2004/4/21

放屁 de 候  おいらのなかみ

(再発信)

いかにもありそうな話ではあるが、いかにも、あった話である。
なぜ今、こんな話かといえば、トラックバックのお題を拝見した故。

おいらは、昔、美容師だった。
前世の出来事ではない。
まだまだ性別で『男性美容師』などと区別された時代、サッスーン全盛期の頃。
おいらは美容師になった。
レザーでカットをし、カーラーを巻いてお釜に入り、ゴテゴテとセットをする時代からハサミのカット、ハンドドライヤーでブロー仕上げへと、テクニックそのものが変貌していく過渡期だったのだが、しかしまた、仕事としての実態は、旧態依然、徒弟制度の最右翼。見習いは給料の出ないお店すら在った。

おいらはそれでも、すずめの涙ほどの給料がなんとかもらえる有名美容室にインターンとして入社した。

トップスタイリストはサッスーンの本店で修行をした(らしい?)トムクルーズ似の男前。
長髪をたなびかせシザーを走らせる姿は平凡パンチのグラビア特集『将来有望職業NO.1!男性美容師』のそれと、ダブって見えたものだ。

ただ、このおっさん、よく屁をこいた。
説教しながら、プ。
昼飯食いながら、プ。
まあ、良いけども。
たかだか、屁、だ。
が、されど、屁、の事件がおいらを襲う。

インターンは技術者のアシストが仕事だ。
シャンプーをしてお席にお通しし、技術者を呼ぶ。
そのまま、傍らで必要なものを手渡したり、次の準備をする。
アシスト、といえば聞こえは良いが、実際、トップスタイリストとの関係は将軍と足軽ほどの差があるのだ。
よって、将軍様のアシストとなると、1万光年先の屁の音でさえ聞き分ける覚悟で、臨む。
相手は将軍、下手をすれば即、打ち首なのだから。

その日もおいらは将軍様のお客様をお迎えした。
ひととおり準備を終わらせ、カットに入る将軍様。
いつものようにそつのないおしゃべりをお客様と交しながら華麗に舞い始める。
おいらは傍らで息を潜めつつ、気を全開にし宙に漂う。

そのお客様はおいらよりちょっと齢上、美人である。
何度かシャンプーに入っていて、おしゃべりもしている。
おいらを気に入ってくれていて、おいらも、足軽の身分とはいえ、ただならぬものを感じていた。
その日、将軍はのっていた。
いつの間にかおしゃべりも途切れ、カットは佳境に入った。
のりのり将軍、いつもより華麗に、いつもより激しく、小柳るみこのバックダンサーのように、舞い、そして、いつもより大きめに・・屁をこいた。
1万光年先の屁でさえ聞き分けれるほど気を研ぎ澄ましたおいらには、ビッグバンの音にして、弾き飛ばされる程に。
(おおおお〜〜い!しょうぐん〜。ここで、屁かてえ。)
将軍様を見据えるおいらを、見据え返し将軍様は、2ミリほど首を傾げる。
目は半閉じだ。
(お前の役目だ。幸い美人は雑誌を読んでいた。おまえが、屁をこいたんだな?)
将軍様の信号はテレパスの如くおいらの脳みそに言葉として伝わる。
(おまえだな?おまえなんだな?おまえが、屁を、こ・い・た!!)
はい。将軍様。
瞬時に将軍様の脳においらの信号が返送された。
(私が、屁を、こきました。)

かすれる声で、でも、精一杯力強く、おいらは、言った。
『失礼しましたああ』
まるで、後ろから飛んでくるカメハメハ光線を避ける様に、腰をマッハのスピードで90度前屈しながら。

事なきを得た将軍様。
うふふ、と笑う美人。

店内にはエマニエル婦人のテーマソングが静かに流れていた。


その後のことは何も、本当に何も、覚えていない。
今、こうして生きてるって事は、あのあと、将軍様と刺し違えたわけでは、なさそうだ。





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