カラグ・グルングナズを出発した我々が最初の目的地と定めしは、
かの偉大なる篆刻鍛冶アラリックが鍛えしネメシスの冠を封印せし
「さけび連山」の廃鉱じゃった。上古の森の道なき道を進む我々の行く手を
阻むのは昼なお暗き太古の樹海のみならず、森に巣食うゴブリン共や獣人との
小競り合いも幾度とあったがダウガン王に選ばれし我等4人の敵では無かった。
グラジ・ドルドの廃鉱が「さけび連山」の東部、「さけびの高原」と呼ばれる
最も標高の高い場所にある事は掘り師頭のボギが既に調査しておった。
木々の葉が徐々に緑から赤に色付き出したのは確実に目的地に向かっておる
証拠じゃろうて。これまで探索の道中、珍しく大人しかったスヴァンが
いつもの調子で愚痴り始めたのは徐々に肌寒さを感じ始めた気温のせいだけでは
無さそうじゃが・・・
「この忌々しい森は何処まで続いとるんじゃ?間抜けなゴブリン共が如く
樹海の中を散々這いずり廻るのにはウンザリじゃ!火吹き山の砦に戻ったら
ワシは必ず蒸気式森林伐採機を考案して根こそぎ切り倒してくれるわぃ!」
4人の中で最も若輩のワシが賢しげな口を挟むのは無謀と言うもの。
そして無口なボギは必要最低限の言葉しか発することは無い。
「失われし永久のルーンの探索以前に、ワシはお前さんの繰言にウンザリじゃ!」
結局の所スヴァンの愚痴にはこの探索行に尋常ならざる情熱を抱くグロムダルが
応じるしか無いのじゃが互いに文句ばかり言ってはいても存外この2人は
馬が合ってるのかも知れんのう。
幸いな事にグロムダルの堪忍袋の緒が切れる前に我々は森を抜け出す事に
成功し岩が剥き出しとなった小高い丘に上って辺りを伺う事にしたんじゃが
吹き抜ける風の音は胸を掻きむしる悲鳴の様に鳴り響いておった・・・