており、逆境の中で開催に尽力した関係者に冷や水を浴びせるようで、とても残念です。

3.ジャズフェス期間中のフレンチクオーターの状況について
「カトリーナ以前だったら、フェスティバル期間中、通りは人があふれ出ていた」のに、今年は「人影は疎ら」とありました。個人の印象の差はあれど、「人影は疎ら」というのは、明らかに嘘です。特に週末の夜はレストランは最低でも1時間待ちという混雑ぶりで、歓楽街のバーボン・ストリートは人の多さにうんざりするほどでした。まだ再開していない店が多くあり、以前よりも早い時間に店じまいをしてしまう店もあったのもまた事実ですが、フェス期間中の人出は、例年に近い賑わいを見せていたと思います。北村氏が「人影は疎ら」と主張されるのであれば、フェス開催中の昼間か早朝に行かれたのか、もしくはもともと人通りがあまり多くない部分を見てそういう印象を持たれたのかも知れませんが(フレンチクオーター内全てが歓楽街ではありません)、全体的に見て事実とは異なります。もちろん「フェス終了後に人出が一気に少なくなった」というのであれば、それはまた別の話です。

3.フェス出演者のカトリーナに対するコメントについて
私は6日間全日フェスに通い、多くのアーティストの演奏の場に居合わせましたが、多くのミュージシャンがハリケーンに関するコメントをしていたという印象を受けています。北村氏のブログの記載通りであれば、氏は殆どジャズフェス会場でライブは見ていないに等しく、そのような限定的な体験のみで、ミュージシャン達がハリケーンについて触れていないという印象を受けたとコメントするのは不適切であると考えます。

さらにはハリケーンについて「コメントすることほど虚しいものはない」などと述べるのは、コメントしたミュージシャンに対して失礼でしょう。多くの地元ミュージシャンが「このような苦難のときにもニューオーリンズを愛してくれてありがとう」と語り、地元以外のミュージシャンが復興にエールを贈るのを聞いて、私は感動を覚えました。それが自然な感情というものではないでしょうか?決して虚しいものではありません。「そんなことより」とは何たる言い草でしょうか?北村氏がどう感じるかは自由ですが、それは氏の個人的なものにとどめるべきです。

4.パーティーは続いている
「パーティーは続いている」とのアラン・トゥーサンのコメントの件。これは彼が披露した新曲"There's A Party Going On"のことですが、日本語に訳すと「パーティーが今行われている」というような意味であり、「続いている」は誤訳だと思います。小さいことかも知れませんが、記事中繰り返し出てくる上に、見出しにも使われていたので気になりました。

5.例年通り?
また、記事にはフェスが例年通り開催されたとありますが、正確には例年通りではありません。昨年までは7日間もしくは8日間の開催でしたが、今年は短縮されて6日間になりました。また、ステージ数もブルース・テントがなくなり1つ減っています。細かい変更点はまだありますが、以上二点は明らかに「例年通り」と言えない大きな変更点(規模縮小)です。但し、それは開催に漕ぎ着けたという成果の前では必要以上に強調するべきことではないことは言い添えておきます。尚、記事右上キャプションに「6ステージなどが会場には設けられた」とありますが、今年のステージ数は計10です。6という数はどこから出てきたものか不明です。テントをステージと数えなかったということでしょうか?テントも屋根があるだけで、ステージであることには変わりありません。

6.市長選
5月22日に行われたとありますが、正しくは4月22日です。決選投票が5月20日にありましたので、両者を混同されたものと思われます。文章の内容は決選投票のことを書かれているようです。

この記事を通して北村氏が、また編集部が何を訴えたかったのかが、私には判りませんでした。被災地のその後の現状を伝えるにも事実は歪曲されている上に、「伝えたい」という気持ちも感じられません。政治批判のようなものもあるようではっきりせず、説得力は乏しいと思います。結局のところ、私には北村氏が被災地をネタに言葉遊びをしているだけのように感じました。

現地の厳しい状況の中で、具体的な復興策とあわせて今最も必要なのは現状に対する人々の理解と思いやりの気持ちだと思います。今後、御誌がそのような観点に立った記事を企画されることを切に願っております。また、少なくとも事実誤認の部分だけでも次号以降での訂正をお願いしたいと思います。反論や不明点があれば、お知らせ下さい。もちろん、本メールを北村氏に転送頂いても構いません。

なにとぞ、ご考慮のほどお願いします。
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