大阪の堺市民会館大ホールで行われた
堺シティオペラ第22回定期公演を観ました。
演目はJ.クヴァピル台本・A.ドヴォルザーク作曲による
オペラ『ルサルカ』。
原語はチェコ語ですが、
今回は作曲者が了承したとされる
ドイツ語版によって上演されました。
実は、僕の母方の実家が堺にあり、
この団体のことは早くから知っており、
注目していました。
しかし、いつも予定が合わず、
拝見する機会を逸してきましたが、
今回、やっと念願叶って、
拝見することができました。
指揮と演出、キャストは以下の通り。
指揮:クリストフ・カンペストリーニ
演出:岩田達宗
ルサルカ:並河寿美
水界の王:片桐直樹
王子:竹内直紀
魔法使い:堀内優子
皇女:佐藤路子
森番:雁木悟
皿洗い:中西麻貴
樹の精T:北野智子
樹の精U:石本由紀子
樹の精V:林裕子
狩人:神田行雄
管弦楽:大阪シンフォニカー交響楽団
合唱:堺シティオペラ合唱団
『ルサルカ』は19世紀に流行した水の精にまつわる妖精物語(水の精が人間の男性に恋をしたことから起こる悲劇)を題材にしています。フーケの小説『ウンディーネ』やアンデルセンの童話『人魚姫』が同じ題材であると言えば、この物語の内容が大体おわかり頂けると思います。
水の精ルサルカは湖に水浴に来る王子に恋してしまいました。水界の王は、そのような恋はうまくいかず、思いとどまるよう、ルサルカを説得しますが、彼女はそれを聞き入れません。水界の王は仕方なく、魔女に頼めば人間にしてくれると言って、湖の中に姿を消します。ルサルカは魔女を訪ね、自分を人間にしてほしいと頼みます。しかし、人間になる代償に、言葉を話すことができない、王子が裏切って恋が破綻すると、ルサルカは水の世界にも戻ることはできないし、二人とも永遠に呪いをかけられてしまう、その呪いを解くためには王子の命が必要となるのです。しかし、王子への愛が全てであるルサルカはこの取引きに応じ、人間となります。翌朝、王子は湖のほとりで、美しい人間の乙女になったルサルカに出会います。その美しさに王子はたちまち恋に落ちるのでした。
その後、城では王子とルサルカの婚礼の準備が進みます。しかし、口がきけなくて、情熱を感じることのない冷たい体のルサルカへの愛は冷めてしまい、王子は結婚の祝宴に招かれたある外国の皇女に夢中となります。王子の裏切りを知ったルサルカは深く傷つきます。王子の心変わりを知った水界の王は激しく怒り、彼に呪いの言葉をかけて、ルサルカを連れ帰ってしまいます。この出来事に王子は仰天し、皇女に助けを求めますが、皇女は見捨てて、去ってしまうのでした。
ルサルカは、仲間からも見放され、水界にも戻ることもできず、永遠に彷徨わなければ運命となりました。王子の命を奪わない限り、彼女は救われないのです。魔女はルサルカに王子を殺害するためにナイフを差し出しますが、まだ王子を愛しているルサルカはナイフを捨ててしまいます。夜明け近く、王子が湖のほとりに現れます。皇女に見捨てられて初めて、自分のした酷い仕打ちに気付いた王子はルサルカに詫び、許しを乞います。王子は自らの心の安息を求めてルサルカに口づけしようとしますが、彼女は拒みます。なぜなら、彼女と口づけしてしまったら、王子は死んでしまうからです。しかし、王子はルサルカの口づけこそわが安らぎと懇願します。ルサルカは彼の願いを聞き入れ、彼に口づけしました。すると、ルサルカにかけられていた呪いが解け、息絶えた王子とともにルサルカは湖の底へと沈んでいくのでした。
A.ドヴォルザークのオペラ『ルサルカ』の存在は知っていましたが、生の舞台はもちろんのこと、録音や映像資料でも観聴きしたことはありませんでした。ですから、どんな音楽なのか、どんな舞台になるのか、楽しみにして、行きました。
堺シティオペラの『ルサルカ』は僕の期待を裏切らないものでした。
まず、ドヴォルザークの音楽が素晴らしい。美しい音楽が随所に散りばめられ、それぞれのキャラクターが生かされ、観る側を飽きさせない構成でした。
岩田達宗さんの演出はそれを巧みに舞台化しました。紗幕や照明、遠近法で水中と地上を表現。それは美しく、幻想的で、創造的でした。また、それぞれのキャラクターを掘り下げ、物語の深層に迫りました。
キャストもそれに応えて、演じられました。
ルサルカを演じられた並河寿美さんは関西を代表するソプラノで、活躍の場は全国に及んでいます。美声、素晴らしい音楽性、美しい立ち振る舞い。主役に相応しい風格を備えていらっしゃいます。ルサルカの心理の移ろいを見事に表現されました。
水界の王役の片桐直樹さんは関西を代表するバリトンのおひとり。恵まれた体格と声で、威厳があり、なおかつ娘ルサルカを失った悲しい父を演じられました。
王子役の竹内直紀さんはおそらく関西の若手テノールのナンバーワンでしょう。どの音域もムラなく響き、安定した歌唱を披露しました。
佐藤路子さんの皇女も素晴らしかったです。主役の並河さんに負けず劣らずの声と演技。それゆえに、ルサルカと結婚する王子を惑わし、そして捨てる強い女性を演じられるというものです。
魔女役の堀内優子さんは魅力的な声と幅広い表現力をお持ちです。高音が安定すれば、素晴らしいメッゾ・ソプラノになるでしょう。
樹の精のお三方、北野智子さん、石本由紀子さん、林裕子さんは、このオペラの最初の登場人物として観客をその世界へと導き、また最後ではクライマックスへと導くという、また常に3人一緒という難しい役どころを好演。
雁気悟さんが演じられた森番、中西麻貴さんが演じられた皿洗いはコミカルな役。それでいて、時には物語の深層を語る。他の役とは違う存在感を示しました。
キャストや合唱、オーケストラを束ね、音楽的なことの全てを一手に引き受け、音響が決して良いとは言えない会場で見事なバランスを作った指揮者、C.カンペストリーニさんの手腕も特筆すべきです。
さて、一方で僕が思ったのは、このプロダクションが8日と9日のたった2日間で終わってしまうのはもったいないということ。回数を重ねるごとに音楽も演出も全てのことが練られていくのです。しかし、現在の日本の状況ではそれは難しいでしょうね。日本はオペラが盛んになったと言っても、まだまだ現状は厳しい。
どうしたらひとつの質の良いプロダクションでたくさんの公演ができるか、考えていかなければならないでしょう。