
「石川近代文学全集・井上靖」を時々紐解いたりしています。
こちらは旧制四高における高専柔道の世界を描いた「北の海」全編に加え、「青春を賭ける一つの情熱」など、主にそれにまつわるコラムを収録したものです。
何事も、もちろん生涯を通じて追求することも素晴らしいことですが、井上靖氏のこれらの作品からは、あたかも人間修行の期間であるかのように、学生時代の限られた時間で一つのことに情熱を傾けるといったことに、崇高なる感動を覚えるところです。
さて、井上氏というと、自分は必ず柔道の最初の師であった稲沢正一先生のことを思い出します。
先生は旧制富山高時代、高専柔道大会において井上氏と引き分け、チームとしては四高を破った経歴を持っていたそうです。

1991年10月20日、母校が「四大学柔道優勝大会」にて優勝したときのもの。
後列左から2人目が稲沢先生です。
自分の後ろにいらっしゃるのが、学生時代に師事した榎先生。
稲沢先生の左は牛島辰熊先生のご長男で、大変お世話になった先輩です。
稲沢先生は講道館の段位としては6段とまりでしたが、高齢になられてから何度も昇段の勧めがあったそうです。
その都度「(年齢的に)自分はどんどん弱くなっているのに、段位が上がるというのはおかしくないかね?」と固辞されたとのことです。
また反面、「自分は(若いころはそうではなかったけれど)同年代で現在一番強い柔道家の一人だと思っている。」と、75歳で相手のエントリーがいなくなるまで高段者大会に出場しつづけました。
高専柔道時代のライバル・井上氏とは対極的に、90歳を超えても柔道衣を着て道場に立ち、生涯武道を貫いた稲沢先生。
鬼籍に入られて10年以上が経ちました。
自分も、少しでもその姿に近づけるよう、体に気をつけて頑張りたいところです。

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