エピローグ 〜響く闇からの声〜
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・
空中戦艦に響く振動
それは、地上からのものが、腹部に当たって共鳴したものだ
これで、いかに地上が激しく揺れているかわかるだろう
「・・・・・・・終わりだ・・・何も・・・かも・・・!!」
絶望のまま、目を閉じ歯軋りするキュアピーチ
眼下の町は既に無く、父も商店街の人々も死んだだろう
その衝撃を、たった15分足らずでで世界中に広げようとしているのだ
奴は・・・メビウスは・・・!
何も知らない普通の人たちも・・・消えてしまう・・・もうすぐ・・・
みんな消えて無くなってしまう・・・
「私たちにはどうする事も出来なかった・・・!!」
ガッ!
悔しさから拳を床に叩きつけた
「結局・・・何もっ・・・!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・
「ピラァ・オブ・メビウスの爆発までは投下から15分・・・・
最後の一本の始動によって全ての柱の時限装置が同時に作動する・・・
一斉爆発まで・・・もう12分もないだろう・・・
あと、わずかそれだけの時間で、あの忌まわしい地上は消えてなくなるのだ」
左胸にパッションハープ、右胸にピーチロッドを突き刺したまま、メビウスは胸を張る
「・・・・・・感無量だ・・・さすがの余も・・・」
『・・・・・・それはそうだろうな・・・!ラビリンス総統メビウス!!!』
どこからか声がする
威圧感溢れる男の声が
「!?」
メビウスは空を見つめた
案の定、その部分の空間が歪んでいた
再び声が聞こえる
『貴様にとっては数千年に及ぶ大事業・・・!それが見事成就したのだから・・・
忌々しいが、大したものよ!!』
「おおっ・・・その声は・・・!」
この声をメビウスは知っている
幾つもの因縁あるこの声を
「かつて余とパラレルワールドを二分した男・・・!
マカイ王ヴェルザー!!!」
ヴェルザーの本体は、マカイの奥深くの洞窟に石化し封印されている
意識だけが、この戦艦にまでやって来たのだ
『・・・・ヴェ・・・ヴェルザーって・・・たしか・・・!!』
名前に覚えがあるキュアピーチは少しだけ頭を上げた
あくまでも悟られない程度に
「・・・嬉しいなヴェルザー。まさかお前が祝辞を述べてくれるとは思わなかったぞ
・・・噂には聞いていたが・・・マカイから動けんというのは本当だったようだな・・・」
メビウスはヴェルザーのビジョンに対し皮肉を言うと
『ウオオオオオオオオオオオオオオン!!』
ヴェルザーは威嚇するように雄たけびを上げた
それだけで、キュアピーチの背筋に悪寒が走る
恐るべき迫力
ヴェルザーは口惜しそうに話し始めた
『あの戦い・・・イシス、バルトスとの闘いさえ無ければっ!!不死身の魂を持つオレは時を経てよみがえる事が出来たのだ!!
だが、闘いに敗れたオレの魂をテンカイの精霊どもにすかさず封じ込められ・・・石像にされた!!
奴らは武力を持たないかわりに不思議な力を使う・・・』
ヴェルザーはメビウスが放った刺客、イシスとバルトスに倒されたのだ
イシスは『特異点』
バルトスはラビリンス最強の『赤の騎士』
そしてふたりはキュアパッション(イース)の母と父
『ええい口惜しや!!特異点!精霊どもめ!!すべからく神々の遺産というのがまた腹立たしい!!』
「焦ったな・・・もっとも余はお前が先に動いたから手をうったまでだ」
『貴様が地上を破壊しようとしている事が判ったからだメビウス・・・・!
オレは地上も欲しかった。貴様の準備が整うまでに打って出たかった・・・』
「・・・ふふ。そして身動きが出来なくなった今でも、その野望は潰えず・・・か・・・」
全パラレルワールドを席巻した者同士の会話は続く
「ヴェルザー、残念だがお前が送ってきたあの死神・・・サウラーは死んだぞ」
『何ッ!?』
「地上のプリキュアどもに殺されたわ。いざとなればヤツに余を殺させるつもりだったのだろうが・・・当てがはずれたな・・・」
『・・・・・・・』
ヴェルザーの沈黙に、メビウスの頬が緩んだ
「くっくっく・・・!この賭け・・・どうやら余の勝ちだな・・・!」
『・・・・・・・』
「・・・賭け・・・!?賭けだって・・・!?」
思わずキュアピーチは大声を上げた
彼女を見つめるメビウスとヴェルザーのビジョン
「・・・そうだ。我々は、元々対立する立場・・・だがその想いは同じだった・・・!
