先月末、唐突に茶の間を賑わす騒動となって国政の場にまで波及した『田母神空幕長更迭問題』、あるいは『田母神論文問題』。
戦後の歴史観認識に対してはからずも大きく一石を投じる事態となっているこの話題であるが、それゆえに保守のカンバンの末席に位置する私もまた、この問題に聞かぬフリをするわけにはいかないものと思う。
単なる失言問題というカテゴリーではくくれない複雑性を内包するに至ったこの問題につき、私の現時点での評価なり見解なりを整理する意味で、エントリーをまとめておく次第である。
短めに私の評価を述べるとするなら、以下のようになる。
1.
田母神氏に対する「空幕長更迭」措置はやむなし、適切な措置。
現場トップの一角が内規の遵守をあいまいな解釈論でほっかむりし、上司(防衛大臣)との連携に重大な齟齬をきたす結果を半ば意図的に誘発した責任は重大。
専門性皆無(本人談)な感想文レベルの作文で300万円もの非常識な副賞(権威ある学術論文ですら、100万を超える副賞のあるものは極少数)を懇意な団体から受け取ったという「結果」も、立場に比して軽率であると言わざるを得ない。
ぶっちゃけ、賞金は「評価をいただけただけで十分」として辞退すればまだ望ましかったかも。
2.
「論文」の内容は、事例証明性の低い『俗説』依存の主張が少なからず中核を占めており、細密な論証に耐えるものではない。
同様の歴史観を語るのであれば、(立場の問題を置くとしても)せめて近現代研究に必要最低限の出典・資料明示を含めた、事実関係の論証に耐え得る見解をベースにするべきである。ただでさえ右派の論には左派言論により戦後タブーを余儀なくされてきた要素が多いのだから。
負け戦の誘発イクナイ!
3.
上記2点を考慮して、それでも現在国政の場で問題としている「田母神氏への懲戒処分丸呑み要求・退職金返納要請」「今後の幹部に思想教育を検討」などは言語道断。
前者は法的手続きを無視した「法に定められた反論の機会を奪う」画策を省側自ら行なっており、文民統制とか以前に「法治」の大原則にもとる。定年退職までに手続きは完了できる余裕もあったことが判明しており、「急ぎたかった、時間がなかった」との言い訳も論外。自衛官としての退職金を返納しろだのに至っては、呆れて言葉も無い。返させたきゃ手続きを経てやれ、これ社会の常識。
後者の思想教育に関するものも、「誤った政府見解」が出された場合にそれを修正する機会が、国家機関内に一切存在できなくなる端緒となりかねず論外の極み。思想の内容を第一の理由とした「上からの統制」は決して行なわれてはならない。あくまで思想は思想、それによる(かもしれない)実際の「被害」をのみ一義として評価すべき。
文民統制ってのは「軍人を政府の思想を植え付けたロボトミーにする」事じゃねーぞってこった。それなんて人民解放軍? 北朝鮮軍?
以上を踏まえ、その上で論文の内容についての詳細や、先日行なわれた田母神氏の参考人招致での一幕にも是々非々を評していきたい。
……のだが、それはまた後日追記。

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