旧パラを検証する184
第十五号 3
詰将棋解剖学I入門より創作まで 谷向奇道
★六月号よりのつづき
(D)中間合駒(中合)の研究
秘手五百番(一六七)

第八十二図は大道棋「香歩問題」である。
第一着手として目に映る攻めに、@六三桂生、A七二歩、B八三桂生、の三通りがあるが各々について順次攻防の手順を研究して見よう。

参考第一図は、@六三桂生、八一玉、八六香と打った局面で、図の場合玉方が九二玉なら八三香成又は八三金寄で簡単に詰む。この詰は◎印の個所へ駒を捌く事(香成又は金寄)が出来た為に生じたのであって、仮に参考図第一図の香を八三に打っていたとすれば九二玉と上って脱出されてしまう。即ち一見合駒が利かない様に見える参考第一図で、玉方には◎印に合駒を打つ手段が成立するのである。これが中間合駒の手筋で、同香と取らせて香の死角を衝いて逃走せんとするのであるから@の手筋と考えてもよいし、金の捌きを封ずる点に着眼してAの「捌き封じ」と考えても差支えない。
八三◎を同香を取っては、◎が飛か香でない限り九二玉、八二香成、九三玉と虎口を脱せられて詰みが無くなるから、詰方は八三◎に対して、八二歩、九一玉、九二歩、同玉、八三香成以下の攻めを狙う一途である。そこで玉方は八三の◎を選択することによってこの詰筋を消すべく、茲に中間合駒と二段活用の合駒との併用の必要性が生じて来る。
扨て八三◎以下の詰筋を消すには、九二歩を同◎と取れば良い訳で◎の斜後方に利く角か銀と言うことになる。然し八三角合では、八二歩、九一玉、九二歩、同角、八一歩成、同角、八二金迄の詰みがあるから、この八二金の手を消す為に◎は斜後方に利くと同時に前方にも利く性能を有つ駒、即ち銀でなければならぬことに決定する。参考第一図に玉方八三銀合の好防によって詰方の攻撃は挫折する。
@六三桂生、八一玉、八六香(参考第一図)、八三銀合(B・D−1・2)、八二歩、九一玉、九二歩、同銀、八一歩成、同銀、同香成、同玉、七二銀、九一玉にて不詰。

参考第二図は、A七二歩、八一玉、八六香と打った局面で、玉方逃げる手は簡単な詰となるから前例にならって八三◎と中合として見よう。◎は勿論飛香以外の駒であるから八三同香と取る手は無い。
扨て参考第二図で八三◎とされた場合、詰方は兎に角◎印へ成り込む王手でないと失敗するから、八二金、同玉、八三桂成と言う攻筋がある。この八二同玉を消す為に玉方の◎は後方に利く金に限定される。(飛合なら同香生と走られて早い)。八三金合に対し八二金なら同金、同香成、同玉、八三金、九一玉で指切るから、七一歩成、九一玉、八三桂生、九二玉、九一桂成、九三玉、八四金と攻めて詰む。所がこれで詰んだと喜んでしまってはいけないので、これは正解手順ではない。この詰上がりを凝視すれば直ちに分る様にこの玉は八四金打で詰んだのだから、若し八四金と打ったことが出来なければ−即ち八四の位置に香が進んでいたら詰にはならない筈である。
前述の手順は茲に玉方の遺漏があった訳で参考第二図に戻って、八六香に対し直ちに八三金合とせず、一旦八四×合と中合して同香と取らせて置くことが考えられる。×は以下の手順で七一歩成、九一玉の時九二へ呼出される駒であってはいけないから、頭に利かない角と桂と言いことになるが、角は不都合で桂合の一手となる。この桂合は香車の死角を衝く@の手筋である。参考第二図は、八四桂合、八三金合の二重の中合によって不詰となる。
A七二歩、八一玉、八六香(参考第二図)八四桂合(B・D−1)、同香、八三金合(B・D−1・2)、七一歩成、九一玉、八三桂生、九二玉、九一桂成、九三玉にて不詰。

