旧パラを検証する181
第十四号 16
大学 担任 土屋健

大井美好氏作(A)
正解
14香、22玉、13香成、イ同桂、14桂、ロ21玉、22金、同金、A43角、ハ32金、同角成、同玉、43金、21玉、22桂成、同玉、33金、ニ21玉、43馬、12玉、23金、同玉、35桂、ホ22玉、14桂、12玉、34馬、21玉、22桂成、同玉、23馬、31玉、41馬、21玉、22歩、同玉、23桂成、21玉、32馬迄(三十九手詰)
変化
イ同香、(同玉は31角、同金、23金迄)11角、同玉、12金迄
ロ31玉、22角、同金、同桂成、同玉、23金、31玉、32金打迄
ハ32銀(金打合)、22桂成、同玉、32角成、同玉、43銀、22玉、32金迄
ニ31玉、23桂、21玉、43馬、12玉、11桂成、同玉、21馬、同玉、23香、31玉、22香成迄
ホ12玉、34馬、21玉、33桂、32玉、43馬、22玉、23歩、31玉、41歩成迄
北原義治氏 実戦型で仲々面白い手順だが大学には易し過ぎる。
佐々木誠一氏 慌てて22桂成と金を取らずに43角打更に32金寄の辺千両、何でも無い様な形であり乍ら複雑な変化を蔵して居る大井氏得意の快作
選者 世に言う実戦型で一見大学級とは思えないが、内容は近代型の大井氏の作風を如実に示す駒捌きに重点を置いた作品である。北原君の言も無理からぬ処であり単に手順の難易で判断するなら、大学向き課題中最も易しい作となるかも知れぬ、だが手順の長さや手筋の難易が詰将棋の等級を決定する総てでは無い。駒の配置や詰上り形に高度の努力を払い、形而上の攻防の応酬や、その作品に何を語らせるか、即作者の「狙い」が高級なら或は平易と思われる作品でも大学課題として存在し得ると考える。本作品は35と47桂が作意の一端を臭わし苦しい配置であるが他は終盤と共に無理の無い構図である。22歩を除く14香より13香成、22金の打捨てより43角を狙えば32金寄ると玉方の攻防あり、高度の詰将棋のテクニックを駆使して居る。爾後も切れんとして切れず、一個の駒を二重三重に躍動さも捌きの妙を流れ動くものの美しさを鮮やかに見せて呉れる。簡単な狭範囲な駒配りの為収束は類型的になったのは不己得い次第である。短編作を思わせる型だが内容は意外に充実して居り、捌きを主眼とした為個々の手から云うと平易だが接戦三十九合、攻防の妙を満喫せしめる好作である。
★A54角〜98角非限定
14香〜13香成の導入が上手い。イにあるように22歩を消去するためだ。次の32金寄も感じの良い攻め方。以下は大井氏らしい駒捌きで詰め上がります。ニの変化順で詰めば文句無しでしたが、作意順は間延びあいた感もありますが、大井流ではあります。

柏川悦夫氏作(B)
正解
32金、12玉、31金、22桂、21角、23玉、32角成、12玉、13歩成、同玉、23金、14玉、24金、同玉、33馬、同玉、32飛成、24玉、22龍、23飛、同龍、同玉、32角、33玉、23飛、42玉、54桂、51玉、41角成、61玉、52馬、同玉、53銀、63玉、64銀成、72玉、73飛成、81玉、82歩、91玉、92歩、同玉、93歩、91玉、71龍迄(四十五手詰)
奥薗幸雄氏 32金12玉31金と角も飛も取らず22桂合は巧妙で本局のヤマである。
堤 浩二氏 3手目31金は一寸気付かない好手である。それに対し玉方22桂合が巧妙な応手で以下数合、再び22飛合の好手があり、合駒に味を出そうとした軽作である。収束が未だしの感が深い。
選者 本局は近代型理論の正統派の一方の雄柏川君の作で三手目33金と角を取りたいが、飛車を抜かれて不詰、されば一旦21角23玉の時に33金なら14玉と脱出される。一寸類を見ない好手31金に対し22桂合も見事で虚々実々、飛合が本手順に思えるが同飛成同玉21飛12玉23飛成同玉32角22玉21角成23玉32馬12玉13歩成以下簡単、金合なら21角23玉22飛成同角32角成12玉13歩成同玉14金でより簡単な早詰となる、桂合の為14金が利かず24金から33馬と飛車を捌く順は当然で22龍と迫った時、玉方23飛合が亦うまい、他の駒なら33角14玉26桂を防止する飛合では不己不得同龍と払い32角と追撃する、此処で22玉と下り21飛33玉と二手伸した方があったが不注意である。23飛成42玉に対し54桂と打たず41金同銀43龍51玉41龍で頓死、亦12玉なら24桂22玉21飛以下同様の早詰となる。此処迄来ればあとは簡単な追詰となる。31手目52馬に72玉なら62馬81玉72銀91玉92歩同玉(イ)83銀成同玉73飛成92玉93歩91玉71龍81歩73馬迄或は(イ)93歩91玉73馬82歩同馬同玉83飛成91玉81龍迄何れも駒余りの詰となる。
以下手順の解説は終ったが問題は他にあった。即堤氏の言う収束が未だしの感が深いの解釈である。31手目52馬に72玉なら四十七手詰となり最長最短説で云えば当然本手順とせねばならぬ、現在種々議論の的とよって居るが、詰上り持駒が残る手順は正解と認め難いとの見解が大多数をしめて居る。堤氏も四十五手詰と解答された。されば「未だし」とは未熟と言う意であろうか、私も本題の収束は実に鮮やかであるとは考えて居ない。
だが本作品は近代型である為好手を連発せしめ最後を飾るより無理に駒を多く盤上に配置し美的感覚を損なう点を重視して居るのである静かに始まり盛り上るクライマックスを経て再び静寂に帰る作者の演出に、取って付けた様な不調和な妙手は不必要であろう。作者の物語りは一応のまとまりを以って終わって居るのである。例え序盤に比し劣るかも知れぬが一応の調和を保って作品の諧調を破っては居らぬ。近代型詰将棋では単に妙手の多寡とか手順の難局ばかりでなく、かかる点にも意を用いて居る事を理解願い度い。
★土屋氏の解説では、32手目72玉で変長扱いしていますが、変化手順中72銀、91玉に92歩ではなく、73馬で43手駒余りで詰みます。土屋氏の示して居る変長手順の方が遙かに難しいと思います。簡単に変化が割り切れて居るのに、変長扱いは酷いと思います。変化を書かないのは柿木将棋の無いこの時代は作者の過失と思われるかもしれませんが、特に難解な変化ではなく、変化記入を私でも省略していたかもしれません。
31金の運用から桂合・飛合の限定合が見所ですが、以下は単調で今ひとつだと思います。

