※素人小説です。
※「亜種」じゃなくて「派生キャラ」に直した方がいいのでしょうか……
[ 102 ]
飲みたいから飲むのではない。飲まなければやっていられないから、ハクは酒を飲むのだ。
口元まで出かかった暗い気持ちや言葉を、アルコールで胃へと押し流す。そうしていれば、やがて酔いがそんな気持ちを薄れさせ、言葉をも忘れさせてくれる。
今もまた、酒の力を借りたい気持ちになっていた。抗いたくも、己の力では抗いきれない現実を突きつけられ、酔いのまどろみへと逃げ込みたくなる……。
缶ビールに口をつける……よりも早く、どこからか音楽が聴こえてくる。早くも酔ったか……と思いきや、そうではないらしい事に気がつく。
「誰の携帯?」
「僕じゃないよ」
視線がハクに注がれる。それは確かにハクの携帯だった。
メールの着信が一件、差出人は羽衣未来となっていた。小さな画面を、三人が額を寄せ合って読みあうと、三人の眉根が寄り合った。
その文面から読み取れることが確かであるとするならば――
「昨日の今日であそこに行くなんて、どういう心境だろうね?」
カイトの疑問はもっともだった。メイコも同調して頷く。
ただ、ハクは違った。昨夜をネルと共に過ごしたから、彼女の気持ちが分かるような気がした。
「……いや、多分、昨日の今日、だからだと思う……」
呟きに二人の表情が変わる。
「……まだ、昨日の出来事だから……その、なんて言うか……まだ終わってないんじゃないかな……」
「終わってない?」
無言で頷く。
「気持ちが、まだあの場所にあるんだと思う……あそこに置いてきぼりにしてきた、想いに引き寄せられているんじゃいかなって。
でもそれは、きっと後ろ向きな気持ちとかじゃなくて……」
「何か、考えがあってのコト?」
「……だと、思います」
文面では、あくまでもミクの推測でしかないとなっていた。だがハクにとっては――それは、他の皆もそうだという確信めいたものがあったが――間違いなく、そうであると思われた。
暫くは静かな空気が辺りを包んでいたが、やがてメイコがフムンと鼻を鳴らす。
「……カイト、まだアルコール飲んでないわよね?」
「そりゃ、まあ。運転手だからね」
「じゃあ、すぐにワゴン車の準備して。それと撮影機材……は簡単なヤツでいいわ。カメラとマイクだけあれば、何とかなるでしょ」
突然の指示にカイトは呆気にとられていたが、すぐに慌てて部屋を駆け出していった。
そこへ、またもハクの携帯に着信が入る。今度は電話だった。
「アク? おはよう。どうしたの?」
『ねーさん、おはよ。ミクのメール見た?』
やはり、他の皆の下へも送信されていたようだ。
「うん、今丁度見たトコ。びっくりしたよ」
『だよねー。でさ、突然でアレだけど、メイコさんと連絡って取れるかな?』
電話口の向こうから聞こえる声は、なにやら切羽詰った様子のように思われた。
「丁度、隣にいるわよ」
目で合図を送り、携帯を手渡す。
メイコは一旦驚いたような表情を見せたが、すぐにあれこれと質問を始め、やがて何かの打ち合わせのような雰囲気になっていくのは掴むことが出来た。
何を話しているかは分からなかった。そもそもアクがメイコを名指しで指名するという事が珍しい。どういった事情だろうか。
アクとの通話が終わる頃には、どこか投げやりだった様子は既に伺えなくなっていた。たったあれだけの時間に会話を交わしただけで、こうも見違えるとは……そう思いながら最後に携帯を受け取ると、まだ通話の繋がっているアクに声をかける。
「もしもし? なに話してたの?」
『まだ、チャンスが残されてるかも、って話。とにかく、ねーさんも合流しなよ、こっちも今から高速降りるからさ』
わけがわからない……ながらも、その言葉に不思議と胸が奮い立つ。
その言葉を信じるのであれば、足りなかった「なにか」が見つかったような、奇妙な高揚感と、電撃的に体を駆け巡る衝動が酔いかけた目を醒まさせた。
[ 続く ]

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