参考第三図は、B八三桂生、八一玉、八二歩、九二玉、九五香、と迫った局面で、この場合中合は無意味で、九三〇、九一桂成、同玉、九三香生、九二△(参考第四図)となる。

この手順は中合の手筋を含んでいないが、九三〇、九二△と二段活用の合駒を連続的に含んでおり練習用として格好と思うので、あらゆる場合を一々刻明に検討して自力で最善の〇と△を決定して戴き度い。
茲に注意すべきは九六歩の為歩は二歩になるから合駒として使用出来ないことである。
第八十二図大道棋詰手順B
83桂生、81玉、82歩、92玉、95香、93角合(B)、91桂成、同玉、93香生、92角合(B)、81歩成、同玉、92香成、同玉、83角、93玉、82角、84玉、74角成、95玉、96馬、84玉、
74馬、95玉、96歩、94玉、93角成、同玉、83馬迄二十九手詰
本局は正解手順には中合の手筋を含まぬけれ共、今にも詰みそうな@Aの紛れ手順を不詰に終わらせる中間合駒(イAの場合)は巧妙で納得ゆく迄吟味されたい。
註 大道詰将棋「香歩問題」には常に右に述べた三通りの攻筋があり、@ABを夫々合駒の種類によって、「銀合の筋」、「金合の筋」、「角合の筋」と名付けるが、局面によってこの何れか一つの筋で詰む様に拵られている。例えば本局は「角合の筋」で詰んだが、本局の玉方九六歩の位置を一間ずらせて九七歩の配置に変へれば、「角合の筋」では詰みなく、「銀合の筋」で詰む様になる試みられたい。
尚、この様に形が極めて類似しているにも拘らず詰手順の全く異る詰将棋を筆者は、「相同の詰将棋」と呼んでいるが、之に関しては後述の第四篇、第三節詰将棋の鑑賞の項を参照されたい。

第八十三図は初手手広くて始めから迷う局面である。先ず八五香と打つ。玉方九二玉なら八三香成、又七一玉なら六三銀成、七五と、六二角成で簡単に詰むから茲は合駒を一手である。前例にならって八三×合はどうか?×が飛香以外の駒なら八二桂成、同玉、八三銀成があるし、×が飛金なら同香生と取って詰みがある。即ちこの場合八三への中合は効果が少ない。この局面で玉の右辺への脱走を押さえているのは詰方九五角であるからその利きを遮る為に八四◎が有効である。
この手段は八四同香と取らせて七一玉以下右辺への脱走を狙う「有効遮断」(D−2)の手詰である。◎は飛角金銀なら同香と取られて七一玉の時六三銀成で次に◎を打って簡単であるから桂香歩のいづれかでなくてはならない。香ならば早詰手順があるから桂か歩である。(何れでも同手数の詰)。八四桂合に対し同香なら七一玉、六三銀成、六一玉で逃げられるから、詰方も八二桂成、同玉、七三銀生と言う好手順が必要である。
第八十三図詰将棋作意
85香、84桂合(D−2)、82桂成、同玉、73銀生、81玉、84香、92玉、82香成、93玉、84銀成、82玉、94桂、92玉、93歩、81玉、72香成、同玉、73成銀、71玉、82桂成、61玉、62成銀迄二十三手詰
秘手五百番(七二)の修正図

