旧パラを検証する129
第十号 百人一局集 20
第九十一番
函館市千代ヶ岱町四〇地
パン工員 十九才
初段
古関 三雄氏作

☆海上保安庁の試験に合格したので十一月頃には見習として小樽海員養成所へゆく予定です。将棋を覚えたのは八才位。詰将棋創作の動機は将棋世界の市松模様の形が美しかったので入玉模様の市松を作ったのが病みつき、中篇物が得意で現在百五十前後の作品を有す。初入選は評論最近新しい感覚の詰将棋を作らむと張切っている。現在函館青年将棋研究会機関誌青龍に私の詰将棋連載中。以前は未来の名人候補二上三段とお互の作品の検討をし合ったものですが、今は二上君に遠く及びません。
21銀、同玉、32金、同玉、43銀、21玉、22銀、同玉、13歩成、同玉、35角、22玉、32銀成、同玉、43歩成、イ同玉、53歩成、32玉、43金、21玉、22歩、ロ同玉、33金、21玉、22金、同玉、66角、同歩、14桂、21玉、22銀、32玉、33銀成、同玉、25桂、32玉、44桂、21玉、22桂成、同玉、13角成、21玉、33桂生、11玉、12馬迄45手
イ43同玉の処21玉なら32金、11玉、25桂、19と、22金、同玉、33桂成、11玉、22成桂、同玉、66角以下早詰
ロ22同玉の処11玉なら25桂、19と、21歩成、同玉、32金、11玉、22金、同玉、33桂成、A11玉、22成桂、同玉、66角、同歩、14桂、21玉、22銀、32玉、44桂、41玉、52と迄早詰
A11玉で同玉、45桂(25桂も)、32玉以下不詰
★最初に43金を43銀に打ち替えておくのが大事です。つまり初手から13歩成以下作意順と同様にすると、35角、同歩、25桂、24玉、15金、34玉で不詰。この時の34玉を防ぐ為の打ち替えです。そして打ち替えた後の10手目13同玉の局面で角打の時に14玉の変化に備えた35角の限定打が好手で、これなら14玉とされた時に26の抑えが利いていて詰む訳です。35角に22玉の時通常なら32金ですが以下作意順に進んだ時、角筋が通っていないので詰まなくなります、したがって今度は44歩が邪魔駒で、32銀成〜43歩成とします。44歩が消去されているので、27手目66角と王手で銀が取れて、収束となります。
上述のように、金銀打ち替え〜角歩頭捨ての限定打〜44歩消去という見事な作品で、古関氏の初期作品の代表作になりそうな作品でしたが、ロ11玉の変化で不詰でした。作者の読みは変化ロの手順ですが、変化手順中、Aで11玉以下不詰でした、この指摘は当時ありませんでした。好作だっただけに勿体ないです、古関氏が作品集を出すことがあるのなら、初期作品の代表作の一つとして修正して欲しいです。
古関三雄氏は将棋評論に昭和22年11月号で初入選して以来、将棋評論・詰将棋パラダイス・詰棋めいとで作品を発表し現在も作品を発表し続けておられます。ペンネームはドン飛車、水尾光石。昔詰パラで水尾光石集というコーナーで作品を発表しておられたのを思い出します。また、兄の故古関茂氏と共に兄弟作家としても著名でした。中編を得意としておられますが、発表作数は約200作、3手〜121手迄の発表があるオールラウンドプレーヤーでもあります。
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第九十二番
東京都杉並区西高井戸一ノ一三八
無職(家庭にて療養中)三十四才
棋段級 なし
野崎 雅男氏作

88金、99玉、98金、89玉、99金、同玉、88銀、同玉、66馬、97玉、88馬、同玉、79銀、89玉、88飛、99玉、92飛成、97銀、89飛、同玉、12角成、99玉、22馬、89玉、23馬、99玉、33馬、89玉、34馬、99玉、44馬、89玉、45馬、99玉、55馬、89玉、56馬、99玉、66馬、89玉、67馬、99玉、77馬、89玉、78馬、99玉、88馬迄47手
☆少年の頃より多少詰将棋を作っておりましたが他の将棋雑誌に投稿した事はありません。パラ誌には本局以外に三局投稿しましたが活字になるのは本局が処女作となるかも知れません。作った時期は二十五年六月より七月にかけて・・・。
★99香の邪魔駒消去から入るのは巧い導入です。そして79の飛車を取る為に39馬の邪魔駒を消去するのですが、さりげなく97歩が消去されているのも巧妙な部分です。39馬と97歩が消去出来たので79銀も取れず、又92飛成として12角成が狙えるようになるのです。92飛成には97銀合が粘りのある受けで、以下は意表の馬鋸が発生します。
野崎氏は1950年〜1956年に14作、主に詰将棋パラダイスに発表されました。手数は9手〜103手。難解な構想作を得意にしておられました。三百人一局集では甥の橋本哲氏を発掘した功績大と書かれています。
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第九十三番
千葉県安房郡南三原村三原一〇七一
中学校教員 二十四才
棋段級 不明
大井 美好氏作

