旧パラを検証する146
第十二号 6
詰将棋解剖学G入門より創作まで 谷向奇道
第七節 合駒の手筋
詰方が飛角香で遠方より王手をした場合、玉方にはその駒と玉との間に自駒を移動するか、或は適当な駒を打つことによつて王手を遮る手段がある。(第二編、第二部詰手筋の理論参照)之を「合駒の手筋」と言ふ。
合駒を打つ場合には、詰将棋の規約(a)によつて玉方は盤面の駒及び詰方持駒以外の任意の駒を使用することが出来るのであるから、打った駒の性能によつて詰方の狙ふ攻筋を消す様に合駒の種類を選択する必要がある。
これを「合駒の選択」と言ひ、選択された合駒を「二段活用の合駒」と言ふ。
扨て合駒の手筋を便宜上次の四項目に分けて説明する。
(A)移動合駒
(B)二段活用の合駒
(C)直接合駒
(D)中間合駒(中合)
(A)移動合駒
(1)遠駒の王手に対して単に合駒を打っては玉の逃路無く簡単に詰んで了ふ場合には、逃路を作る為に置駒を移動して合駒する手筋がある。
(2)或る守備駒が他の有力な守備駒の利きを遮ってゐる場合(玉方における邪魔駒)には、後者(有力な守備駒)の威力を表面化する為に、前者(邪魔駒)を移動して合駒する手筋がある。
この際に置駒の移動による合駒を総称して「移動合駒」と呼ぶ。

第七十一図では直ちに五三金と打ちたい所だが、 三二玉と寄られると二二から上部への脱出が絶対となって詰みがない。又逃走を牽制する為に六二飛も考へられるが、五二歩合、同飛成、同玉、五三金、四一玉となつて三一銀の利きが強くて失敗する。要するにこの局面で二二への退路があつては詰まない訳であつて、この様な場合には次問で説明するが、玉の退路に先着して之を封鎖して了ふ手筋がある。即ち二二飛打が好手筋で、同銀と取っても三二合と打っても、持駒の二枚金を打って簡単に詰みになる。二二飛に対して玉方は三二銀立と三一に退路を作りつつ置駒を移
動して合駒するのが最善で逃走を牽制する為に詰方にも四三金打の軽手が必要になる。
第七十一図古作物詰手順
二二飛、三二銀立(A−1)、四三金、同玉、五三金迄五手詰。

第七十二図は大道棋である。一見香の開き王手を利用して七三銀成で簡単に詰む様だが玉方には八四桂跳と九二に逃路を作る、本節(A−1)の手筋があつて、八四同香なら八三桂合と再度の桂合があり、又八二銀打に対しては九二玉と上る手順が生じるので不詰である。正解は九三銀成と香を入手しつつ開き王手をする順であるが、これに対し玉方には矢張り八三角出と六一に逃路を作る(A−1)手筋の妙手があつて詰方を狼狽させ様とする。六一への逃走を牽制する為に詰方にも八二銀打、七二玉、七三銀成の好手が必要である。本局は大道棋としては極めて容易な部類に属するが、八四桂跳、八三角出
の防手は流石と思われる。
第七十二図大道棋詰手順
93銀成、83角出(A−1)、82銀、72玉、73銀成、同玉、83成銀、同銀、74香、82玉、
83香成、同玉、72角、84玉、85銀打、93玉、94銀、82玉、83銀成、91玉、81角成、同
玉、72香成、91玉、82成香迄二十五手詰

第七十三図も大道詰将棋である。図の場合初手は六七角の開き王手を利用して、@七五飛又はA八八飛と開くよりないが、何れの場合にも玉方には七六桂跳と置駒を移動しての合駒がある。これは八四に逃路を作ると同時に守備駒八一香の威力を表面化せんとする目的をも兼具した本筋(A−1・2)の手筋であつて以下の攻防は次の如くである。
@七五飛−七六桂跳−
−(a)七六同角、八四玉、八五飛、七三玉不詰
−(b)七四飛、八五玉不詰
−(c)八六桂、同香、七六角、八四玉、八五飛、
七三玉不詰。
A八八飛−七六桂跳、茲で直ちに七六同角と取っては八五歩合とされて万事窮するから一
旦八四金と打捨てゝ同香と取らせ逃路を遮断してから七六角と出る。玉方こゝで八五に合
を打っては八六桂の一発でお陀仏だから、八五香上と再度移動合駒の筋で八四へ逃路を作
る。玉方の攻防に対抗する為に詰方にも八三銀成、九四角等の巧手が必要となる。
第七十三図大道棋詰手順
88飛、76桂跳(A−1・2)、84金、同香、76角、85香上(A−1)、同角、84玉、76桂、
73玉、83銀成、同玉、94角、92玉、83飛成、91玉、92香迄十七手詰。

