旧パラを検証する158
第十三号 7
テストケース 詰将棋憲法草案(1)
かねて読者から応募されたものの中の一篇をテストケースとして発表する。勿論異論があり意見があると思います。応募七篇の中之が最善と云う訳でなく、次号以下に於ても発表し、更にそれを検討考究して最後に完全な規定を得ると云う慎重な方法で進みたいと考えます。
読者各位の熱心な研究意見の発表をお願いします。御意見は第何回の第何条に対するものか明記して下さい。草案作成者の氏名は最後に発表します。
尚『詰将棋憲法』と云う名称についても適当な名称があれば之亦発表して下さい。
詰将棋憲法草案
第一章 総 則
第一条 詰将棋は玉一個と之に附随する若干の駒とから成立する
第二条 詰将棋は王手の連続に依って最後に必ず詰まなければならない
但し打歩詰を除く
第三条 詰将棋に於ける駒の性能は指将棋の場合と全く同様である
第四条 指将棋の禁制は、詰将棋に於ても適用される。従って二歩、打歩詰、行き所なき駒及び千日手は之を禁ずる突き歩詰は差支えない
第五条 攻め方は表示された持駒及び詰手順中に入手した駒を使用出来る。
第六条 玉方は攻め方持駒及び双方の盤駒以外の全ての駒を合駒として使用出来る。
第七条 駒の成る、成らずは双方の自由意志によつて最善を選ぶ事が出来る
第八条 盤駒及び持駒の中に不要駒が有ってはならない。
第二章 詰手順の原則
第九条 攻め方は最短手順を採って玉を追わなければならない
第十条 玉方は最長手順に逃げなければならない
但し第十五条に該当する場合を除く
第十一条 詰手順中に必ず一つ又はそれ以上の妙手を含まなければならない
但し妙手とは詰手順中に不可欠なるも常識的には発見の困難な着手を言う
第十二条 第一条より第十一条に至る各条の規定に従う詰手順が必ず唯一つ有る事を要す
る
第十三条 変化手順は必ず本手順より短いか、又は同手数なる事を要する
第十四条 詰め上りに於て攻め方の持駒が余ってはならない
第三章 詰手順の決定
第十五条 玉方、最長手順に逃げれば駒余りとなる場合にはたとえこれより短くとも駒の
余らぬ逃げ方の中最長の手順を以て正解とする
第十六条 詰手順中に於て玉方の応手に数種有り、何れも採るも同手数で詰む場合には次の規定に依る
一、攻め方に其の後種々の詰め手を与える応手を選んではならない
二、駒余りとなる手順が有ればたとえその余り駒が攻め方の廻り道に依るものであって
もその手順を選んではならない
三、第一項及び第二項に該当しない場合には攻め方にとって着手が難解又は紛れが多い
ため正着の決定に困難を感ずる逃げ方を正解とする
第十七条 第十六条の規定に依っては玉方の応手を決定する事の困難な場合には次の規定による
一、攻め方の駒を取る手と逃げる手とが有る場合には取る手を正解とする
二、攻め方の王手の駒を取る手とそれ以上の攻め方の駒を取る手とが有る場合には王手の駒を取る手を正解とする。
三、攻め方の駒を玉で取る手と玉以外の玉方の駒で取る手とが有る場合には玉以外の駒で取る手を正解とする
五、右の各項に該当しない場合には五五の位置に近づく逃げ方を正解とする
第十八条 攻め方の飛角香の王手に対し玉方が合駒する手と玉を逃げる手とが有る場合に
は次の規定依る
一、両者の詰手数の異なる場合には第十条の規定に従い長手数の方を正解とする
但し詰上りにその合駒が余る場合には合駒をしてはならない
二、両者が同手数の場合には合駒をしない手を正解とする
但し第十六条に該当する場合を除く
第十九条 第十八条第一項但し書の如き紛れを防ぐための遠駒による王手は攻め方に不利
な影響のない限り玉に近づき、又は近づけて打つ手を正解とする
第二十条 詰手順中に於て攻め方の着手に数種有り、何れを採っても詰む場合には次の規定に依る
一、詰手順中の最終の一手に於て玉を詰め得る駒が二個又はそれ以上有り何れも同手数で詰む場合には何れを選ぶも自由である
但し駒の種類の異なる場合には飛角金銀桂香歩の順に従い上位の駒で詰めるのが妥当である
二、最終手より以前に於ける場合は不完全作とする
但し第二十一条に該当する場合を除く
三、手順前後成立は不完全とする
第四章 附 則
第二十一条 第二十条第二項に違反する作品は次の場合に限り不完全作としない
一、一個所へ利いて居る攻め方の駒が二個又はそれ以上有り何れを採っても同手数で詰む場合
二、一個所で捨てる攻め方の駒が二個有り何れを先に捨てても同手数で詰む場合
三、数種の詰め手中一つが最短手順でその他全く此の廻り道に過ぎない場合
此の場合は当然第九条の規定に依る
第二十二条 玉方が最善の応手を採っても攻方の廻り道に依って合駒その他の駒が余る場
合に於ては作図に際して此の手順を防がなければならない
註一「最善」とは第十五条の規定に従う応手を意味する
