最近よくお世話になっているブログ・「
ギロニズムの地平」。
各エントリーが思考実験や発想法に対する刺激になり、管理人である「zombiepart6」氏は私のモットー「是々非々」にも親和する考え方の持ち主ということで、よき議論主体として勉強させていただいている。
過日、このブログにて「
バーチャルウォーター」という題名で、ロンドン大学「トニー(アンソニー)・アラン」教授により発案された同名の学説を東大の「沖 大幹」教授が中心となって発展させたある概念に基づいて放送されたTV番組を対象に、「インチキ学説の流布けしからん」的な批判エントリーが立てられた。
私は当該学説とエントリー内容を吟味した結論としてその批判内容に賛意を表し、その意図に基づくコメントを残したわけだが、後日、別のコメンターの方から「このエントリー内容は沖教授への誹謗中傷だ」という反論コメント及びトラックバックが寄せられた。
この方……「stachyose」というハンドルネームの方であるが、氏は以前にzombiepart6氏と別件にて意見対立の末に歩み寄りに失敗した経緯があり(どちらがどれくらい「失敗」したのかは主観評価になるので略)、その関係もあって最初からコメント欄やTBでの記述がぎすぎすしたものになっている。
(ついでに、私とも類似件含めて何度か意見対立している方である)
日頃から誰にでも以下の記事コメント欄のような応対をする方という訳でない事だけは、あらかじめ認識いただいた上で参考記事をご覧いただきたい。
話題元記事:
バーチャルウォーター(「ギロニズムの地平」より)
関連記事:
まぁ、どうでも良いんだけど(同上)
まぁ、どうでも良いけど(2)(同上)
※YahooブログでのID「tamanegi_patriot」でログインしているユーザー、及びコメ中で「Tamanegi」と他の方々に呼ばれているのは私、タマネギ愛国者である。念のため。
簡潔に私の認識確認を兼ねて説明すると、もともとのアラン教授によるVW説とは
・例えば中近東の様な利用可能水資源が絶対的に少ない国々で、さほど水を巡る国家間争いが激化しないのは何故か?
→各種食糧を国外から輸入することで、結果的に自国生産よりも国内水資源を節約していると考えることができる
という
概念説であり、すなわち「食糧輸入を間接的な水資源の輸入と擬することで、水資源を巡る争いを緩和させている要因としての食糧輸入を「仮想上の水」の移動に置き換えられる」という
概念を用いた思考法の学説である。
この思考法は、確かに特定の水不足地帯等での水資源紛争頻度の低さに論拠を与える論理であり、現在のところ否定する余地のない面白い学説であると思う。
(2008/10/13・取消線および下線部を修正)
学説の名称そのものはのちに沖教授によって広まったもののようで、大元のVW説を過不足なくあらわした論文・解説は見当たらなかった。代わりにアラン教授の言葉を記したサイトやブログ記事を紹介。
参考1:
「グローバル・システムと水の地域的安全:主要食糧生産、貿易そして開発」
(東京大学「越境影響評価研究会」サイトより)
過去および現在において、輸出入された仮想水が水不足に直面する地域の需要をどれだけ成功裡に満たしてきたか、ということに焦点を当てて議論する。今世紀の人口推移を考慮しながら、水不足地域の将来的需要に対して仮想水が果たせる役割も検討してゆく。
(中略)
ここでは、「不可視」かつ「寡黙」な仮想水は水不足に悩む地域に食糧の形になって提供され、問題解決の一助となりうる、と結論づけられる。
これら記述から、アラン教授のVW説とは「効率よくVWを活用しよう!」という主張が中心であることが読み取れるかと思う。
参考2:
"Water management for Food and Environment"と「ヴァーチャルウォーターと日本人」
(ブログ「
Waterscape 代表日記」より)
日本人は海外の穀物、つまりヴァーチャルウォーターに頼るライフスタイルを変えるべきだと思わないか、と聞いたことろ、「それも重要であるが、ヴァーチャルウォーターがはたしてきた役割は大きくて、日本の産業や経済活動、食物の安全保障に大きく貢献してきたし、good for your healthだよ」とのこと。
「good for your health」、いい言葉である。ありがとうアラン教授。
さて、ではその次……沖教授によって提唱されているVW説とは、どのような概念か。アラン教授のものとはどこが異なるのか?
