SILENCE SPEAKS

「ねじまき少女 上」「ねじまき少女 下」
パオロ・バチガルピ

　名前は妙だが、アメリカ人作家のデビュー長編です。

　石油の枯渇と地球温暖化、さらにバイオテクノロジーによる影響で動植物の生態系が破壊されてしまった近未来世界のタイの首都バンコク。そこで遺伝子組み換え生物を使ってエネルギーを生み出しているアメリカ人のアンダースンは、市場で見たことも無い果物を手に入れる。そのころ、タイの環境省の英雄ジェイディーは賄賂が横行する税関職員にプレッシャーを掛け、この国の主導権を握ろうとする争いに一石を投じてしまう。そして、クラブで働かされる少女型人造人間のエミコとアンダースンとの出会いがタイの運命を大きく動かすことになる…。

　近未来の破滅的な社会状況が描き出されるディストピア作品ですが、電気を含めたエネルギーが非常に限られた社会は、スチームパンク的な様相を顕していきます。もちろん地球温暖化が激しいので蒸気すら使うのが憚られる動物による運動エネルギーを“ねじまき”に蓄積するという凄まじい状況。アジアのエキゾティックなムードと退廃的なムードが交錯する近未来ながら第一次大戦あたりの情勢を思い起こさせる不思議な感覚と、遺伝子操作によるバイオハザードが蔓延する不安感が増幅されて閉塞感が高まっていきます。登場人物の行動はほぼ利己的なもので、ただ生き延びるという目的から、世界市場の拡大、さらに己の技術と命を担保にゲームを続けるものなど、様々な思惑がもつれあいながら、カタストロフへと突き進んでいきます。タイトルの“ねじまき少女”の存在は物語の切っ掛けには重要ではあるものの、存在自体はそれほど重要でないと言う、微妙な扱い。それほど深くは切り込まれないし物語の中心でもないのは、最終的に政治闘争がメインになってしまった影響でしょうか。従属から反逆へと向かう様々な局面が露になった時、世界が大きく揺り動かされる様はなかなか面白く読めました。
　東洋的世界観と西洋的世界観、そして日本的世界観がぶつかりあいながら収縮していく破滅へのカウントダウンが刻まれる一冊でした。

「フルメタル・パニック！　アナザー１」
原案・監修：賀東招二　著：大黒尚人　イラスト：四季童子

　相良宗介と千鳥かなめの物語が終わった10年後の世界を舞台にした新たな「フルメタル・パニック！」の物語です。原案の賀東招二に替わって筆を取るのは本当の新人作家です。

　都立陣大高校に通う一之瀬達哉はアーム・スレイヴの技術を転用した工業用機械パワー・スレイヴを扱うのが趣味の普通の少年だった。だが、暴走したアーム・スレイヴに襲われた彼は、謎の美少女と出会い、大きく運命を変えていくことになる…。

　パワー・スレイヴってパトレイバーかと思って読んでいたら、ウォーカーマシンだったぜ…何のことを言っているのか分からない人は巻末の設定資料を(ry
　というわけで、新しいフルメタです。AS含めた戦闘訓練を行う会社を舞台にして物語は進んでいきます。クールヒロインはロシア人、フルメタでロシア人と言えば一人しか思いつきませんが、多分無関係だろう…。フルメタ外伝で目出度いことになっていたあの人も登場ですが、相方は相変わらずの模様。つーか、あの口の悪さは遺伝するのか(；・∀・)それも二倍。ごくごくフツーの高校生が主人公なので、傭兵稼業は凄くハードでキューブリックのフルメタをちょっと思い出す展開だったりしますが、まあフルメタなのでそこら辺はコミカルに仕上がっています。サガラ軍曹ならすぐに生粋の兵士になれたのにね！クールヒロインはまだまだ甘いな,､'` （　´∀｀）　,､'`

　まあ、なんだかんだで文章も読みやすいし、更なる話が読めてヽ(´ー｀)ノﾊﾞﾝｻﾞｰｲな一冊でした。

「フルメタル・パニック！ マジで危ない九死に一生？」
著：賀東招二 イラスト：四季童子

　本編が先頃完結した人気シリーズの外伝最新刊です。

■与太者のルール(前後編）
　サバゲー同好会の認可を巡ってサバゲーマニア＆かなめが宗介と一戦交える話。アメフト部の話を引っくり返したみたいな感じですが、もちろん宗介は容赦ない（´Д｀；）まあ、凄く前に書かれた話なので、今となっては…みたいな。

■ご近所のサーベイヤー
　かなめの住むマンションで起きた事件を巡るミステリー…なわけはなくて,､'` （　´∀｀）　,､'`かなめの幼少時を知る人物との交流が描かれる日常系ストーリー。

■つぶらなテルモピュライ
　本当に「300」です、終わり。つーか、平松伸二,､'` （　´∀｀）　,､'`

■テッサのお墓参り
　書き下ろしの後日談です。ニューヨークに共に住んでいるテッサとマオは退屈ながらも平穏な日常を過ごしていたが…。

　　出来てるゥゥゥゥゥ！━━━━━━(;ﾟДﾟ)━━━━━━!!

