旧パラを検証する94
第九号11
詰将棋学校の作品を紹介します。
幼稚園ハ 野崎雅男氏作 担当:鶴田諸兄

43飛、24玉、35馬、同馬、23飛成、15玉、26金、同馬、14龍迄9手
☆ヤジロベー型の好感の持てる形で詰手順も好手を含む。31香の存在を見落として誤解された方が多い。好作と信ず。
☆白子正史「好局の一言につきる。本月の1」
☆牛越盛麿「二三の点の攻め筋が見えたので苦労したが簡単。」
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初手が43金なのか43飛なのか、或は23金なのか23飛なのか?という作品で結構面白いと思います。正解は43飛〜35馬のコンビネーションで、以下も纏まった好作だと思います。左右対称なのも加点です。難解派の野崎氏としてはごく軽い作品でした。
ところで、野崎氏といえば詰将棋作家の橋本哲さんの叔父さんだと思いますが、お元気なのでしょうか?ご存命なら今年で100歳になられるはずなのですが、、、。
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中学校(B)杉山治氏作 担当:柴田龍彦

72金、同玉、63角成、82玉、73銀成、同桂、91銀、83玉、74金、92玉、82銀成、同玉、73金、91玉、92歩、同玉、84桂、91玉、81馬、同玉、72桂成、92玉、82金迄23手
小林淳之助「73銀捨から91銀のプロットは面白いです。」
菊間紀夫「近代型の詰棋」
須釜喜一郎「軽快にして妙作」
宇佐美正「玉から離れた角で巧に玉を追詰めてとどめを刺す手順は鮮やか。駒捌きも非常によい」
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実戦型で手順も中々です。小林氏の仰るとおり、5手目の73銀〜91銀が感じが良いです。その後も74金と据え付けたら82銀と捨てて73金と取る。流れが一本の線になっていて旨いです。最後は馬も消えての詰上がりで、好みの出来です。
しかし、この当時の担当は解説が無く、評を羅列して終わりという担当も多かったです。中学校担当の柴田龍彦氏と高等学校担当の大橋虚士氏はそうで、余詰順などは全手順紹介したりしていて、この当時としてはその作品がどういう感じなのかを載せて欲しかったものです。
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大学(A)高木秀次氏作 担当:麻植鉄山

A64金、同桂、B83角成、同桂、C74馬、54玉、63馬、65玉、57桂、同成桂、56金、同玉、47銀、同成桂、74馬、46玉、47馬、45玉、35飛、同玉、25金引、45玉、35金、同玉、24龍、同玉、25金、13玉、14金、12玉、13歩、11玉、23桂、同と、12歩成、同玉、23金、11玉、22と、同歩、12歩、21玉、65馬、43香打、同馬、同香、11歩成、同玉、13香、21玉、12香成迄51手詰
Aで57桂、同成桂、64金、同桂、83角成、同桂、74馬以下作意に戻る手順前後あり。
Bで57桂、同成桂、83角成、同桂、74馬以下作意に戻る手順前後あり。
Cで57桂、同成桂、74馬、54玉、63馬以下作意に戻る手順前後あり。
先ず、普通に進めてみると、馬を活用指せるため及び、61角の利きを通す64金は妥当で、次に57桂と打って57の地点を塞いでから56金と捨てるのが解っていても気持ちが良い手順。以下は47銀と捨てて馬追い手順に入り、39飛・24金・13龍を捌き捨てて11に追い込み、以下次図となります。

この局面は全く詰みません。ところでこの局面をよく見ると、54歩が無ければ65馬として詰みます。では54歩を消去する順がどこかにあったでしょうか?その答えが初型から64金、同桂とした3手目の局面です。この局面で74馬とすれば54歩は確かに消えますが、71桂があるので63馬と元位置回帰が出来ません。作意は更に捻って3手目に83角成、同桂の交換を入れてから、74馬〜63馬として54歩を消去する順でした。ここを切り抜ければ、先程の紛れ図の54歩が消えており、(61角がなくなり、71桂→83桂になっていますが)65馬以下合駒を食いちぎっての詰みとなります。
高木氏の作品としては易しい作品で、伏線が旨く表現されている好作だと思います。ただ、後の作品集「千早城」や「秀局回顧録下巻」には触れられていませんが、ABCの57桂を打つ時期がいつでもよいという手順前後の欠点があります。簡単な解消案としては、A手順を作意にして2手削る案でしょうか。
結構面白いと思うのですが、当時の解説の麻植鉄山氏の解説は
選者「のちに邪魔な自駒の五四歩を取除く趣向は古作物に多く現れている処で新味に乏しい古典型作品である。」
という、2行だけの酷評でした。次に解答者の評を転載します。
草柳俊一郎「この作者は探偵作家であります。始めは大した事もないと見過しやすい一小事件が後に至って俄然重大な意味を持つに至るという構想は探偵小説と同じで伏線作家とも称すべきか!」
鈴木昭夫「六手目五四歩を取らせた効果が四十三手の六五馬であらわれる。五四歩は歯車でひつかかつて居た障害物でした。」
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大学(B)山田修司氏作

25金、同玉、24角成、同玉、13銀生、15玉、24銀生、25玉、26歩、同玉、15銀、16玉、17歩、同玉、26銀、27玉、28歩、同玉、17銀、18玉、19歩、同玉、28銀、同玉、
21飛成、39玉、28龍、同玉、29金、27玉、18金、26玉、17金、25玉、16金、24玉、15金、23玉、A22飛成、同玉、34桂、イ13玉、14歩、23玉、22桂成、33玉、43角成、22玉、B32馬、12玉、13歩成、同玉、14金、12玉、23金迄55手詰
イで33玉は43角成、23玉、22桂成、13玉、14歩、22玉、32馬、12玉、13歩成、同玉、14金、12玉、23金迄55手の変同
Aで32飛成、13玉、22龍とする迂回手順あり
Bで32と、12玉、34馬、23銀、13歩成、同玉、35馬、24合、14香、同銀、24金、12玉、13金迄余詰
選者(麻植鉄山)「千鳥の銀は新作ではないが金でスリ上る手を組合せて趣向が生きてきた、唯終盤がはつきりしないのが惜しいと思う。」
千鳥の銀は新作では無いと書かれていますが、銀鋸に歩の打ち捨てがプラスされていて、十分新作だと思います。銀鋸+金追いでの一往復で楽しい趣向作品ですが、イの変同は確かにどちらが、作意か解らないところです。また、Bの余詰は旧パラ結果稿には指摘されていませんが、ありました。
その辺の諸々が解消された修正図が「夢の華第9番として収録されています。
「夢の華 第9番」

53角成、同桂、41飛、33玉、22銀生以下53手詰
序の角捨て〜41飛の設置が入り、76金の質駒が無くなるなど流石の修正図です。最後に山田氏が当時大いに励まされた土屋氏の評を引用します。
土屋健「山田君一流の趣向的作品で有馬康晴氏が生き返って見れば膝を叩いて喜ぶであろう。行きの「千鳥銀」を一つの妙手、帰りの「追い上げ金」を一つの妙手と考える。駒の配置に無理がなく詰上りが亦一応のまとまりがあり、収束も好手を缺くが美麗である。作者の感覚は実に詰将棋を楽しむ為に先天的にピッタリして居る。頭脳的知的遊戯として見る時本作品は解く者に深々たる興味を呼び起す図であり、愉快に楽しみながら詰上る点は近代的作品として高く買わねばならぬ、佳作」
これで第九号の紹介は終わり、次号は「百人一局集」が別冊付録についた空前絶後の昭和二十六年正月号(第十号)の紹介となります。

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