新作オペラ
しのぶときく
脚本:北澤あさこ
作曲:植松さやか
2022年3月21日(月祝) 終了
長浜文化芸術会館大ホール
主催
長浜市
長浜市民芸術文化創造協議会
主管
特定非営利活動法人はまかる
後援
長浜市教育委員会
お問い合わせ
特定非営利活動法人はまかる
TEL:0749−63−7400
Eメール:nagahama-culture@hamacul.or.jp
きく(漁師の姉娘):栗原未和
しのぶ(漁師の妹娘):上田楽々
音吉(姉妹の父):林隆史
彦次郎(姉妹の幼馴染):蔦谷明夫
京極(長浜城築城を任された大名):岡田通利
指揮:
中村貴志
演出:北澤あさこ
ピアノ:植松さやか
ヴァイオリン:藪野巨倫
合唱:長浜市民創造オペラ合唱団
助演:岩口浩平(
劇団プラネットカンパニー)
舞台監督:坂伸彦
合唱指導:鳥塚貴絵
合唱ピアノ:上田直子
照明:山本五六、森喜咲
衣装:井口真帆
宣伝美術:前川有季
宣伝写真:ツジタシンヤ
記録写真:西川史朗
制作:井口真帆、安藤こず恵
動画配信:
株式会社きゃんせ
企画制作:磯崎真一
題字協力
滋賀県立伊吹高等学校書道部
衣装協力
時代工房一助朋月
展示協力
長浜城歴史博物館
物販協力
柏屋老舗(和菓子)
合同会社kei-fu(和紅茶・ほうじ茶)
株式会社鳥塚(稚鮎煮)
協力
オペラ合唱団ノルド・デル・ラーゴ
長浜市少年少女合唱団「輝らりキッズ」
長浜市民創造オペラの企画が立ちあがったのはちょうど2年前、新型コロナ・ウィルス禍が始まった頃と伺いました。そして、私が指揮のご依頼を頂いたのは2020年の夏。先行きは不透明、諸々の制限が課せられる中、本当に開催できるのかという不安を常に抱えながらも制作を進め、稽古を重ね、お陰様で本番を終えることができました。新型コロナ・ウィルス感染拡大の第6波が収まりつつあるとは言え、まだ落ち着かない中、ご来場くださいました方々、また貴重なお時間を割いてご視聴くださいました方々に心から御礼申し上げます。また、厳しい状況下で開催に向けてご尽力くださった関係者各位と出演者各位、舞台を支えてくださったスタッフ各位に敬意を表します。
今回は北澤あさこさんによる脚本、植松さやかさんの作曲によるオペラ『しのぶときく』の新制作、世界初演でした。この物語の題材となったのはおよそ450年前、羽柴(後に豊臣)秀吉の命による長浜城築城に際して捧げられた人柱の伝説が元になっています。人柱とは大きな施設を造る際、人を生き埋めにしたり、生きたまま水に沈めたりして、その無事の完成を祈ること。
人柱が実際に行われたかどうかは別にして、お二人は単なる地元の過去を伝承するオペラではなく、この人柱伝説を通じて人間の普遍性を見出し、現代に通じるものとして作られました。人柱という大きな悲劇、しかし当時としては避けることもどうすることもできない風習に直面し、人はどう変化し、どう生きていくか、あるいはどう生き抜いていくかが根底にあるテーマ。われわれ現代人は今新型コロナ・ウィルスの世界的感染拡大に翻弄され、加えて世界にはロシアのウクライナ侵攻による不穏な空気が漂っています。また、地震や大雨、大雪などの天災にも見舞われます。人類の歴史はそういった犠牲の上に成り立っていると言えるのかもしれません。そういった犠牲を生きる者は忘れてはいけない。
北澤さんと植松さんはこの重たいテーマを言葉と音楽で見事に構成し、上演時間が80分とコンパクトながらも、わかりやすく、それでいて劇的で内容の濃い充実したオペラに仕上げられました。
適材適所という言葉がありますが、今回のキャストがまさにそれ。いずれも実力派であり、遜色なく、それぞれが自らの役柄を的確につかみ、圧倒的なパフォーマンスを繰り広げました。しかも、全員が滋賀県と縁があるという奇跡のようなキャスティングでした。
長浜市民創造オペラの「真の主役」は何と言っても合唱。皆のこの舞台にかける意気込みが半端なく、チームワークも素晴らしく、18名とは思えない圧倒的なパフォーマンスで民衆の集団心理を表出し、舞台を盛り上げました。
熱演するキャストと合唱、そのパフォーマンスを彩るピアノとヴァイオリン、それらを裏から支えるスタッフが一丸となった舞台を指揮できた喜びがいかに大きいことか!市民参加型のイベント、市民オペラの枠を越えて、優れた作品、優れた舞台が出来上がったと自負しています。このような素晴らしいプロダクションに指揮者として関われたことは私の音楽人生の大きな財産です。
長浜市で指揮をさせていただいたのは2015年の『
オテロ』、2016年の『
道化師』に続いて今回で3度目。この地で素晴らしい方々と共演を重ねられたことを心からうれしく思います。
一方で、このオペラの舞台となった長浜城が耐震工事で閉鎖されていて、オペラと合わせてご観覧いただけなかったことが残念です。2024年は長浜城築城450年にあたるとのこと。その際に記念事業の一つとして是非ともオペラ『しのぶときく』を再演してほしいと切に望みます。このオペラは再演されるにふさわしい作品であり、いっそう深みが増すに違いありません。そうやって作品は成長し、文化も確固たるものになっていくのです。
本番の写真。第1幕冒頭。
こちらも本番の写真。題名役のしのぶ(右:上田楽々)ときく(左:栗原未和)。
素晴らしい才能を持った音楽家たち。1列目左からヴァイオリンの藪野巨倫さん、しのぶ役の上田楽々さん、きく役の栗原未和さん、作曲・ピアノの植松さやかさん、2列目左から京極役の岡田通利さん、彦次郎役の蔦谷明夫さん、音吉役の林隆史さん、そして私。
一丸となって素晴らしい舞台を作り上げた方々と。