第八十四図は「歩問題」と呼ばれている大道詰将棋で、秘手五百番(七二)では詰方五三香となっているがそれでは余詰があるので図の如く五三歩に改作した。「歩問題」は一般に詰上がりに持駒の残るものが多いで選択に苦心したが第八十四図の如く改作しても最終に小瑕のあるのは遺憾である。
扨て図の場合初手六一飛成で簡単の様だが即ち六一飛成、八一銀合、八三桂生、同香、九二歩、八二玉、七二桂成、同銀、九一龍迄で詰み相だが、これは詰方九二歩が打てたからであって、六一飛成の 時一旦七一歩合と◎印の点に中合されると、同龍、
八一歩合となって八三桂生、同香と行っても九二歩が打歩詰となって絶対詰みが無いのである。この輝く七一歩合こそ詰方を「打歩詰」に誘導する中合Aの手筋即ち高柳八段の所謂「威力引寄せの妙坊」なのである。
成程、七一歩合とは巧妙だ、それなら「打歩詰には不成の手筋あり」−六一飛不成ならどうだ。直ちに八一歩合で之も失敗する。
そこで思案の末、九二歩、八二玉、六一飛不成と遠廻りして攻める手段に想到する。玉方七一歩合なら、九一歩成、同玉、七一飛不成にて前述の読み筋の詰がある。所が敵もさるものヒッカクもの、茲には七一角合と頭の丸い角を打って飽迄も九二歩打を封ずる(七一桂合なら、九一歩成、同玉、七一飛成、八一×、八三桂打の継ぎ桂で詰)。以下虚々実々の応酬をくり返し実に四十有五手にして詰む。
第八十四大道詰棋手順
92歩、81玉、61飛不成、71角合(B)、91歩成、同玉、71飛成、81歩、同龍、同玉、63角、72歩合(C−4)、同桂成、91玉、92歩、同玉、74角成、91玉、83桂打、92玉、71桂成、83桂合(B)、82成桂、同玉、83桂成、71玉、72歩、81玉、82香、同角、A92成桂、72玉、84桂、71玉、82成桂、同玉、92桂成、71玉、82角、72玉、73角成、71玉、82成桂、61玉、52馬迄45手詰
紛れ手順 六一飛成、七一歩合(D−3)、同龍、八一歩合にて不詰註、
註 秘手五百番(七二)の如く五三香ならば三十七手目九二桂成の所、九一角打でも詰みがあるので図の如く修正したが、最終七三角成でも詰む瑕が残っている。(手数は二手長い。)
秘手五百番(二五)

第八十五図も前図と同様、初手五二飛成では六二桂合の「威力引寄せの法」にかかり、同龍、九三玉、九四歩、八四玉でマンマと玉方の仕組んで「打歩詰」のワナに陥る。
第八十五図大道棋詰手順
五二飛不成、七二桂合(D−3)、同飛成、九三玉、八二銀生、八四玉、七四龍、同玉、六六桂、八四玉、八五香迄十一手詰。
初手五二飛不成に六二桂合なら同飛不成と取られて桂一枚徒死するから、七二桂合の一手となる訳である。
最後に、両取りを脱せんとする中合を解説する。
塚田前名人作

第八十六図は塚田前名人の一握り詰作品である。図の局面で不審なのは玉方四五成銀で単に余詰を防いでの配置とも思えないから正解の鍵はここらに潜んでいると見るべきである。先づ二一銀と成り、同玉に五四角と打つ、これは次節で説明する「持駒を獲得する為の遠駒」Aの手筋で、玉方が一一玉と逃げると一二歩成、同玉、四五角と銀を入手して、次に二三銀合でも、二四桂、二一玉、三二銀成、同銀、一二角成、三一玉、四二銀迄の詰みを狙った好手である。玉方逃げる手なく合駒の一手だが三二合は同銀で前述の詰があるから四三合と打つ。これが詰方同角成を誘って一一玉と逃げ四五成銀との角の当りをはずそうとする中合Cの手筋で、同角成、一一玉を期待している形だけに合駒に飛金銀香は使用出来ない。又四三歩合なら、三二銀成、同玉、四三と、四一玉、六三角成、三一玉、三二歩、二一玉、一二歩成、同玉、四五馬以下詰、四三桂合なら、一二歩成、三一玉、三二銀成、同玉、四三と、二三玉、四五角、三四合、三五桂、一二玉、三四角以下詰であるから、これらの手順中三二銀成を同玉と応じなくても良い様に四三角合と打つ一手である。
この防手は仲々巧妙で本作品は後の手順にも再度の二段活用の合駒を含んでおり非常な好作と思う。
第八十六図詰将棋(塚田前名人作)詰手順
21銀成、同玉、54角、43角合(B・D−4)、同角成、11玉、23桂、同歩、33角、22桂合(B)、同角成、同玉、32銀成、13玉、25桂、12玉、24桂、同歩、34馬、23桂合(B)、13桂成、同玉、24馬、12玉、13歩、11玉、33馬迄二十七手詰
以上で合駒の手筋の説明を終る。
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元々、大道棋専門誌的な始まり方の詰パラに今更、大道棋の合駒を例に出すのも今一つか。
第八十三図ですが、85香に84銀合とされ、同香は72玉で詰まないし、82桂成、同玉、73銀生、92玉、93歩に同銀と取れて不詰です。
第八十四図もAで同成桂以下余詰があるのですが大道棋なので仕方ないかな。
第八十六図の握り詰はまあまあの出来でしょうか?

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