ギブソンEB-3、ロータリースイッチの検証の続きです。
EB-3は「3回路4接点のロータリースイッチで2つのピックアップを切り替えながらフィルター回路の切り替えも行ってサウンドバリエーションを得る」と言う設計思想である訳ですが・・・ロータリースイッチの接点切り替えの特性で変わった現象が起きるのです。
ロータリースイッチは無線機等に良く使われていて、受信/送信の周波数帯切り替えなどに良く使われていると言う印象があります。
(父が無線マニアだったので、私がその手の機材を子供の頃からよく見ているのでそう感じるのかも知れませんが)
代表的な物としては、昔のテレビのチャンネル切り替えスイッチが挙げられると思います。
ロータリースイッチの構造的な特性として「接触子が接点を移動する際、二つの接点を同時に導通させる事がある」が上げられます。
これは接点移動の際、接触子が2つの接点両方から離れてしまう事を避けるための構造です。
この特性が「裏ワザ」になったのがフェンダー・ストラトキャスターのスイッチです。
ストラト(及びテレキャスター)のスイッチはロータリースイッチを横置きにした構造だと考えれば判りやすいと思います。
本来なら3つのピックアップのどれを使うか選択する3点スイッチだったのが、切り替え途中で止める事で2つの接点が導通し「フロント+センター」と「リア+センター」と言う複数のピックアップを並列に出力できる「ハーフトーン」がストラトの個性になり、この位置でも止まるようにした5点スイッチは今や標準装備です。
EB-3回路図(再掲)
ポジション3に注目して下さい。
このポジションでは、バンドパスフィルターが掛かったフロントPUとリアPUのミックスと言う回路です。
実はこのスイッチ、ポジション3の近くに「ハーフトーン的ポジション」が出現するのです。しかも複数!
ハッキリ判るのは3と4の間で3寄りの所、2と3の間の3寄りでも現れますが3〜4間の3寄りの方が合わせやすい感じです。
さらに3〜4間の4寄りになると何故かポジション1の音が現れてから4に切り替わるのです。
逆方向の2〜3間の3寄りから2に向けて回して行くと、一瞬音が途切れるポジションが有りますがこれは実にピンポイントで、普通に回す分には音が途切れる事は有りません。
この「ポジション3と4の間、3寄り」のトーン、3のトーンよりも少し太さがあって比較的使いやすい音色なので、私がEB-3を使う時はこのポジションが基本となっています。
ではこの「3と4の間、3寄り」の時、回路はどうなっているのでしょう?
恐らくこの状態では?
「3と4の間、3寄り」を仮に「ポジション3.3」と命名しましょう(笑)
ポジション3で繋がっていた3回路スイッチの接点のうち1つが離れてしまう事で、フロントPUのバンドパスフィルタの回路が替わってしまうのです。
コンデンサと抵抗が並列接続になるよう接続しているスイッチが切れる事でコンデンサと抵抗の関係がポジション1と同じになる、つまりこのポジション3.3では「ハイカットのフロントPUとリアPUのミックス」になるのです。
そしてここからスイッチを4側に回して行くと今度は別の回路の接点が離れ、リアPUの信号が切断されるのでポジション1と同じ接続になってしまう、と言う次第ではないかと考察します。
つまりこの3回路スイッチの接点と接触子の切り替わりは3点同時ではなく、少しズレていると考えられるのです。
スイッチを色分け
3回路のスイッチを色分けしたらそれぞれの目的が判るようになりました。
「赤」はリアPUをフロントPUとミックスするかどうかを選ぶスイッチ。
「緑」は両PUの選択と出力ジャックに直接繋がるスイッチで、言わばこれがメインスイッチです。
「青」はフィルター回路の接続を変えるスイッチですね。
ポジション3.3(及び2.7)の時は「青」のスイッチが切れてしまっている訳です。
そしてポジション3.7では「赤」が切れてしまうと言う形ではないかと。
このスイッチ回路の動作のズレが意図的なのかそうでないのかはちょっと判りませんが、いずれにしてもこれだとスイッチのメーカーやロットが違ったらハーフトーン的ポジションの結果が違ってくる可能性があります。
もっとも、そうだとしても各ポジションの接続は同じになるので仕様としては問題有りません。
仕様に無い効果が表れるからこその「裏ワザ」なのですね。
恐らくこの回路の設計者は電気関係に詳しい方、もしかしたら無線技士ではないかと推理します。
2つのピックアップを単純に切り替えるのではなく、2つのピックアップと共振回路をスイッチで組み合わせて音色に変化を付けると言う事が目的だったのでしょう。
ただ、私が思うのは「高インピーダンスのパッシヴピックアップ、しかも出力が違う物を複数使っているので共振回路は計算通りの結果にならないのではないか?」と言う事でして。
もっとも、その計算通りの結果にならなかったからこその出音がEB-3の個性なのですが。
以上がEB-3のロータリースイッチに関する私的な考察です。
同じ回路です
こちらは同時期のEB-2に採用されている回路です。
フロントのみの1PUですが、プッシュスイッチでローカットのトーンが得られます。
このローカット(バンドパス)回路、EB-3のフロントPUに使われている物と同じですね。
同じ人が回路設計をしたか、あるいは丸ごと流用したのかですね。
この回路図を見て「15HYって何だ?」となっています。
チョークコイルの型番はEB-3の回路図と同じく「GA-90C」です。
そして傍らに書かれた数値・・・コイルのインダクタンスを記しているのだと思いますが、15ヘンリー(Henry)とは大き過ぎです!
ペダルワウ等の共振回路に使われるインダクターで500〜600mHでしょう。
良く行く地元の電子部品屋のサイトで調べても、チョークコイルは最大で500mHまでしか扱っていません。
日本を代表するトランスメーカーのサンスイが生産しているST-11の一次側で5Hあると言う情報もありますが・・・
恐らくこの「GA-90C」は無線機用のインダクタ(あるいはトランス)ではないかと思うのです。
無線機用のインダクタを電気楽器に転用していると想像した所から「設計者は無線技士」と推理した次第なのです。
その「GA-90C」某サイト(英語)で「250mHから2Hの間」と言う証言があるのですが随分と曖昧な数値で(苦笑)実際はどうなんだろうなぁ・・・
つづく