旧パラを検証する67
第七号4
前田三桂著 失礼御免 ヘタの横槍 乾の巻 (転載・・・三)
第三槍
或時名人大橋宗英が、門人楢崎新三郎と指した将棋で、終盤の一手に四時間も熟考した事があつた。門人達は、宗英師の勝は明かであるのに、何故の長考かと、是を不審に思って其の理由を尋ねた。
宗英師曰、「此将棋を勝つのは造作もないが、詰があると感じたので、複雑な手を読んだのである。棋譜は後世に遺る。仮令勝っても、詰を見落として居たとあつては末代までの名折である」と深く門人達を誡めた。
宗英名人の訓誡は現代の棋士に対しても、頂門の一針たらねばならぬ。
昭和九年六月
勝 小 泉 兼吉 七段
先 溝呂木 光治 七段
▲5六歩 △5四歩 ▲7六歩 △6二銀 ▲6八銀 △5三銀
▲5七銀 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩 ▲7八金 △8五歩
▲7七角 △4二玉 ▲6七金 △3二玉 ▲8八飛 △7四歩
▲4八玉 △6四歩 ▲3八玉 △4二銀上 ▲1六歩 △1四歩
▲2八玉 △6二金 ▲3八銀 △7三金 ▲4六銀 △4四歩
▲5五歩 △同 歩 ▲同 銀 △4三銀 ▲4六銀 △3三桂
▲5七銀 △4五歩 ▲4六歩 △同 歩 ▲同 銀 △4五歩
▲5七銀 △4四銀右 ▲3六歩 △3一角 ▲4七銀 △6三金
▲3八金 △5四金 ▲3七桂 △9四歩 ▲9六歩 △2四歩
▲2六歩 △5三角 ▲4八銀 △3五歩 ▲同 歩 △4六歩
▲3六銀 △3五銀 ▲同 銀 △同 角 ▲3六銀 △4七歩成
▲3五銀 △3八と ▲同 玉 △3六歩 ▲3四歩 △3七歩成
▲同 銀 △4五桂 ▲4六銀上 △5五桂 ▲3三歩成 △同 玉
▲5五銀 △同 金 ▲6五歩 △3七銀 ▲4九玉 △4八金
▲同 飛 △同銀成 ▲同 玉 △4七歩 ▲5九玉 △3九飛
▲4九歩 △3五飛成 ▲5五角 △4四銀打 ▲3六歩 △同 龍
▲3七歩 △4八歩成 ▲同 歩 △2六龍 ▲2七歩 △同 龍
▲4四角 △同 銀 ▲3四銀 △同 玉 ▲4六桂 △3三玉
▲3四金 △4二玉 ▲4四金 △2九龍 ▲6八玉 △7七銀
▲同 玉 △5五角 ▲6八玉 △4四角 ▲4三銀 △3一玉
▲2三角打って次の局面となる。

此時小泉氏は八分考えて△5七銀と打ち以下▲同 金 △同桂成 ▲同 玉
△6六金▲6八玉 △6七金打 ▲同角成 △同 金 ▲同 玉 △6九龍
で溝呂木七段は兜を脱いで降参した。
大崎八段此棋を評して、終盤の寄せは非凡なりと激賞して居るが、宗英名人の愧づる所である。
横槍曰。五七銀と上から打っては面白くない。五九銀と下から打ちたい。
5九銀打 5八玉 5七歩 ○イ4七玉 4八銀成 ○ロ同 玉 2八龍 3八金 5八歩成 ○ハ4七玉 5七金 3六玉 2五龍迄
又初め5九銀と打った時7八玉なら 8八金 6九玉 4八銀成 6八玉 5九龍だ。
若し反対に先に六九玉と逃げるなら、四八銀成 七八玉 八八金 六八玉 五九龍迄で同じこと。
○イ5七歩 4七玉の処同金なら
同金 同桂成 同玉 6六金 4七玉 (5八玉では 5七金打 6九玉 6八金)5七金打 3六玉 2五龍迄
○ロ四八銀成 同玉の処三六玉なら三五金、又五六玉なら五五金迄。
○ハ5八歩成 4七玉の処同玉なら
3八龍 4八歩 5七歩 同金 6八金 同玉 4八龍 5八歩 5七桂成 7九玉 8八金 6九玉 5八龍迄
詰のある所は詰めて置くのが本式だ。
アツハツハ。失礼御免。
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先ず、読んで疑問に思ったのは投了図で詰みだから投了したのだから、何が問題なのかと思ったのですが、68桂合で際どく即詰は無いみたいで、受け無しで投了したので、即詰みを前田氏が指摘したということです。
大橋宗英名人の逸話は私も好きな逸話で、矢張りプロたるもの、棋譜が残るものと考えて、詰みのある局面で詰まさないのは恥ずかしいと思ってもらいたいものです。そういった意味で詰みがある局面では絶対詰ますという気概が伝わってくるのは、谷川先生くらいのような気がします。

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