神々が憎い!!我らを冷遇し、地上の人間どもにのみ平穏を与えた奴らの愚挙が許せぬッ!!」
メビウスの言葉に力がこもる
「ならば・・・!」
『我々のいずれかが・・・!!』
「『神になるのみ!!!』」
数百年前
メビウスとヴェルザーは敵対をやめた
その時、メビウスはある賭けを持ちかけた!
互いに各々の戦略を進め、成功したものに従う・・・という賭けを
もっとも、メビウスがイシスとバルトスを、ヴェルザーがサウラーを送り込んだ事からもわかるように、お互い相手を完全に信頼してはいなかったが・・・
「ヴェルザーが約束違反でラビリンス侵攻を企てたため、イシス達に倒され身動きが出来なくなってからでも、サウラーは余の監視を怠ることは無かった
石像になっても未だに地上を諦めていないらしい・・・」
『いや・・・残念ながら素直にこの場は敗北を認める以外にあるまい
現在の『特異点』を倒し、全ての世界をその手中にしようとは・・・
・・・恐るべき男よ、ラビリンス総統メビウス』
「・・・・・・・・・・・・・ありがとう・・・・!」
宿敵の祝辞に、総統は素直に頭を垂れた
「まあ・・・地上は消えるとはいえ、お前にとって悪い話ではない
この世界が無くなればパラレルワールドのバランスが大きく崩れる
なんならその後、テンカイに攻め入ってお前の封印を解いてやっても良いぞ」
『・・・・・・』
ヴェルザーのビジョンはそれを最後に空間を歪め始めた
メビウスの言葉が彼の誇りを傷つけたようだ
「ふはははははははははははっ!!」
ヴェルザーの『敗走』に、高笑いするメビウス
キュアピーチはその耳で聞いたことがあまりにもスケールが大きすぎて、信じられないでいた
まさに雲の上の会話・・・
不死身の魂・・・神々になる・・・テンカイに攻め入る・・・
「手が・・・届かなさすぎる・・・」
キュアピーチは力なく呟くだけ
去り際にヴェルザーは大の字に倒れたキュアパッションを見つめた
『・・・あれがオレを倒したイシスとバルトスの娘・・・イースか・・・』
呆けたまま指一本動かさないキュアパッッション
『・・・まるで屍だ。目が死んでいる・・・いかにメビウスに敗れた後とはいえ、不甲斐ない姿よ・・・
やはりイシスには遠く及ばぬわ・・・』
シュン・・・・
それが、マカイ王最後の言葉となった
「・・・・お母さん・・・・?」
全てに絶望したキュアパッションの脳裏に、その言葉だけが浮かんだ・・・
ヴェルザーの気配が完全に消えた後で、メビウスは呟く
「・・・・くくっ・・・ヴェルザーめが・・・負け惜しみを・・・!イシスよりもあらゆる点で現在のイースの方が勝っておるわ・・・」
だた、ひとつだけ母イシスが娘イースに勝っていたもの
それは・・・
「殺気・・・イシスの底知れぬ殺気だけは誰にも真似できぬものだったが・・・」
レジスタンスのリーダーとして担ぎ上げられ、国家を裏切り、先頭に立って戦場に赴いていた女戦士の事をふと思い出していた
それもまた昔話だ
今は・・・
「・・・・・・・・ふふふ・・・!湧いてきた・・・!!やっと湧いてきたぞ・・・実感が・・・!!」
メビウスの心の底から喜びがこみ上げてくる
「古の宿敵も・・・神々の創りし邪魔者も・・・」
マカイ王も屈した!
『特異点』も倒した!
「全てが余の下にひれ伏した・・・・・・!!」
忌まわしき地上も間もなく消える
「これが完全勝利だ!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・・・
地上消滅まで残り10分
「あきらめるな!ラブ!!!」
つづく!!

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