高木秀次氏作(C)
72香成、同金、A63歩、同玉、74銀、同玉、83銀、同金、84角成、63玉、73金、53玉、43桂成、同玉、33金、53玉、63金、同玉、75桂打、53玉、43金、同玉、55桂、同馬、33飛成、同玉、51馬、22玉、33銀、13玉、23歩成、同玉、24銀成、22玉、33馬、21玉、22歩、同金、同馬、同玉、23歩、32玉、42金、21玉、31と、11玉、22歩成、同玉、32金、11玉、21と迄(五十一手詰)
本手順3手目63歩に対し同金は71銀打72玉81銀不成以下、53玉は43桂成同玉42金寄同銀同と同玉32金53玉42銀63玉61飛成62金同龍以下簡単な詰となる。選題に当り選者は公器たる雑誌の性質に鑑み公平な立場にあって選題せねばならぬ、と言うものの選者特有の臭いとか色とかが幾分出て来る事は免れ難いし亦面白い処である。爾後の課題の選定にもこの点に立脚してそれがなされるであらう事を予め御了承願い度い、古典的な作品の愛好者の為に本題を選んだ次第である。
勿論作品の内容も充実して居り佳作の範疇に入る可き図であったが私の非力の為に早詰を生じ慚愧に耐えない。古典的になるが故に特に最初の十手は記憶があったので類型作を発見す可く努力した、その為ではあるまいが手許が留守になった。3手目63歩を先に84角成73香63歩同玉74銀以下本手順と同様の詰みとなるが19手目75桂打を同香の手段が生じ不詰となると早合点したのが直接原因である。実は解答者中第一位にランクされて居る高橋君が遂に同手順で黒星を一つ稼いで仕舞った。処が73香或は歩合の時71銀打で次の早詰を生じた(後略)
★Aで84角成、73歩、71銀打、63玉、62金、甲53玉、42銀、同銀、52金、63玉、62銀成、同金、同金、同玉、73馬、52玉、42と、53玉、43と迄21手早詰
甲で同銀は74銀、同歩、62銀成、同金、同馬、同玉、73金、53玉、42銀迄17手早詰
後に高木氏の作品集「千早城47番」で32金⇒32ととする修正図が載っています。修正図ではA84角成に73金打合とし、変化甲手順の7手目73金に同金と取れるので不詰となります。簡単に修正出来ただけに勿体無かったです。
(修正図解説)84角成として51銀を質駒にしたいのだが、単に3手目84角成では73金打合(原図は73香合で詰まないと思っていたと思われる)で詰まないので、83に金を誘導してから84角成と合駒させないように84に馬と据え付ける。次に33飛成、同玉、51馬の収束に入るため、邪魔駒の32とを捌き捨てるのが中盤のテーマ。更に11手目に打った73金も51馬と銀を取る邪魔駒になっているので、75桂に打ち替える。その後収束に備えて55桂と一歩補充するのが大事な処ですが、55桂に対して同とでも同馬でも同じ変同なのは味が悪いです。最後は馬を捨てて朝霧の収束に持ち込みます。高木氏の作品ですが、構想作というより、捌きの作品であり、捌きの作品なのにこの配置駒の多さは今一つだと思います。

