2018年9月5日(水) 無事終了
豊中市立文化芸術センター小ホール
お問い合わせ operapplepie@gmail.com
主催
オペラ「アップルパイの午後」実行委員会
後援
大阪音楽大学同窓会《幸楽会》
公益社団法人関西二期会
尾崎翠フォーラム
1部 『アップルパイの午後』原作朗読
特別ゲスト:村西利恵(
関西テレビアナウンサー)
2部 オペラ『アップルパイの午後』(世界初演)
原作:尾崎翠
台本:熊谷綾乃・黒田まさき
作曲:
なかむらたかし
演出:中村敬一
舞台監督:佐々木彩乃
字幕操作:岩本実奈子
兄:
黒田まさき(バリトン)
妹:熊谷綾乃(ソプラノ)
友達:チョン・キヒョン(テノール)
ピアノ:須山由梨
僕の最新作のオペラ『アップルパイの午後』は5日(水)に初演して頂きました。本番の1週間前の天気予報では台風21号がちょうど本番の日に関西を直撃する予想でした。バリトン歌手の黒田まさきさんが尾崎翠の戯曲『アップルパイの午後』に出会い、オペラ化を計画したのは2年前とのこと。長い年月をかけて進めてきたこのプロジェクトが無事に上演されるという形になったのは本当にありがたいこと。ご来場下さいました皆様に心から御礼申し上げます。
僕がこのオペラの作曲のご依頼を頂いたのは昨年の1月末。意気揚々と引き受けたものの、実際の戯曲を見て、びっくり仰天。何だ!?この言葉の使い方は!?「独特な」あるいは「シュールな」という言葉では簡単に表現できない尾崎翠の言葉の世界にただただ驚嘆するばかりで、この言葉をどう音にするか、全くアイデアが浮かびませんでした。一時期は(いや、かなりの間)逃避するほど悩みましたよ(笑)。
ひらめきは突然やってきます。尾崎翠のこの戯曲は「懶(ものう)い日曜日」という一文で始まります。冒頭を気だるいブルースで始められないかという漠然としたアイデアは早い段階からありましたが、今年の3月末からそのアイデアが膨らみ始め、ブルースで始まり、ワルツ、ロックンロール、モーツァルトの『フィガロの結婚』、フラメンコ、ハバネラ、タンゴ、ミュージカル、R.シュトラウスの『薔薇の騎士』(+ドイツの後期ロマン派の音楽)、プーランク、プッチーニの『ラ・ボエーム』など、あらゆるジャンルの音楽、名オペラのパロディという方向性を見いだしました。
作曲する上でもうひとつ気を付けたのは、わかりやすい素材を用いながらもどこか「変」であること。尾崎翠の「おかしさ」を音楽的技法でデフォルメして変てこだけれど、聴きやすい音楽を目指しました。
実際に作曲の作業に入ったのはゴールデンウィーク が明けてから。まず10日間ほどで前半を完成させました。その後、後半も10日ほどで完成させましたが、僕の気に入らず破棄して、練り直して作曲をやり直し、全体を完成させるのに2ヶ月ほどかかりました。しかし、こんな曲をあの黒田まさきさんが、あるいはあの熊谷綾乃さんが歌ったらどんなふうになるだろう、お客様はどんな反応を示すだろうと楽しみながら作曲しました。
名実ともに最高のオペラ演出家である中村敬一先生(僕はこれまでに2回合唱指揮者としてご一緒させて頂きました)の台本と音楽を生かした演出は「さすが!」の一言。スライドによる尾崎翠の解説に始まり、原作の朗読を経てオペラ上演に至る公演全体の構成も素晴らしかった。
兄役の黒田さんと妹役の熊谷さん、友達役のチョン・キヒョンさん、ピアノの須山由梨さんは大熱演で(ゲネプロを含めれば1日3公演!)、敬一先生の素晴らしい演出と相まって新作オペラを魅力あふれる舞台に仕上げてくれました。上演時間は40分ほどですが、おそらく2幕もののオペラに匹敵する熱量が必要な作品で、「ひねり」も多く大変だったことでしょう。作品を生かすも殺すも最後は演奏者次第だと僕は考えますが、経験豊かなオペラ演出家の導きとスタッフたちの支え、才能ある音楽家たちの卓越した演唱により、オペラ『アップルパイの午後』に命が吹き込まれました。作曲家冥利に尽きます。
オペラ上演に先立って、関西テレビアナウンサーの村西利恵さんによる原作の朗読がありましたが、オペラとは趣を異にしており(僕とは捉え方が違っており)、非常に興味深く拝聴しました。
ピアノ伴奏による1幕もののオペラ、上演時間40分ほどの決して大きくない作品ですが、これまでになかった僕の可能性を引き出し、新境地を開いてくれました。このような機会を与えて下さった黒田まさきさんをはじめ、関係者の皆様に心から御礼申し上げます。
photo by 瀬田雅巳
この公演のダイジェスト映像ができました。是非ご覧下さい。
オペラ「アップルパイの午後」ダイジェスト映像
youtube:zvne3FWWMf0