昨年、北朝鮮の拉致問題などについて活発かつ有意義な運動を続けていた西村眞悟議員が、同・弁護士事務所に出入りしていた者の犯罪に手を貸す形となってしまい弁護士法違反等で逮捕されたのは記憶に新しい。
拉致問題の完全解決を何より望む国民からは、「潔く議員を辞して早く戻ってきて欲しい」「政治汚職でもなく、辞職は不要。引き続き拉致解決に尽力を」という相反する(期待の)声も少なからず聞かれる。
もちろん「罪は罪」「幻滅した」などの評価も多く聞かれる。これらを否定する事もまたできないだろう。しっかりと「身辺の人の出入り」を処していれば、発生そのものを防げた犯罪容疑であった。
さて、今回は西村議員の一件を含めて、北朝鮮拉致問題に関する意見を述べる事とする。
拉致問題については、例の「ニセ遺骨」の件以来まったくと言ってよい程に政府筋での進展はない。かろうじて「拉致実行犯・辛光洙」の証言情報が拉致被害者から語られた程度である。
近代史上唯一の「国家指導者自ら認めた、国家による他国国民の組織的誘拐・洗脳・工作員化」という凶悪犯罪に対して、あまりに遅過ぎる遅々たる歩みであり、怒りを覚える向きもさぞ多かろうものである。
ただ、拉致問題自体の解決には、そもそも非常に困難なハードルが幾重にも積み重なっている事は理解しておかなければならない。
・歴代日本政府の不作為による、20数年の歳月
・拉致の詳細発覚による、北朝鮮の暴発危機
・北朝鮮崩壊による、被害者生存不能の危険性
まず、これは日本政府(及び一部は日本国民)の責任でもあるが、そもそも拉致問題を頻発時期またはその直後に「認識していながら問題化できなかった」事。
もちろん北朝鮮当局との絶妙の連携(!)により被害者の一部を死に追いやったであろう当時の社会党(現社民党、及び民主党左派など)の罪は極めて重いものであり、また重い腰を決して上げようとしなかった政府や警察の怠慢も責められるべきであるが、いかに当時のマスメディアが現在のように客観的検証の対象であり得なかったとはいえ、その北朝鮮(を含めた特定アジア)を擁護するプロパガンダの数々にみすみす踊らされ、手の届くところにある「過去と現在の真実」を見ようとしなかった我々国民もまた、やはり責任の一端は負うべきであろう。
すなわち、政府に弛まず「拉致被害者が不当・不法に奪われた生存権の救済」をすべく働きかける事。具体的に最も確実なのは、「拉致問題のために汗を流している国会議員を応援し続ける」事である。20数年続いてきた「被害」に責任を負うために、我々国民はマスコミ報道の流行り廃りごときで拉致問題を失念してはならない。決して頭から離してはならない。
問題が奇跡的にすべて解決するか、己の命が尽きるまで。
しかしながら、ただ政府の交渉の不甲斐なさを批判するだけでも問題は解決しない。
そもそも、日本には工作員を取り締まったり、排除したりする能力も法的根拠もないのである。あくまで警察や海上保安庁などの「治安維持」のみに限定され、国際犯罪に対しては国連や国際社会の手を借りぬ限り、まさに赤子同然。
すべては戦争の放棄をうたった憲法第9条が原因であるが(対諜報は時に他国の軍事指揮下たる人員を相手にするため、「国際紛争解決のための戦争」を禁じる日本は対諜報のためのマンパワーを行使できない)、ひとまずそれは置く。
無いものをねだっても始まらぬゆえ、まずはせめて国内だけでも「対スパイ・対工作員」に関する調査・捜査を行える権限を持つ組織を(根拠法と共に)創設あるいは増設すべきである。
むろん、時には国際的交渉が必要になるため、外務省に対しても限定的に指示能力があることが望ましい。(その際は内閣総理大臣経由の決裁など、角の立たぬ形にすべきだろうが)
そして、北朝鮮自身も「悪うございました」などと言って来るような相手では当然に無い。とにかくあらゆる手段を駆使して、事態の風化を狙ってくるだろう。
弱腰過ぎれば解決を待たず手打ちにされるであろうし、かといって強攻策のみに徹すれば証拠隠滅(すなわち生存者や関係者の処刑)という最悪の結末を迎える可能性も低くはない。もともとが分の悪い勝負なのである。