　第一の衝撃。

　　ア“ル”ストォォォォル！━━━━━━(;ﾟДﾟ)━━━━━━!!

　第二の衝撃。
　バニ・モラウタの生地へ墓参りに出かけるテッサを描くストーリー。諸々あって南太平洋の島へと到着するが、案の定トラブルに巻き込まれる…。まあ、みんな元気で良かったね！というお話。

　そんなわけで、あとサイドアームズくらいしかネタが無さそうなこのシリーズ。もう後日談とかもいいんじゃないかな、あとは読み手に任せる！みたいな。別のシリーズと齟齬が生じても色々まずいだろうしね！(´∀｀)

「騙王」
秋目 人

　第十七回電撃小説大賞の第四次選考まで残ったという、何と言っていいのかちょっと難しい、きっと何か光るものがあったに違いない処女作です。

　ローデン国の第二王子であるフィッツラルドは、第一王子から疎まれ刺客を送られる日々を過ごしていた。自身の才覚によって頭角を現していくフィッツラルドはとある戦場で苦境に立たされるが…。

　とりあえず、世界観とかディティールに関する描写はほぼ皆無でござる。中世っぽい世界観は経験値で察しろ、みたいな勢いで物語は進んでいきますが、王子と誰かの会話によって進行していくのが主で、派手な戦争描写なにそれおいしいの？みたいな。そんなわけで、王子が策略を巡らせてそれを回収していく展開は、手段を選ばない主人公だったらピカレスクっぽくなったんでしょうが、思った以上に主人公はイイ人なので、周りのダメっぷりをアピールして、主人公の株を上げる手法に落ち着いています。タイトルのように口八丁だけで進んでいくこともなく、主人公は下準備をした上で最終的に博打を打つタイプだったりするので、何だこの人ふつうに優秀なんじゃ…（´Д｀；）

　まあ、絶望的に世界を描くことをしていないので、この辺りの勢力図とか歴史的背景とか色々サッパリですが、普通に書いたら五巻くらい必要な感じなので投稿作品としては無理っぽい、電撃とかだと。海外作品だったら普通に上下巻三部作って感じですよ、ロビン・ホブ作品みたいに。ライトノベル向けにしないで普通に世界を構築していった方が賞とかに近づいた気がする、もちろん電撃じゃなくて日本ファンタジー大賞の方だがな！,､'` （　´∀｀）　,､'`尺的に出来ない架空世界にするよりも中世ヨーロッパあたりを舞台にして主人公も大人にした方が上手くいったんじゃないかな、と思わせる色々惜しい一作でした。

デーモン（上）デーモン（下）
ダニエル・スアレース

　アメリカ出身のITコンサルタントでシステムエンジニアでヘビーゲーマーの作者によるサイバーテロ小説で処女作です。

　オンラインゲームで会社を設立し財を成した天才が死亡した。それと呼応するように同社のプログラマーが殺害される。担当刑事の元に死んだはずの天才からのメッセージが届き、すべての事件は天才が企てた計画であると思われたが…。

　と言う、死者の残したプログラムが原因でネットワーク社会が大混乱に陥るという、所謂サイバーテロが発生する小説なわけですが、タイトルの<デーモン>ってUNIXでお馴染みのDAEMONだよ！（´Д｀；）もちろん悪魔も掛けているのは言うまでも無い。そんなわけで、前半はミステリー仕立てで話が進んでいくわけですが、ネットワークやMMO、コンピュータ関連の用語が頻発して、翻訳の努力は分かるものの、読みにくくって仕様が無い。PINGとか説明してる小説初めて読んだわ,､'` （　´∀｀）　,､'`しかし、そんな努力も空しく分かってる人にはまどろっこしい説明でウザいし、分からない人には全然説明不足だろ、って言うどっちつかずに。まあ、講談社文庫の読者層的には全部注釈でも良かった気がする。そんな大変な翻訳とは別に、物語は想像を超えたカオスな展開を見せていき、言ってみれば「攻殻機動隊」前史みたいなネットワーク的な社会構造の変化めいたものに進んでいきます。現在のテクノロジーでなんとか構成できる展開には、頑張った感がありますが、二三年で陳腐化しそうなネタ満載なのが（´Д｀；）ハリウッド的なアクションシーンを経て最終的にはSFオチになるところとか、あれその人死んじゃうの？みたいな展開が意外といえば意外でしたが、こいつも続編が待ち受けてるのかよ！でるのかそいつは！？

　それはさておき、オビのタタキ文句は絶対読んでないだろ、これ、みたいなFPSっぽい描写がやたらと気合が入ったエンターテインメント作品でした。

　しかし、三二音声って何だ（´Д｀；）