いずみホールで行われました「晴雅彦バリトン・リサイタル」を聴きに行ってきました。
晴さんは大阪音楽大学を卒業後、文化庁派遣芸術家在外研修員としてドイツのベルリンに留学。ドイツのケムニッツ歌劇場における『魔笛』のパパゲーノ役でヨーロッパデビュー後、同歌劇場の『ヘンゼルとグレーテル』『ウィンザーの陽気な女房たち』、ザクセン州立劇場の『蝶々夫人』、ラインスベルク音楽祭の『ヴァルター』、スウェーデンのヴァドステーナ音楽祭の『ヴァルター』等に出演。国内でもオペラにコンサートと大活躍しています。
晴さんとは一度だけ仕事をしたことがあります。僕が初めてオペラの合唱指揮をした、大阪国際フェスティバルの『ラ・ボエーム』(指揮・演出:井上道義)で、キャラクターの強いアルチンドーロで出演されていました。演技力が抜群で、しかも歌唱も安定していたので、強く印象に残りました(その後は残念なことに接点がないままにきていますが)。それゆえに晴さんの魅力が存分に味わえるリサイタルとあって、とても楽しみにして、会場へ足を運びました。
曲目はオペラ・アリアで統一されていました。オペラを得意とする晴さんならではの選曲です。曲目の詳細は以下の通り。
G.F.ヘンデル 『セルセ』より、"樹木の陰で(オンブラ・マイ・フ)"
W.A.モーツァルト 『フィガロの結婚』より、
"訴訟に勝っただと!〜わしがため息をついている間に"
.A.モーツァルト 『魔笛』より"おいらは鳥刺し"、"恋人か女房がいれば"
G.A.ロルツィング 『密猟者』より"何と親しげに輝く〜晴れやかな気分と楽しい心"
E.W.コルンゴルト 『死の都』より"私の憧れ、私の迷い"
A.ベルク 『ルル』より"さぁ猛獣の園においで下さい"
G.ヴェルディ 『運命の力』より"全く…!何てこった!なんてざまだ!"
G.ヴェルディ 『ドン・カルロ』より"おおカルロ、お聞き下さい〜私は死にます"
P.I.チャイコフスキー 『スペードの女王』から"私は貴女を愛しております"
ご覧の通り、バロックから20世紀に至るまで、そしてイタリア・オペラあり、ドイツ・オペラあり、ロシア・オペラありと、幅広い。
本番は「素晴らしい」の一言に尽きました。美声で歌唱が安定し、言葉の発音が美しい。そして何よりも、作品毎に衣装を変え、小道具を効果的に用い、それぞれのキャラクターを的確に掴み、迫真の演技を披露されました。ある時はすっきりと歌い上げ、ある時は顔の表情だけで聴衆(いや、観客というべきかもしれない)の心をグッと掴みました。お得意の『魔笛で』は客席内も縦横無尽に走ってお客さんを沸かせ、ベルクの『ルル』では奇抜な衣装と小道具、特徴的な演技で笑いを誘い、最後はシリアスな役所で聴衆を感動させました。アンコールはミュージカルから3曲。ステージマナーも非常に美しく、エンターテイナーぶりを十二分に発揮されました。ここまでリサイタルで楽しめたのはこれが初めて。クラシック音楽がエンターテイメントになりうることを証明されました。
晴さんは今後も一流音楽家との舞台が続き、さらなる活躍が大いに期待されます。