安倍政権になってから事実上初の全国国政選挙。
夏の参議院議員選挙は、事前の与党不利報道をさらに凌駕する「記録的与党大敗」という形をもって結びとなった。
まず最初に申し上げておくが、むろん安倍晋三という政治家に(主に拉致問題や戦後日本の一部歪んだ価値観是正などに対する姿勢をもって)期待し支持をしていた私にとって、今回の結果は残念であり、とても悔しい。
しかし、では今回の結果について納得していないか……というと、そういうことではない。
あれだけの自爆・オウンゴールをよくもまあ飽きずに繰り返したものだという感想は強くあるし、その結実としての今回の大敗はむしろ当然でもあった。
今回、改めて浮き彫りとなった「安倍政権」の問題点。
それを少し述べてみることにしたい。
この選挙に至るまでのいわゆる「国民の関心事としての争点」は、主に年金問題や閣僚スキャンダル・失言等問題が大きなウェイトを占めていたように思う。
それに対して、安倍政権の事前・事後の対処はとにかく以下の一事に尽きた。
「リーダーシップ不在」
これまでの自民党政権の中でも、近年稀に見るほどの「手綱の取れなさ」ぶり。
閣僚として登用した人間に不祥事の潜在要素があるかどうかを事前に見極めることもほとんどできず、またベテランと目される中堅議員らはむしろ首相の人気と若さに対抗して存在感を示そうといらぬ画策をし(往々にして墓穴を掘る)、それまで小泉体制下で冷や飯を食わされてきた大物議員らはここぞとばかりに安倍おろしへと水面下の動きを活発化させている(自分で矢面に立つ気はなさげなのがまた嫌らしい連中だ)。
私自身、安倍氏がここまで「人事術」に疎いとは想像していなかった。
もう少しブレーンにまともな判断材料を提供できる人間がいると思っていたのだが、どうも安倍氏の政治手腕はかなりの部分を「彼自身の使命感」に依存するものであったようだ。
確かに党内序列から来る首相への抜擢順序としては極めて「若い」が、そうは言ってももう50代である。思慮分別、術策深謀というものはある程度備えていて当然の年代だ。
首相候補の最有力者として名前が挙がっていた当時、「まだ早い」という論調が少なからずあったが、私は今逆に「もうこれ以上進歩はしないのかな」という感想を持ち始めている。いち政治家としてはともかく、首相として一国の舵取りを担う身としてはあまりに無策に過ぎた。
年金問題の根本的問題にメスを入れたことは評価できるが、これも歴代与党の大半を占める自民党自身の尻拭いという位置付けになってしまうだけに(内容の思い切り・画期性に比べて)インパクトは薄い。
安倍氏個人が犯したミスはほとんど無いとはいえ、これだけ不祥事の発生(個別に言うのは面倒なのでパスだが、論外なものも多過ぎ)を事前に食い止められない&周囲も身を粉にして食い止めようとしないという一点において、「小泉後」という国民の過剰なまでに大きな期待に応えられるだけの手腕は無かった……
それが今回の選挙での安倍氏に対する結論、になるだろうか。
彼の政治方針には変わらぬ支持を与えているだけに、なおさら口惜しい結論ということではある。
さて、その「与党批判票」をほぼ丸ごと確保した形で歴史的大勝を成し遂げた民主党。
私はもともと「是々非々」にて政策を判断するつもりであり、民主党が国益・国民益にとり利多き政策を親身になって推進してくれるならば迷わず支持するつもりである。
逆に言えば、それと逆の動きをし続ける限り私は民主党を支持しないだろう。
早くも「テロ特措法延長反対」などで(間違った)存在感をアピールせんとしているようではあるが、致命的な問題になる前に早めの苦言を呈しておきたい。
1.
民意をダシにして「野党的活動」の正当化をするな
民主党が選挙後に掲げた大きめの課題は「テロ特措法延長反対」「郵政民営化見直し」「政治資金規制強化」あたりであるが、最後のものはともかく残りは「選挙で争点にしてた奴いたっけ?」レベルの話である。民意の中心はもっと他にあるだろうと。
ただでさえ特定アジアやロシアの軍事的拡大が活発な現状でアメリカや国連各国への協力姿勢を一転したいというなら、それなりの安全保障体制に対するビジョンが欲しい。無論「無防備宣言」で済ますような真似はごめん被る。
郵政問題にしても、ぶっちゃけどうでもいい(!)。それより社会保険庁とその母体たる全日本自治団体労働組合(自治労)が負うている歴代50年以上にわたる国民へのツケを、国民の支持・期待に違えることなくきちんと払わせてもらいたいものである。……自治労幹部をトップ当選させるような政党でもあり、さほど期待はできないかもしれないが。
2.
もう「審議拒否」は許されない
ここ数年ですっかり定着した反民主主義的手法「審議拒否」。
確かに郵政選挙で不必要なまでに大勝した影響で国会運営に野党として厳しいものがあったとはいえ、「民主党提出の法案を民主党が審議拒否」などという馬鹿げたことを平気でするような実績を今後さらに積み重ねることはもう二度と許されない。
政権交代が手段でなく目的と化しつつある民主党にそれだけの分別があるかどうかは不明だが、せめて若手や良識ある参院の議員諸氏には「将来の政権与党を目指して恥じない」国会活動を期待したい。
……小沢一郎や旧社会党のメンツには期待していないが。
3.
年金問題にフタをするな
私はまだ受給する立場になるまで時間がある身だが、基本的に「議員年金」という安全弁に守られている国会議員は(特に有力大物議員)、様々な構造的問題を多重に内包する年金問題について「できれば触れずにおきたい」のが本音だろう。まして社保庁を事実上掌握している自治労を大きな支持母体として持っている民主党にそれが積極的にできるかは極めて疑わしい。
実際、選挙後には年金関連の話題が急激にトーンダウンした。マスメディアも「政府の不祥事」としてのみ報道する向きが多く、肝心の民主党が社保庁温存の方向であることの報道はろくに為されていない。「国民の知る権利」などどこへやら。
まあ、これに関しては近い内に国会での攻防で少なからず露呈する問題であろうと思う。
今後を注視したい。
余談だが、この選挙結果を評して「小泉劇場からの脱却」と述べる向きが
一部にあったそうである。
逆に聞いてみたい。「安倍政権のどのあたりが小泉劇場だったか?」と。
争点の単純化「ワンフレーズ政治」というわけでもなかった。
親米重視「アメリカのポチ」どころか、その米との足並みの乱れが目に付いた。
「抵抗勢力作り」どころか、自身が党から孤立無援の有様だった。
何度でも問おう。「安倍政権のどのあたりが小泉劇場だったか?」
「小泉劇場を継承できなかった、国民の期待への裏切り・失望ゆえの末路」と評するならまだ理解できなくもないが。
対照的に、
こちらで分析されているような意見(郵政造反組復党への不信や「小泉前首相が自民党に集めていた反自民党票の離反」等を敗北要因とする)などには、私も同意するものである。
おそらく、今後遠くないうちに「小泉再登板」という説が流布されるだろう。
国民がそれをどう判断するかはさておき、そうなった時に「小泉劇場からの脱却」説を述べた政治評論家・マスメディアらはどう反応するのだろうか。はたまた、ダンマリスルーで国民の知る権利を引き続き愚弄し続けるのだろうか。
そのあたりも含めて、今後の政治からは目が離せない。しっかり見極めていかなければならないと思う。

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