救いは、平壌宣言調印の際に「拉致はあった」と金正日の言質を取ってある事だ。むろんあの手この手で責任逃れをしてはいるし決して最終責任は認めないだろうが、この言質により「日本側で拉致の証拠が確定すれば」その分さらに北朝鮮への追求材料が増えるのである。今でも、「拉致の疑い」に相当する方々の数は数百人。「拉致被害が濃厚」な方だけでも100人は超える。
まして、北朝鮮は日本以外の国家でも拉致を行っているという。総被害者数が何名にのぼるのか想像も付かないが、北朝鮮は「拉致はあった」と認めている。すなわち、近現代史上最悪の誘拐国家として訴追されうるものであり、被害国民の多くいる他の国々(韓国は北に取り込まれかけており解決自体が絶望的なので、極力その他)ともっと密に連携して「ぎりぎりの強さで」圧力をかけ続けなければならない。強過ぎれば台無しだが、少なくとも「もっと締め付けの密度を高める」事はできるはずである。
「対話と圧力」という言葉が出て久しい。
今では「日本政府は対話と対話、圧力はどこへ行った」と指弾される皮肉の対象になってしまった感があるが、確かに私も今の時点で言えば「圧力は足りなさ過ぎる」と思っている。経済制裁を段階的に行う、その1〜2段階目には入っていても何ら問題は無いはずである。どうせ北朝鮮は協議拒否や無理なミサイル射撃デモ程度しか行えないのだから。
ただ、これについても例えば(国連、六カ国協議などで)アメリカなどとの歩調を合わせる必要はある。日本はただでさえ戦後このような「敵との交渉」に慣れていない。力加減は「アメリカよりやや緩く」程度で十分に北朝鮮を真綿責めできるであろう。
……なお、現状は「緩すぎる」。もっと強くても誰も文句は言わないし、むしろ緩すぎてアメリカの足すら引っ張っている感がある。
ただ、むろん(繰り返しになるが)強過ぎれば「暴発」を招く。それはミサイルかもしれないし、核実験かもしれないし、内部粛清かもしれない。
相手の手札が見えない以上、手探りにならざるを得ないのは確かである。そこだけは実務協議者に対して理解をしてやるべきであろう。
我々はただ、「拉致解決を棚上げて国交正常化を進展」させるような動き(山拓やSG、飯島秘書官?)にのみ断固としてNOを訴え続けるのがベターであろう。それと、経済制裁の段階的開始(を見せる事による北朝鮮への揺さぶり)の要求。政府決定か国民世論か、で印象もだいぶ違ってくるところである。
最後に、西村議員についての個人的意見。
私も当初は「先手を打って辞職し再起すべき」という立場だった。しかし、今回の西村氏の発言(「拉致解決のため、議席を失う事はできない」)に触れて少し考えを修正した。
辞職・留任どちらにせよ、有罪判決が出れば、拉致運動についてもダメージにはなるだろう。ならば、西村氏の政治活動そのもの(今まで以上の拉致解決への動きを見せる)によってそのマイナスイメージを相殺するべきではないか、と。
また、民主党を除名されたのも小さくない。
これにより、少なからず矛盾をきたしている「民主党の党方針」から自由になった形で拉致問題を訴えていける。今まで民主党が彼の運動を政府批判に利用してきた事もあり、そういう悪い状況からは一歩離れたという点で有意義ではあったかもしれない。そもそも、彼は旧社会党の人間と同じ組織になどいてはならないはずの人材である。
確かに、今後様々に批判を受ける事だろう。
だが、政治活動で負った汚職犯罪ではない。弁護士としての見識を問われた、ある意味で「政治にその反省を活かす」べき罪である。
拉致被害者やその家族、また解決運動の支持者達を失望させるような言動はもはやできない。批判だけしていればいい状況ではなくなり、さらに有効な手段を模索する「努力」が(批判を跳ね返す為にも)要求される立場となった。
拉致問題解決のため、その部分では純粋に応援したい。
犯罪については有罪となればもちろん罪に服さねばならぬ。そこは是々非々である。
どんな人間にも「良い面」と「悪い面」が、どうしてもある。
どちらかを引き合いに、他方を無視してしまうようなスタンスは、避けたいものである。
西村議員しかり、小泉首相しかり。
(中には「良い面ゼロ」な輩もいるが……)
応援も批判も、常に「是々非々」にて。

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