山田修司氏作(D)
99歩、同玉、28金、98玉、99歩、88玉、29金、99玉、38金、98玉、A99歩、88玉、39金、99玉、48金、98玉、99香、88玉、49金、99玉、58金、98玉、89角、99玉、45角、98玉、B89角、99玉、67角、98玉、99歩、88玉、59金、99玉、68金、98玉、99飛、88玉、77金、99玉、29龍、88玉、38龍、99玉、49龍、88玉、E58龍、77玉、76金、同と、78龍、66玉、56金、同成銀、76龍、57玉、56龍、48玉、58龍、39玉、49龍、28玉、19銀、17玉、26銀、27玉、29龍、16玉、17銀、同玉、28龍、16玉、17歩、15玉、14と、同玉、13桂成、15玉、14成桂、同角、16歩、同玉、49角、15玉、17龍、25玉、16角、15玉、27角、25玉、36角、34玉、14龍、24銀、43角、33玉、D22銀生、同玉、E32角成、同玉、54角、33玉、43角成、22玉、31銀、同玉、11龍迄107手
(前略:変化と余詰順の紹介なので省略)
本題は山田君向きの雄篇「金鋸」であったが、私の努力の至らぬ為折角の珠玉に瑕瑾を印して仕舞った。特に同君より不肖に関らず先達の礼を以って遇されて居るので冷汗三斗、会わせる顔も無い次第であり。亦善意により出発したとは言え無理に本作の掲載を迫り我意を通し、遂に本誌の名誉に汚点をしるした事は誠に申し訳ない処である。検討に当り早詰手順の76金の空王手をした時67桂打により79金が無く不詰となると早合点した。その為に桂一枚残してあると考え検討を此処で打切った。山田君も恐らくその予定で桂を配置しなかったと想像するが間違いないと思う、汗顔の極みである。面白い事に正解者の半数は作意であり、井戸、高橋、佐々木、庵閑子等の自他相許す実力者の諸氏がそうであった。筋の良い者は余詰を探すのが下手である、とは戦前月報時代によく先輩より注意された言葉であるが、確かに一面の真理を物語るもので本作品に付いてもそれが云えると思う。兎に角私の不勉強の為、本誌を初め作者解答者の諸氏に多大の迷惑を及ぼした事は申訳ない次第であるが、不完全作に関らず懇篤な解答を寄せられた誌友の諸氏には感激のほか無い。
★A99香、88玉、39金、99玉、48金、98玉、99歩、88玉、49金、99玉、58金、98玉、89角、99玉、45角、98玉、89角、99玉、56角、98玉、99歩、88玉、67金上、78歩、同龍、同玉、76金上、68玉、69歩、58玉、59金、57玉、46銀迄43手早詰
B99歩、88玉、67金上、78歩、同龍、同玉、76金上、68玉、69歩、58玉、49金、47玉、36角、37玉、39飛、28玉、37角、17玉、26銀、16玉、19飛迄47手早詰
C56角、98玉、99歩、88玉、67金上、78歩、同龍、同玉、76金上、68玉、69歩、58玉、59金、57玉、46銀迄43手早詰
D32角成、44玉、54馬、35玉、45馬、26玉、27銀、37玉、46馬、48玉、18龍、49玉、38龍、59玉、68馬迄111手余詰
E21角成、33玉、43馬、22玉、32馬、同玉、54角、33玉、43角成、22玉、31銀、同玉、11龍迄111手の迂回手順あり
土屋氏の解説は余詰に対する御詫びだけで、解説になっていない。作意未発表で訂正の余地を与えるのなら未だ解りますが、作意を明らかにした上で、御詫びするだけでは、作品の解説になって居ないと思います。
作意は初の飛車を利用した1歩消費型横型金鋸で、45歩を剥がして67角に据えなおし金を68迄動かし77金と出来るようにしてから99飛〜77金として龍鋸に入る。つまり金鋸は龍鋸に入るための伏線趣向だった訳で、実に見事です。以下は長い収束に入り100手を越える大作となりました。山田氏初期の代表作の一つになるような内容でしたが、龍鋸に入らなくても詰むという根本的なところで潰れていました。
ただ、この金鋸が詰将棋史的に意義があることを護堂氏の論考でお知りになられた山田
氏は後に詰パラに改良図を載せられました。

山田修司氏作 詰パラH29.10発表
夢のあと77番
99歩、同と、89銀打、同と、同銀、99玉、88銀、同玉、29金、99玉、38金、98玉、99歩、88玉、39金、99玉、48金、98玉、99歩、88玉、49金、99玉、58金、98玉、99歩、88玉、59金、99玉、68金、98玉、99飛、88玉、78金、99玉、29龍、98玉、89龍、同玉、79金、98玉、89金迄41手
金鋸だけに特化した作品となりました。
今回で14号が終わり次回からは昭和26年8月号(15号)です。

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