「ねぇ、お話しを聴かせてよ」
今夜も薄汚れたベッドに横たわって、そうせがんだ。
でも、いつだって最後まで聴けずに眠りに落ちてしまうんだ。
いつものように散らかった部屋から目を背けるように瞼を閉じ、あなたの声に耳をかたむけた。
「飲み干した薬がもたらす狂気じみたおとぎ話と引き換えに何を無くしたの?」
草むらの中から耳を立てたウサギがそう問いかけた。
「虚ろな目で曖昧な記憶を読み返してみても何も蘇らないね。」
野良犬はそう呟いて
去っていった。
「目が覚めた時に思い出せるように身体に刻みましょう。」
足下の蛇はそう言うと自分の牙を一本さしだした。
「宿無しの小人はちゃんと夢の国にいざなってくれたかい?」
木の上から猫のせせら笑う声がした。
「夢から覚めて目のあたりにする綺麗に片付いた部屋と読み解く事のできない殴り書きは、いったい誰に何を伝えたかったの?」
真っ赤なリスが心配そうに見上げる。
「教えてさしあげましょう。あなたに受け止められるなら・・・」
優しい笑みをうかべた人魚がそう言った。
僕はしばらく考えて二度うなずいた。
「じゃあ始めようか。狂気じみたおとぎ話の第一章・・・」
どこからか聴き覚えのある声がした。
「覚悟はできてるよ・・・。いつかは聴く時が来ると思ってたんだ。狂気じみたおとぎ話の最終章を。」

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