第七十四図は秘手五百番の疑問局(五〇一)を修正したものである。一見初手二三桂生が映ずるが、二一玉、四二銀、一二玉となって王手は続くが決定打なく上部に逃げられてしまう。先ず一二銀成、同玉、四二飛成とする。これで玉方が合駒をせずに一三玉なら、二三桂成、同玉、二二龍迄だし、又三二銀合と奮発しても、二二金、一三玉、二三桂成、同銀、同金、同玉、二二龍で大同小異であるから簡単に詰みだと思う所だが、そこは流石実戦本意の大道棋、そうは問屋が卸さない。即ち四二飛成に対しては、三二飛と引き、飛車を犠牲にして四五馬の守備力を
表面化する(A−2)の妙手がある。この一手によつて詰方の攻撃を如何に遅滞させること
が出来るかをよくよく玩味して頂き度い。
詰方三二同龍と取り、一三玉、二三桂成、同馬となる。ここが紛れの多い所で、二三同龍
とか、二五桂とか指したい所だがいづれも不詰。二二銀生、同馬、四三飛が好手で(三三飛
打ならば、二三桂合と二段活用の合駒で詰まない。)これに対し玉方二三金合が最善あつて、
二二龍、同玉の時三三から角又は金を打つ手を封じてゐる。が詰方にも三一角、同玉、二一
金打の好手順があつて詰みになる。
第七十四図改作大道棋作意
12銀成、同玉、42飛成、32飛(A−2)、同龍、13玉、23桂成、同馬、22銀生、同馬、43
飛、23金合(B)、22龍、同玉、31角、同玉、21金、32玉、44桂、21玉、23飛成、11玉、
12金迄二十三手詰。

(B)二段活用の合駒
遠駒の王手に対して打った合駒の性能によつて詰方の狙ふ攻筋を消す様に選択された合
駒を「二段活用の合駒」と言ふ。
(註)第十七図及びその説明を参照され度い。
第七十五図で先ず三二龍と引く。玉方一三玉と上れば三三龍にて簡単であるから二二へ
合駒する一手である。二二へは何を合するのが最善であらうか?こゝでは二二銀引は意味
が無いから、先ず二二歩合を検討して見よう。二二歩合、二三銀、一三玉、一四銀成、一二
玉、二三成銀迄。この詰は二二の合が桂以外なら常に成立するから、玉方は一四銀成の手段
を阻止する為に二二より一四に利く桂を合駒にふるのが最善である。二二桂合、二三銀、一
三玉、一四銀成の時今度は同桂、と取る手がある。詰方三三龍と引き玉方再び二三合の一手
となる。二三の合には何がよいか。二三歩合ならば以下二二銀、一二玉、一三歩、同角、二一銀生迄。この二一銀生を消す為に二三より二一へ利く飛が最善の合駒となる。二三飛合。詰方この攻防に屈せず二二銀、一二玉、一三歩、同角、二一銀生と攻め同飛と取らせて三二龍と進む。玉方二二合を打つと三四角と出られてそれ迄であるから逃路を作る為に(A−1)手筋によつて二二角引が最善、かくて三四角、一三玉、二三角成で終演となる。本局は二段活用の合駒を自由自在に駆使した柏川氏の好作である。
第七十五図詰将棋(柏川悦夫氏作)詰手順
32龍、22桂合(B)、23銀、13玉、14銀成、同桂、33龍、23飛合(B)、22銀、12玉、
13歩、同角、21銀生、同飛、32龍、22角(A−1)、34角、13玉、23角成迄十九手詰

第七十六図は大道棋で二段活用の合駒の精髄を遺憾なく発揮したものと思ふ。
一見六二飛と打てば、七二合、八三金、九一玉、九二金、同玉、七二飛成となつて九一玉なら九二香。又八二合なら八三銀成で簡単に詰む様思われるが、それは詰方の独善であつて六二飛に対して玉方には七二飛合と打つ手段がある。八三金、九一玉、九二金の時飛合の効果は九二同飛と取る防手を生ずる。
詰方同飛成と取り、同玉に再び六二飛と打つ。これで八二合に対して、八三銀成、同玉、八九香、九四玉、八四金の詰みがありそうだが、八二飛合と再
度の飛合によって八四金を封ずる手段がある。そこで詰方も六五角、同香と守備駒の位置を
変更せしめて準備工作を行ひ、八三銀成、同玉に八五香と浮かし打つ。これは次の六四飛成
の時玉方が七四桂合と防ぐ場合を慮った。『〔原則7〕香は出来る限り下から打つべし』の逆
を衝く絶妙手であつてこの香をもつと下から打っては六四飛成の時七四桂合とされて詰み
がない。八五香以下は九四玉、六四飛成、七四角合、同龍、同歩、七二角、同飛、八四金で
詰む。
第七十六図大道棋詰手順
62飛、72飛合(B)、83金、91玉、92金、同飛、同飛成、同玉、62飛、82飛合(B)、65
角、同香、83銀成、同玉、85香、94玉、64飛成、74角合(B)、同龍、同歩、72角、同飛、
84金迄二十三手詰。
註、十手目再度の飛合の所で八二香合としても同手数でも詰むが、最終七二角が紛れる点
と、詰上りの駒数が少なくなる点とより飛合を本筋と思ふ。尚、十一手目六五角で八三銀成、
同玉、六五角と手順前後すれば、七四歩と受けられて詰まない。注意を要するところである。
(以下次号)
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第71図は初代宗桂の将棋造物第10番が原図の有名な、古作物ですが、2手目32銀の移
動合が謎の応手、同銀でも変同だし、32飛合すれば変長になります。

第74図は秘手500番の501番の不詰作を改作したものですが、形幅清氏改作の玉方66歩追加の図(大道棋奇策縦横巻頭図)の名改作が決定版でしょう。

第76図は北原義治氏の未発表作が独楽の郷第32番に次図が掲載されており、大道棋が原図と書かれていることから、この図を改作したものと思われます。どちらの図でも82合は香合でも良くて、72角が捨駒では無い弱点があります。

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