43銀、31玉、21飛、同玉、32角、22玉、23歩、同飛、同角成、同玉、24歩、22玉、52飛、13玉、23歩成、同玉、32銀生、22玉、41銀生、23玉、32銀生、22玉、A43銀生、23玉、34銀引生、同歩、24歩、33玉、53飛成、43角、23歩成、同玉、43龍、33金、35桂、同歩、45角、22玉、33龍、同玉、34銀、42玉、B52香成、同玉、63角成、42玉、33金、51玉、52馬、同玉、43銀成、51玉、42金迄53手
Aで43銀成、23玉、33成銀、同玉、34歩、44玉、55飛成、43玉、53龍、32玉、24桂、21玉、23龍、22銀、32桂成、11玉、22成桂迄39手の早詰
☆少年の頃より多少詰将棋を作っておりましたが他の将棋雑誌に投稿した事はありません。パラ誌には本局以外に三局投稿しましたが活字になるのは本局が処女作となるかも知れません。作った時期は二十五年六月より七月にかけて、、、。
★本作について旧パラ昭和二十六年七月号【「百人一局集」について】に指摘事項があります。以下転記。
☆第九十三番 大井美好氏作
本作は問題の一局。近将新年号で本作の原図(不完全)を塚田前名人が激賞し、それを反駁して本誌三月号つれづれ草に草柳氏が一文を草された処、本図でもやはり不完全であつた。作者よりも鄭重な断わり状が来て居りますが、作者の意見によれば本作は玉を三一に置き、持駒の銀を削り四三に置き、攻方五六香を五五に直して完全との申越です。本作に関しては本改図を以て一応問題の終止符を打ちます。御了承下さい。
☆指摘 石井藤雄 成田忠雄 川崎弘
★本作については、作者お気に入りの作品だったようで、後の三百人一局集にも選ばれています。その時の図面は56香→55香、玉方66とが配置されています。その図であっても、Bで53香成、同玉、63角成以下のキズは解消されていません。
戻って本作ですが、43銀の軽手に始まり、52飛と43銀を軸にした、銀と玉の舞が見事で、ヒラヒラと蝶の様です。43→32→41と桂を取ってから、32→43→34と捨てる。なんの為かと言うと、34銀捨ては打歩詰打開ですが、35桂と捨てて局面を打開する為なのです。自然な形からの意外な長手数と回転率の高い駒配置。見事な好作です。
★大井氏は切れそうで切れない捌きが続き、長手数になって行くという例を見ない作家で、約100作の発表があり、主に詰パラを中心に将棋世界や近代将棋にも作品を発表されました。大井流と言われ多くのファンが居ました。作品集が無いことが惜しまれます。
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第九十四番
奈良市中新屋町二一(猿沢地南二丁)
官吏 三十七才
一級
高木 秀次氏作

82銀生、84玉、87龍、同馬、86飛、同銀、76桂、同馬、85歩、同馬、74金、同玉、63銀生、同玉、73銀左成、52玉、43金、同成香、53歩、同成香、61銀生、51玉、43桂、同成香、52歩、同馬、同銀成、同玉、61角、51玉、41歩成、同玉、31歩成、同玉、21角成、同玉、43角成、11玉、12歩、同玉、24桂、同香、21馬、同玉、23香、31玉、22香成、41玉、32成香、52玉、42成香、53玉、43と迄53手
高木氏の作品にしては簡単で軽めの作品です。82銀生、84玉の次に74金以下収束手順に直ぐ入ると、後の52歩が打歩詰になります。そこで3手目で86飛が目に付きます。もし同馬なら85歩、同馬と85に馬を誘致し、52歩を打てるようになります。ところが、3手目86飛だと同銀と取られ、76桂、同歩、85歩、75玉となり詰みません。したがって、86飛では87龍、同馬の交換を入れてから86飛と捨てます。86飛を同馬だと、更に85歩、同馬以下52に馬が効いて、後の52歩が打てるようになります、したがって、86飛、同銀となります。今度は76桂に同歩なら、85歩、75玉、67桂で詰みます。76桂に同馬が決まれば、以下85歩以下52歩と打歩詰が打開出来ました。その後は2枚の角を捨てての奇麗な収束となりました。
高木氏は言うまでも無いですが、難解派の雄で正解者0の「千早城」を初めとした、複雑な伏線入りの構想作を得意とされました。発表作は約70作。昭和41年に看寿賞長編賞受賞だけでなく、7手詰コンクールで優勝されたり(短編名作選第123番)短編・中編作でも良い作品が多い作家でした。作品集「千早城」は是非とも入手して欲しい作品集の一つです。
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第九十五番
東京都渋谷区景丘町七地
高校学生 十八才
十二級 本局処女作
伊藤 忠秀氏作

22歩成、同金、同と、同玉、34桂打、同飛、同桂、33玉、32飛、44玉、45金、53玉、52飛成、64玉、55龍、73玉、75龍、82玉、83歩、92玉、72龍、93玉、82龍、84玉、85銀、75玉、A73龍、66玉、76龍、57玉、67龍、48玉、47龍、39玉、38金、29玉、27龍、28歩、同金、同金、74角成、39玉、28龍、同玉、29銀、37玉、47馬、26玉、25金、17玉、18歩、16玉、38馬迄53手
Aで72龍、71龍でも良い非限定。
妙味の無い図で、龍追いで捨て駒が一つも無いというのもある意味凄いかもしれません。
(駒取りは捨駒扱いしていません。)
伊藤氏の作品はこの作品だけのようです。

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