・VWの単位計算を、「投入水量」という定義を使い「現実投入水量」「仮想投入水量」に区分けする
・上記で「仮想>現実」である食糧輸入は、実際の水資源を節約していることになる
(日本を含む多数の食糧輸入国においては、上記の式が成立している=水節約になっている)
・日本は世界最大の食糧輸入国であり、VWへの依存度が高く、この恩恵を世界へ還元すべき
参考:
世界の水危機、日本の水問題
手法的には、より厳密な(アランVW説では言及されていない)区分けをVWの概念に加えることで「節約状況の客観比較」を可能にする追加要素を与えている。
そして学説の結語のひとつに、「食糧輸入国に対して、VW恩恵を他国へ還元すべし」という主張への発展があり、特に世界一の食糧輸入国である日本に大きく「還元」への努力を迫る提言としてまとめられている。
「ギロニズムの地平」管理人のzombiepart6氏の批判の柱は、VW説を紹介したTV番組「世界一受けたい授業」(日本テレビ)において、沖教授自身により紹介されたこの学説に対して
・移動概念が地球上の水の循環サイクルという自然界の営為を無視している
・主張内容が「食料輸入大国」日本に世界の水不足の責任をかぶせるものである
という要素を読み取ったことによる、そこに対する反駁とその論拠である。
指摘に際しては非常に辛辣な表現も混ぜ込み、結語としては
「水を大切にするというのはワシも大事な事だと思うんだが・・・水の節約に繋がりさえすればペテンでも良いとは思わんね」という風に〆ている。
で、それに対して私は以下のようにコメントした。
何というか……「とりあえず世界地図見て来い」レベルですな。<VW説
じゃあ食料輸出大国のオーストラリアやブラジルは水資源枯渇してるのかと。輸出したくなくて泣いてたりするのかと。日本の国土面積で自国分の食料生産回ると思ってんのかと。
「先進国は水に困っている国や人々に支援を」というレベルに過ぎない話を、何とかして「食料輸入世界一=日本こそ水不足の諸悪の根元」というイメージにすり替えたい勢力がいるのでは?と勘ぐりたくもなりますな……
「水からの伝言」といい、水を引き合いに出すエセ科学にはろくなのがないようで。お粗末。
要するに主張への全面賛同である。単に異論の余地がほぼ無かったとも言う(ひとつだけ指摘事項があり、それは後日追記した)。
そもそも、「食糧生産による水不足地域」に該当する国がアメリカ・中国・インドぐらいしかないのだから何をかいわんや。「世界地図見て来い」はそのあたりを揶揄した表現である。
沖教授のVW説サイトでも「日本は、その恩恵を世界へ還元することを考えることも必要」とその責任について言及されており、しかしながらその案として「例えば水資源開発など、利用可能な水を増やすODAを行うことが考えられ」と書かれていたりするのには脱力。考えられも何もとっくに各地でやっとるがなー、的な何か。
数値計算・調査などは綿密に多くのデータを取得・使用しているようであり、「エセ科学」というには本格的かつ熱意に溢れてはいると思う。かといって、本来のアランVW説(水資源を巡る争いの緩和を示す概念)から乖離した結論で日本の責任云々に繋げられても迷惑なのだが。
その他、「ギロニズムの地平」の常連コメンターの方々も様々な意見を述べている。以下抜粋(順不同)。
いや、どんどん流布してほしい。
それで国産志向が多少なりとも上がるのであれば、それはしっかり効果を表したと言う事です。
論理的な考え方からすると、これ、どうしようもない珍説。911陰謀論やアポロ特撮説の類でしょう。
しかし、ワイドショー的な感覚で行くと、しっかり効果を発揮すると思います。
誰か〜
農政改革言い出せよ〜
特にバーチャルウォーター論言う奴が。
地球の全水量の2・5%の純水の内のそのまた使用可能な部分を奪いあいよりも97.5%ある海水の純水化事業の確立のために汗と資金、そして聡明な学者先生の頭脳を使うのが一番良いように思います。
日本は世界の水問題を少しは解決できる技術を持っているので、日本企業にお金払ってインフラ整備をお願いすればいいのに・・・とか思ったりも。
「日本人に危機感を認識させて食糧自給を高めるためなら珍説でも利用しよう」派、「もっと別の視点で頭使う方が役に立つかも」派、「日本の水関連技術力を輸出して相殺するといい」派、など様々である。基本的に記事の批判内容そのものには反論がなく、その先の話として意見が派生しているのが見て取れると思う。
そこに来たのが、前述したstachyose氏からの反論である。
……反論というべきなのかどうか、実のところ微妙ではあるのだが。
なにせ第一声としての記述が、
自分なりに調べてみました。
(中略)
その結果、この記事は中傷に当たると判断しました。
指摘内容が誤りとか、前提に狂いが、とかのレベルから始まる指摘ではない。
相手の論を自分の「調査と判断」で一義に「中傷」と断じ、その上で「間抜けな自然科学批判」なるタイトルのTBをよこす、という手順を踏んできたものである。
はいはい、無知で恥知らずで失礼致しました。では、御機嫌よう。
「理解できない者に理解させる責任までは負えない」というのがワシの立場なので、「理解できていない者がデマだと言っている」事にまでは責任は負わんよ。
zombiepart6氏は(おそらくは以前のやりとりからの教訓も含めて)「無礼に対してはあしらってまともに相手しない」立場を表明したが、それでもその後、追加説明にあたるエントリー記事を2つ提示して(序段参照)間接的に「理解させる」努力を示すには至った。(2記事はいずれも反論へのカウンター記事であり、反論者がその時点で1名である以上「stachyose氏宛て」であることは論を待たない)
それに対する再反論もstachyose氏より為されているのだが、zombiepart6氏や他のコメンター氏からも「論点すら理解できないのなら、もう空騒ぎは止めて頂きたい。」「まちがいなく噛み合ってないよ。」等の指摘を受けている。そのあたりの要点も可能ならば後述しようと思う。
意見対立の前提と流れは、以上のようなものとなる。
これを踏まえて、別所(事情によりリンク無し)にてstachyose氏より質問を受けている部分を含め、この話題につき私が自身のブログで引き取ると宣言しstachyose氏にも了承いただいたため、この場にて彼からの反論に論拠を添えてお答えする。
まず、stachyose氏のブログ「
ある紛争についての考察」にて反論エントリーとして挙げられた記事に対して、私の認識と理解に基づく範囲でお答えする。(当然この記事は「ギロニズムの地平」にもTBして、zombiepart6氏らに確認していただくものとする)
参考:「
間抜けな自然科学批判 その1」(「ある紛争についての考察」より。以下同じ)
「
間抜けな自然科学批判 その2」
「
間抜けな自然科学批判 その3」
「
間抜けな自然科学批判 その4」
「
農業用水」
「
間抜けな自然科学批判 その5」
文字数制限の都合上、回答エントリーは以下の別記事において記述する。申し訳ないがご了承いただきたい。
→「
歪められた環境理論:バーチャルウォーター(回答編)」

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