註二「廻り道」の中には飛角香の捨駒を玉から離れた所に進め又は玉から離して打つ結果合駒その他の余る場合を含む
第二十三条 第十四条に違反し又は第二十一条に該当しない場合に於てもその作品が次の
何れかの項に該当するときは除外例を認める事が出来る
一、課題を与えられた場合、その他作品の趣向より見て軽微な瑕瑾は許容し得ると認められる場合
二、第一項以外の場合に於ても作品の価値が瑕瑾を補って余りが有り、不完全作を決定する事の惜しまれる場合
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草案者の名前を最後に明らかにするとありますが、明らかにされていないようです。誰
の草案かは不明ですが、ダメな所が多数あります。特に致命的なのは、第十五条で、この内容だと、100手1駒余り3手詰というのもあり得るので、とてつもない変長作品もOKになってしまいます。この条件だと、解答も難しいし余詰作の指摘もし難いと思います。
草案は次の14号(7月号)に載せて終わりだったようです。詰将棋のルールについては纏めて載せておいた方が解りやすいと思いますので、ここで7月号の草案について併記しておきます。
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第十三号(昭和26年7月号)より
テストケース 詰将棋憲法草案(2)
第一章 詰将棋の意義
詰将棋は指将棋のルールに準拠し、更に独自の規約を有するところの問題的形式をとる芸術的作品である。
詰将棋は指将棋のルールに準拠する。故に盤面、駒の種類、数、性能等すべて指将棋のルールがそのまま適用される。これが詰将棋と指将棋とが接触を保っている唯一の部分である。
詰将棋は独自の規約(第二章、第三章参照)を有する。而してここに詰将棋とは第二章に於ける要件を具備するもの−特に純正詰将棋、又は現代的詰将棋と呼ぶことがある−のみを云い、その他のものは原始的詰将棋乃至は大道詰将棋として本憲法の埒外とする。
詰将棋は芸術作品である。即ち詰将棋は駒という恐ろしく特殊なものによって美を追求し、表現するところの芸術である。
詰将棋は問題的形式をとる。詰将棋はその本質上当然かかる形式をとるわけであるが、これは芸術作品として特異な形態と云える。そして此の点が一般に、詰将棋をして指将棋のための一個の練習課題として、又は単なるパズル程度のものとして誤解せしめる所以でもある。
第二章 詰将棋の要件
詰将棋たるがためには左の各条件を具備していなければならない。
一、詰のあること
詰のないものはこれを不詰と云い、当然詰将棋としての資格を失う。
二、王将は一つであること
ゆえに詰将棋に於ては、詰める側即ち王を有しない側−攻方又は詰方と云う−と詰まされる側即ち王を有する側−王方という−とにはつきり分けられる。
三、詰将棋は唯一であること
もし他の手段でも詰むことが発見された場合は余詰があるという余詰のあるものは当然詰将棋としての資格を失う。そして余詰の中で作意手順より手数の短いものを特に早詰という。余詰はたとえそれが如何に手数の長い迂遠な方法であつても、苟くもそれが存在する以上は詰将棋と云うわけには行かない。
なお茲に詰手段というものは大局的な方針としての手段を意味するのであつて、一つの詰手段の途中に於ける部分的な手順が時に二つ以上に岐れることがあつても、また手順が前後しても結果に於て同じであるというようなことがあつても別に詰将棋の要件を欠くことにはならない。
四、詰上りに於て攻方の手駒が余らないこと。
詰上りとは本手順(第三章三参照)によつて生ずる最終局面のことであって、この要件を欠くものを俗に手余りの作品と云っている。
本手順とは極く簡単に云えば、王方が最長手数になるよう応酬したときに生ずる手順のことであるが時によると同手数又はより短い手数であつても、王方がわざと手余りにならぬよう逃げて、此の方を本手順とすることがある。しかもこれがこじつけでなく自然的な場合は、たとえ二手(四手以上は不可)位手数は短くとも詰上りに於て攻方の手駒の余らぬような王方の応酬によつて生ずる手順を本手順とすることが許されている(勿論作品的価値は著しく減少する)からこの場合は手余りにはならない。(これを準手余りと云う)
また王方の無意味な手数の引延しによつて攻方の手駒の余る場合も手余りではない。
手余りの作品は原始的詰将棋(古作物)又は大道詰将棋に於ては屡々見られるが、本憲法の対象とするところの純正詰将棋に於ては絶対にこれを認めない。
第三章 要件以外の詰将棋の規約
一、攻方の手番より開始し、攻方は王手の連続によつて王を詰めなければならない。
二、残り駒は全部王方の持駒である。
三、王方は最長手数なるよう応酬するものを原則とする。
