旧パラを検証する101
第十号7
詰将棋解剖学7入門より創作まで・谷向奇道
第五節(十二月号の続き)

第六十五図は打歩詰を回避する為に一寸変った手段を必要とする作品である。最初七四飛成は絶対で、九三玉の時九四銀と打ち同馬、同歩、八二玉となつて、これで打歩詰の局面になる。打歩詰回避には
九三角打が一寸筋と言ふ感じだが、同桂、同歩成、
同歩、八三歩、八一玉となつて王手は続くが決定打を與へることが出來ない。茲は
九三歩成の一手で同玉と取る。次に八五桂と打ちたい所だが、八五桂、八二玉、七三角、七一玉となつて七二歩が二歩であつて打てず詰みがない。又、八五桂、八二玉の時九三角なら
同角、同桂成、同玉で矢張り詰まない。
八二角と打つて同玉と戻すのが好手で八三歩、九三玉、八五桂迄となる。
第六十五図詰将棋作意
七四飛成、九三玉、九四銀、同馬、同歩、八二玉、
九三歩成(C)、同玉、
八二角(特)、同玉、八三歩、九三玉、八五桂迄十三手詰

第六十六図も打歩詰を特殊な手法で打開する作品である。この局面では先ず一四飛と捨て同玉に三二角と打つより手段が無い。これに対し一五玉と上っては一六歩、二四玉、二三角成迄となるから二四玉と寄る。茲で二三角成では一五玉で打歩詰の形となり打開策が無い。
二三桂成と指し一四玉、二二成桂、二四玉となる。次に再び二三成桂では千日手の禁手となるから二三角成は止むを得ない所。一五玉。そこで
三三馬と王手する。二四金(飛)合なら一六歩、一四玉、二四馬、同玉、三六桂、三三玉、三二金(飛)迄だし、飛金以外の合では一六歩、一四玉、二三馬で簡単であるから一四玉と引き、三二馬と行く。二四玉。次に二三成桂と引き一四玉、一五歩、同玉、三三馬、一四玉、二四馬で詰む。桂を成ってから三二の生角を馬に代えるのが狙いであるが一寸千日手を感じて中途で放棄しやすい手順である。尚、盤面四枚桂配置の意味は三手目三二角打の時二三桂合(不詰手順)をさせぬ為である。
第六十六図詰将棋(山川七段作)詰手順
一四飛、同玉、三二角、二四玉、
二三桂成、一四玉、
二二成桂、二四玉、
二三角成(特)、一五玉、
三三馬(特)、一四玉、
三二馬(特)、二四玉、
二三成桂(特)、一四玉、一五歩、同玉、三三馬、一四玉、二四馬迄二十一手詰。
練習問題として将棋図巧。図式百番、将棋精妙から夫々一題宛選出したが前二者は極めて難解であるから後の解答を見て充分その構想の妙を鑑賞して戴き度い。将棋精妙より選出した問題は練習の為一つ自力で詰めて戴き度いものである。
註、将棋精妙(二代伊藤宗印作)は一名「不成百番」とも称せられ、収められた作品百番全部が不成の手筋を含む趣向で「不成」研究の宝典である。

第六節 持駒を活用する手筋
持駒は詰方が自分の手番に盤面上の任意の空所に打つ事が出来るのであるから、或る駒を持駒として蓄えてゐる間は之が控への圧力となつて、盤面上の駒はその性能以上の妙技を発揮することが出来る。即ち、持駒によつて「取れば詰みがあり」を見せつつ詰方の駒を
単独で玉の利きを捌く手段を、持駒を活用する手筋と言ふ。
これは例へて見れば、傳家の宝刀を擬して「抜くぞ、抜くぞ」と威嚇する様な手段であつて、平凡に並べて行っては持駒が不足する詰将棋に屡々に適用されてゐる。次に実例を示す。

第六十七図では四二龍、三二銀引、三一銀、二三玉は絶対の手順である。次に三二龍、同玉と切って
二一銀と打つ。この銀打は持駒に金があればこそ成立するのであつて、持駒を活用する手筋の中最も初歩的なものである。取る手なく二三玉と逃げる一手。そこで更に
一二銀生と捌くのが妙手で本筋の手筋の基礎的な手段である。
本作品は(金−銀)による持駒を活用する手筋の原型である。
註、(金−銀)は持駒金を控へとして銀を捌く手段を表す。
第六十七図詰将棋(古作物)詰手順
四二龍、三二銀引、三一銀、二三玉、三二龍、同玉、
二一銀(金−銀)、三三玉、
一二銀生(金−銀)、同玉、二二金迄十一手詰

第六十八図では先ず一三金、同桂、二一角、二三玉と攻める以外に
手段が無い。次に
三二角成もこの一手で角成と同時に持駒に金が這入るから、同玉なく三四玉と逃げる。次に四五玉と出しては遁走されるから「逃走を牽制する手筋」によつて二三馬とする。同玉に三三金と脱出をガッチリ押へ一二玉の時、
二一銀生と捌くのが(香−銀)の手筋である。
第六十八図詰将棋作意
一三金、同桂、二一角、二三玉、
三二角成(金―馬)、三四玉、二三馬、同玉、三三金、、一二玉、
二一銀生(香−銀)、同玉、二三香、三一玉、二二香成迄十五手詰。

