旧パラを検証する93
第九号10
作家紹介 谷向(タニムカイ)奇道 本名 弘 兵庫県西宮局内今津水波町一七二
ヤアヤア、遠からん者は往復はがきにて尋ね、近くは日時をお知らせの上お訪ね召されよ、吾こそは摂津西宮に在住いたす詰将棋作家谷向奇道でおぢやる。昭和庚午睦月半はつ雪芬々と降るさなか此の世に生を享け申し、当才とつて二十.大阪大学の医学部に在学中でおぢやる。趣味としての詰将棋研究もさる事乍ら、本業の医学にも亦全力を傾倒いたして、その成果見るべきものがおぢやれば、志ある同人、吾がもとをお訪ねある節は一つしかない大事な生命を二つに増やして差上げ申す。ゆめゆめ疑ふことおぢやるな−イヤハヤ―
そもそも詰将棋作家と申すものは如何に卓絶せる意見を吐きおぢやるとも、その作品が芸術的ならでは叶はぬものとお知り召されよ。吾が創作は偏にこの持論に従って進みつゝおぢやる。現在の傾向として、好みは実戦型に狙ひは難解なる中篇作におぢやれども、歳未だ二旬を経ざれば、今後、創作に関するあらゆる試みを経んと存じ申す。又、自らもつとめ、後進者にも薦めたき心構へと申しては、それぞれ自己の能力の範囲にて正々堂々の完全作を創作いたすことでおぢやる。
これらの條につき申しては、詰将棋解剖学において静かに発表の心算にておぢやれば、茲に割愛するをお許しあれ。
拙著としては将棋芸術誌に掲載いたせし、「数理的詰将棋鑑賞法」「奇道詰将棋考」「詰有りや否や愚見」等がおぢやる。「奇道詰将棋考」は吾が創作史の形式をとりてその合間々々に創作の秘傳を傳へしものにておぢやれば、志ある方々は、付いて御覧あれかし。
此の程、臥龍前田三桂翁を北摂の翠荘に訪ね御高見を叩きしに、懐旧談百出、論議風発盛夏夕闇せまるを覚えざるを態におぢやれば、失礼御免は免許皆伝を得たりと独り合点、猿真似とはかくの如きものでおぢやるテ。
アツハツハツ 失礼御免
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「おぢやる」という言葉を多用しているのが気持ち悪い文書だというのが私の素直な感想です。医学部の学生なのに医学の成果に見るべきものがあるというのは、冗談を含むとしても凄い自信ですね。詰将棋に関して芸術的作品を創作しなくては、意見は通らないという趣旨のことを書いておられますが、これは鑑賞者や解答者の意見をないがしろにしている感じで同意できないところです。もっとも谷向氏がこれを書いたのが20才ということを考慮すれば、若いからとも言えますけど、、。
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懸賞 板谷八段詰将棋
編集顧問の板谷四郎八段の詰将棋が載っています。以下【】内は旧パラの記事それ以外は私の記述です。
【板谷八段の作品は創刊号でも紹介したが久し振りに本号で五題お目に掛けましょう。
実戦型のゴツゴツした八段の棋風を思わせる作品もあり詰将棋は得意でないと云う板谷氏の作品は専門家の間では相当高く評価されて居るようで、お慰みに懸賞を附してみましたから奮って解答を寄せて下さい。】
板谷先生の作品が専門家の間で相当高く評価されているというのは、私はこの記事意外に見た事も聞いたこともありません。また五題中三題が簡単な余詰でした。そして完全作の第二題の解説(無記名ですが恐らく鶴田主幹)は【☆本局平凡である。】の一言だけで、選題の言葉で持ち上げているのに酷評しています。作品ははっきり言ってどれも面白くありません。その中で一番ましで完全作の第五題を紹介します。

【解 23香成、イ同銀、22銀、同角、25桂、12玉、13銀、同角、同桂成、同玉、22角、12玉、11角成、13玉、22馬引、24玉、35馬、15玉、33馬、16玉、26馬迄21手
イ同銀の処同玉は
34銀、12玉、24桂、13玉、22馬、同角、12桂成、同玉、23銀打13玉、14銀成、12玉、23銀成、21玉、32銀、11玉、12香迄
☆本局変化相当複雑で板谷八段の作風を良くあらわしていると思います。
◇解答者総数 四八七名
◇全題正解者 三二九名】
2手目の変化と3手目22銀迄は良いと思いますが、以下は流れて終わります。創刊号の板谷八段の懸賞詰将棋の解答は80名程度あり、3問全問正解者は16名だったことを考えると、解答数は激増しています。もっとも創刊号は21手〜47手、今回は11手〜21手だったので単純比較も出来ませんけど。
また、解答の当選者に有吉道夫(岡山)とあり、後の有吉九段と思われます。この時15歳で、翌年大山九段に一番弟子として入門することになります。

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