而してかかる応酬によつて生ずる手順が一般に本手と云われているもので、それ以外の王方の応酬によつて生ずる手順を変化手順又は単に変化と云う。
しかしこれは飽くまでも原則としてであつて、手数は最長とならなくても、妙手その他の関係で、当然その方を本手順と看做すのが妥当であるよう場合には、特にその手順の方を本手順とし最長手数の方を変化することがある。既述(第二章四参照)のごとく王方が手余りにならぬよう応酬するのを本手順とした場合もこれに属する。しかしながら現今に於てはこのような作品は不純なものとして極力避けられなければならない。
なお、王方の全然無意味な手数の延長は認められない。
四、攻方は最短手数なるよう詰めなければならない。
第二章に於て述べたように、詰手段は唯一つでなければならないのであるが、ここで問題とするのは、一つの大局的な詰手段の途中に於て部分的な手順が二つ以上生じ、しかもそれ等の手順の手数に相違がある場合であつて、かかる場合攻方としてはその中で最も手数の短いものを選んで、これを本手順としなければならないのである。
此の規約は一見一王方は最長手数なるよう応酬すべし」と云う規約(第三章三参照)と矛盾するようであるが、要するに、最短手数なるような攻方の攻撃に対して、王方がこれまた最長手数なるように応酬するときに生ずる手順が即ち本手順に外ならないのであつてつまり本手順とは攻方と王方とが互に最善(詰将棋に於ては手数といふことを以て攻方又は王方が最善を盡したときに生ずる手順の謂なのである。
第四章 詰将棋の解答
一、作品が完全である場合の解答
作品が詰将棋としての要件を完全に具えている場合には、単に本手順は書かなくてよろしい。
ただ作品によつては、最長手順必ずしも作者の意図する本手順−作意手順−でない場合があるが、これは次の場合に生ずる。
イ、最長手順−最長手数なるごとき王方の応酬によつて生ずる手順−によると攻方の手駒の余るとき。
ロ、最長手順にくらべると手数は短いが、妙手をより多く含む王方手順−王方の応酬によつて生ずる手順−が存在するとき
右の場合は何れも第三章三に述べたように最長手順以外の手順を以て本手順とするのが
普通であるが、此の場合最長手数の方を本手順として解答しても毫も差支ない。現に如何なる場合に於ても最長手順を以て本手順とする主張(最長手順説)もあるほどである。例えばイの場合、ことさらに最長手順をやめて手余りにならぬように解答をつけるのは謂わば解答者の作者に対する好意であつて、それがすでに好意である以上、決して強要されるべき性質のものではない。意地悪く最長手順の方を本手順として手余り作品とされても作者から解答者に対して文句の云える筋合のものではなく、要するそのような不明朗な作品を作った作者自身に罪があるのである。
但し全然無意味な手数の引延しを書くと不正解になる惧れがあるから注意を要する。
次に攻方としては最短手数なるごとき詰め方をするのが本手順とされているが、前述の
ような部分的な手順の相違ある場合、解答としては苟くも詰みさえすれば、より長く手数の
かかる方を本手順として解答しても不正解ではない。これも罪は解答者になく作者にある
というべきである。尤もかかる場合は最短手数なるよう詰めるのが常識ではあるが。
二、作品が不完全である場合の解答
イ、余詰(早詰)があるときは作意手順−元来本手順となるべきもの−或は余詰手順のどち
らを書いても、解答として正解である。但し此の場合両者を共に書けばまさに完璧で、余詰
指摘賞でも特別に出したいところである。
ロ、不詰局の場合は「詰なし」と記入したものが正解である。此の場合、単に作意手順−実
はこれでは詰まない−だけを書いたものは当然不正解である。もし作意手順はしかじかの
手順と思うが、何手目に於て王方がかく応酬すれば詰がない。という工合に解答すればまこ
とに模範的である。 完
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本当の憲法みたいに第一章という前文のような部分がありますが、同じような文面が多く、くどくて解り難い。また、第二章以降も文書が長くて何を言っているのかよく解らないです。第四章の詰将棋の解答をわざわざ書くのは、可笑しい。詰将棋のルールで定義した詰手順を書けば良いだけだと思います。
以上2つの詰将棋のルールですが、個人で短期的に考えられたものなので、不完全な部分が多いと思います。ただ、叩き台としての意味はあったのだと思いますが、この時は詰将棋のルール制定については盛り上がらず、詰将棋のルール作りについては、このまま立ちえてしまいました。

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