第六十九図では一見五二金打と指したい所だが、同金、同金、同飛、となつては後続がない。
四二金と単独に這入る。之を同飛なら五三桂。同玉なら五四桂以下詰があるから四二同金と取る。茲が一寸難所で平凡な三一金や五三桂は指し切りに陥る。
三二金が(金−金)の好手で、同玉なら三一金、同金なら五三桂で詰むから五一玉と寄る一手。四二金と寄せ同飛に、更に
四一金と(金桂−金)の好打を放って収束となる。尚、初手
四二金の如きも広義の「持駒を活用する手筋」と考えられる。
第六十九図詰将棋作意
四二金(金金桂−金)、同金、
三二金(金−金)、五一玉、四二金、同飛、
四一金(金桂−金)、同玉、五三桂、五一玉、六一金迄十一手詰。
(註)本図は実戦に現れたものである。

第七十図で一三玉と出さぬ為には二二香成の一手である。同玉。次に平凡な二三銀打や一四桂打等では三一玉と這入られて持駒が不足する。三三金行と単独で歩頭に出るのが同玉なら二三金、四三玉、四四銀迄。同歩なら二三金、三一玉、三二銀迄を見せた(金銀−金)の妙手である。取る手なく三一玉と引く一手で、三二金、同玉、四四桂以下比較的容易に詰上る。
第七十図詰将棋作意
二二香成、同玉、
三三金行(金銀−金)、三一玉、三二金、同玉、四四桂、四一玉、五二桂成、同玉、五三歩、同玉、五四金、五二玉、五三銀、四一玉、二三馬、三二金合、五二金、三一玉、四二金、同金、同銀成、同玉、四三歩、五二玉、四一馬、同玉、四二金迄二十九手詰。
常に持駒との連絡を考えつつ駒を捌く事は詰将棋に於いても、実戦に於いても極めて重要なる事柄である。その表面的な手順丈けでなく根幹をなす原理をしつかり把握して戴き度い。

(第五節の分)
将棋図巧第一番詰手順
54銀、75玉、87桂、86玉、
66龍(B)、同龍、95角成、76玉、77歩、同龍、同馬、85玉、
15飛(B)、25飛、同飛、同角、95馬、76玉、
26飛(B)、36飛、同飛、同角、77馬、85玉、
35飛(B)、45飛、同飛、同角、95馬、76玉、
46飛(B)、56飛、同飛、同角、77馬、85玉、84飛、同玉、95馬、83玉、82金、同歩、
75桂(B)、同香、84歩、92玉、81銀、91玉、82と、同玉、72金、91玉、92歩、
同角、同銀成、同玉、74角、91玉、82金、同玉、83歩成、71玉、62馬、同玉、63銀成、61玉、72と、51玉、52成銀迄69手詰
数十手先の打歩詰を回避する為に
一五飛以下、
七五桂として玉方一六角の利きを九二の点へ及ぼさせる構想の妙を心ゆく迄鑑賞され度い。
図式百番第十一番詰手順
83歩不成(A)、71玉、72銀、同玉、
82歩不成(A)、62玉、63歩、同玉、45角、同桂、54銀、62玉、63歩、71玉、81歩成、同玉、86香、同飛、72金、92玉、83銀、同飛、同角成、同玉、82飛、94玉、95歩、同玉、96金、同玉、86飛成迄三十一手詰
将棋精妙第七十六番詰手順
71金、同金、同飛成、同玉、
73飛不成(A)、81玉、
71金、92玉、
84桂(C)、同香、93歩、82玉、72金迄十三手詰。
(以下次号)
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第五節は打歩詰を回避する手筋なのですが、どうも本質的な解説になっていなくて、ただ打歩詰局面の有る作品が並んでいるだけの印象を受けます。私なら、六十五図は83歩と打つ為に94歩を消去し、82角で元位置に玉を移動させて、83歩と打歩詰を打開するという感じで書くでしょう。六十六図は詰将棋作品として面白い、でも先に23角成だと15玉、33馬、14玉で打歩詰が打開出来ないという解説は適切ではないと思う。作意順でも同様にした32馬として打開するのですから。この作品は打歩詰の打開というよりも、単に23桂成以下、22成桂を据えないで23角成とすると、33馬に24金の変化が詰まないという短編構想になっているところが面白いのだと思います。
第六節の持駒を活用する手筋っていうのは、全く意味が解りません。持駒を使って詰ますのは当たり前で、手筋以前の問題だと思います。持駒のある詰将棋は全て、持駒を活用するに決まっていますから、、、。
谷向氏の「詰将棋解剖学」はよく判らない定義を自作紹介の為に使っているような印象を受けてしまいます。例えば今回でも六十九図と七十図の谷向氏作は蛇足でしょう。
毎回納得が行かないのは練習問題の意味で、論考で在りながら作品を練習で解いてもらうというのは、論考として破綻していると思います。
ところで、今回の練習問題は次回以降に解答が出て居ません。参考図では無く問題である以上、解答は掲載すべきではないでしょうか?という訳で解答を載せておきます。
練習問題(将棋玉図第二十八番)解答
22銀打、同銀、同銀成、同玉、33金、同歩、21飛、同玉、32銀、22玉、14桂、同と、13銀、同玉、12角成、24玉、13馬、34玉、35金、同角、23馬21手詰
余り面白い手順では無く、玉図としてはいま一つなのですが、実は詰上りが寛政七年を示す大小詰なのでした。
練習問題(谷向奇道氏作)解答
23飛成、同玉、13金、32玉、44桂、同金、23角、同角、22飛、イ31玉、41銀成、同玉、52銀、31玉、42銀迄15手詰、
が作意と思われますが、イで33玉、23飛成、42玉、43銀打、同金、同龍、31玉、41銀成迄 17手駒余りの合駒に関係の無い変長で当時は問題無かったのでしょうが、作意順も収束が締まらないだけに痛いと思います。

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