旧パラを検証する112
第十号 百人一局集 3
第六番
群馬県利根郡桃野村字上津熊谷組内
土工 二十才
荻野 修治氏作

23銀、同玉、12飛成、14玉、23龍、25玉、14角、同歩、34龍、同馬、26金迄11手
★2手目の局面で32飛が邪魔駒になっていて、それを押し売りする手順で、今は2手目からの9手一括りで既存の手筋になっていますが、当時としては新鮮でした。今でも使われる手順を70年も前に表現している荻野氏の感覚が素晴らしいとも言えます。
荻野氏は40作程発表作があり、有力な作家でした。そして荻野氏の名を後世に知らしめたのは、「ばか詰」のルール考案者だということでしょう。今のフェアリーの発展を見るにつけ、荻野氏の功績は永遠だと言っても過言ではないでしょう。
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第七番
東京都練馬区下石神井二丁目一三二二番地
東京都立西高等学校在学中 十七才
棋段級 なし
一色 健三氏作

99香、同龍、A96飛、88玉、97角、78玉、89銀、同玉、79金、98玉、88角迄11手
★99に逃げられないように、99香の軽手から入り、97角〜89銀のコンビネーションいい感じですし、最終手が空き王手というのもこの時代としては珍しくて、そこそこ面白いと思ったのですが、掲載時より余詰指摘ありました。Aで96と、98玉、97金、88玉、98飛、同龍、同金、78玉、69銀、同玉、59飛、78玉、89角迄。指摘は草柳俊一郎氏一人だけです。修正案として玉方93歩配置が提案されています。(恐らく鶴田主幹の案)駒を増やさずに修正するなら、攻方67歩→玉方76銀という案もあると思います。
一色氏はこのころ活躍された作家で、短編〜中編、実戦形〜曲詰まで幅広い作風で、30作弱、各紙で作品を発表されました。質的にも時代を考えれば優れた作家でした。
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第八番
鹿児島県川内市楠元町二一四六番地
農業 三十才
農業の余暇に詰将棋を研究す棋段級なし
落合 祐治氏作

83歩成、同桂、84桂、82玉、81角成、73玉、82馬、62玉、72桂成、53玉、44金迄11手
★配置に無駄があり、83桂を取って持駒を桂にするか、81金を取って持駒を金にするだけで、初手か5手目のどちらかが捨駒になります。
この図では、83歩成も81角成もいずれも捨駒ではないので、解後感が良くありません。収束も攻方の馬が残り未消化な感じがします。
類型的ですが、改作図を示してみます。

改作図作意:84桂、82玉、81角成、73玉、82馬、62玉、71馬、同玉、72金迄9手
落合氏はこの1作のみ発表されておられます。
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第九番
鉄道員「新潟駅」勤務 三十四才
棋段級不明で勤務の傍ら専ら詰棋の研究をなす
亀田 一光氏作

74桂、同歩、73銀、同桂、91銀、92玉、72飛生、91玉、92歩、81玉、71と迄11手
☆最近新潟支部(労組主催)の将棋大会にて優勝。満6カ年の軍隊生活中も大隊旅団の大会にて優勝した事あり。職場に於ては相手なく且つ勤務の関係上詰将棋に専念して居ります。
★本作については当時次ぎの指摘あり。
☆広瀬一陽(東京都)「これと全然同じ図が本図より前にラジオテキストに原田八段自作第十九番として載って居り果たして偶然の一致か」
長谷川泰三、村田隆生、大神島吉の諸氏からも同様の指摘。
内藤武雄(静岡県)「本図将棋月報に類似手筋多数あり陳腐」
作者亀田一光曰「小生の愚作が原田八段作と同じとのこと諸戸富彦氏(名古屋)より通知あり驚きました。将棋に関する本は木村のやさしい詰将棋、塚田の名人襲位記念百番の二冊のみ。たまたま貴誌の創刊を知り愛読しているもので、本作は処女作であり模造転掲のものではない事を誓います。」
☆公平な判断は読者に一任として軍配を引いておく。(編集部)
★この図自体が当時でも手筋で新作と言えない内容だったということでしょう。亀田氏は本作しか発表はありません。
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第十番
栃木県上都賀郡日光町荒沢六の三五
金属熔接工(古河電工日光電気精鋼所所素材課)
二十九才 七級
荒沢将棋研究会を組織し活躍中
金子 治雄氏作

27銀引、同歩成、28桂、同と寄、17歩、25玉、35金、26玉、34金、36玉、35角成迄十一手
☆二十一年三月佐野の石川二段により松田七段に師事勉強し評論教室王将近将パラと何れも創刊号より購読、現在も将棋を趣味として一日の労を慰している。「荒沢棋人」のペンネームで労組発行の機関紙の将棋らんを担当将棋普及に努みつつあり、二十五年一月頃より創作に志しこの頃やつと作品らしいものになりつつあります。
★初手二七銀引か上かで一寸だけ迷いますが、以下は手なりで詰んでしまいます。何れにしろ、初手駒取りは味が悪く、36銀と27金を取って持駒にする位で簡単に解消出来ます。改作図程度にはしたい所です。

金子氏は他に将棋評論に1作発表があるようです。

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