旧パラを検証する60
第六号8
詰将棋解剖学C入門より創作まで 谷向奇道
第三節 敵状を打診する手筋
敵状整然として一見着手困難なる場合には、敵の駒の利きの急所へ捨駒を放ち、敵の出様を窺う手筋がある。之を「敵状を打診する手筋」と称し、次の二手法がある。
(A)敵方の駒が整然と利いてゐて攻めが困難なる場合には、二つ以上の駒の利きの焦点へ捨駒して利きを重複せしめる手法がある。
この手法を詰方が行ふ場合には「模様見の手筋」と言ひ、「模様見の手筋」の中遠駒によるものの解説は第八節に譲る。
又玉方がこの手法によつて合駒する場合を「中合の手筋」と言ひ、その説明は第七節迄お待ち願い度い。
(B)詰方の駒の利きのある方から玉を追っては他方面へ逃げられてしまう場合には玉の逃路に先鞭して捨駒する手法がある。之を「玉を限定せしめる手法」と呼ぶ。
(第三十九図)

第三十九図は塚田前名人の作品である。図の局面では二八飛の防力が強いから之の位置を変更せしめて後攻撃に移らねばならぬ。先ず防御駒の利きに二六金と打つ。同飛成と取れば同じく敵の駒の利きの焦点へ一七金と打って一七同龍。そこで最後に三度敵駒の利きに一五飛と打ち同香、二五銀引迄で詰む。この手順は本題の変化手順となってゐるが、二六金、一七金、一五飛と「模様見の手筋」を連続的に含んでゐることより考えて塚田氏の主眼はこの手順にあつたものと思われる。
第三十九図詰将棋詰手順
二六金、一七玉、一六金打、同香、同金、同玉、二五銀、同飛成、一七香、同玉、一八飛迄十一手詰
変化 二六金、同飛成、一七金、同龍、一五飛、同香、二五銀迄(三度の「模様見の手筋」を含む)
(第四十図)

第四十図は「模様見の手筋」の典型的なるもので、玉方の守備駒が整然と利いてゐるので、一寸何処から攻めてよいのか迷う所である。
か様な時は駒の利きの焦点に捨駒を放って見る。即ち三三の点が三二飛、五五角、二一桂の利きの集った急所で、三三金と打てば玉方が何で取っても駒の利きが重複して攻め易い形となる。玉方は三三同飛と取るのが最善。次に角道が止まったからと慌てて二二金等と打っては一三玉で藪蛇となる。即ち再度一三飛と桂香の利きへの焦点へ「模様見の手筋」を放ち敵の出様によつて攻めを選択するのが不可欠の手段で、三三金、一三飛等の手段をよく玩味して頂き度い。
第四十図詰将棋作意
三三金、同飛、一三飛、三二玉、三三飛成、同角、二三角、同玉、三四銀、三二玉、三三銀成、同桂、二一角、四一玉、四二金、同金、同銀成、同玉、二二飛、五一玉、五二金迄二十一手詰。
右の手順中七手目二三角は四一玉と逃げられるのを阻む「逃走を牽制する手筋」で、同玉と取らず四三玉なら、六三飛の好打があつて早詰となる。
(第四十一図)

第四十一図も着手の困難な局面であるが今迄の説明を読まれた読者には直ちに三三角打が眼に映ることと思う。同玉の時更に四三金と打ち玉を裸にしてから「玉を限定する手筋」が必要になる。
第四十一図詰将棋作意
三三角、同玉、四三金、二二玉、三二金、同玉、三一金、三三玉、二二角、同玉、四二飛成迄十一手詰。
(第四十二図)

第四十二図は入玉形であるが矢張り着手に迷う局面であらう。着手は八六馬と玉頭に飛び出す奇手であるがこの一手の如き正に「敵状を打診する手筋」とうなずかれる事と思う。
第四十二図詰将棋作意
八六馬、同玉、七五馬、八七玉、九七馬、七八玉、七九金、六七玉、六八金迄九手詰。
(第四十三図)

第四十三図では四二角の活用を計るのが主眼であるから、一三金と捨て同玉、三一角成とする。二三玉。扨てこの局面では二二馬と指したい所だが、そうすると三四玉、四六桂、四三玉となって銀一枚では後続が無くなる。「詰方の駒の利きのある方から追っては他方面へ逃げられてしまう場合には云々」と言ふ前述(B)の説明を想ひ出すならば三四銀と玉の路に先着する。「玉を限定せしめる手筋」が発見されよう。
第四十三図詰将棋(塚田前名人作)詰手順
一三金、同玉、三一角成、二三玉、三四銀、同玉、四六桂、四三玉、四二馬迄九手詰。
(第四十四図)

第四十四図で平凡な四二龍では二三玉以下上辺へ出られて詰がない。駒の配置より玉を左辺へ追う事が明らかであるから先ず二三銀打と玉の退路に先着する。之が「玉を限定する手筋」で同玉なら一五桂以下詰だから三一玉と引く。以下左辺に追って打歩詰の形となるがそれを打開して詰む。
第四十四図詰将棋作意
二三銀、三一玉、三三龍、四一玉、三二龍、五一玉、六三桂、六一玉、七一桂成、同玉、七二銀、八二玉、六三銀生、八三玉、七二龍、九四玉、九五歩、同玉、八七桂、九四玉、八五金、同歩、九五歩、八四玉、八一龍、八三合、九六桂迄二十七手詰。
註:「敵状を打診する手筋」は第六節「持駒を活用する手筋」(後述)と密接な関係を有してゐるから御参照願ひ度い。
「敵状を打診する手筋」は非常に多くの作品に取り入れられてゐる手筋であつて然も最も「捨駒の為の捨駒」と言った感じのする手筋でもある。単に詰将棋においてのみならず実戦に於いても本節の手筋によつて敵玉の死命を制し得る事が稀ではない。
[格言]守備駒の利きの焦点、玉の逃路に好手あり。
(練習問題)将棋図巧第二十一番

〇前号練習問題解答
(練習問題)
将棋図巧第三十六番

詰手順 二五金、同角、三六銀引(Aの甲)同角、二五金、同角、三六飛(Aの甲)同銀成、四七桂、同成銀、二六金、四四玉、三三角成迄十三手詰。
(練習問題)
将棋図巧第四十九番

九八歩、同馬、同銀、同玉、九九角成(Bの甲)、同玉、一一角打、九八玉、九九金、九七玉、六七飛、同と、九八銀、八六玉、八七銀左、同成銀、同玉、八八金、八六玉、八七銀打、七五玉、二二香成、二五歩合、同龍、同成桂、七四歩打、六六玉、一二成香、五六玉、五五角成、四七玉、四八歩、同玉、三七馬、三九玉、二八馬、四八玉、三七馬、三九玉、二九金、同玉、二八馬迄四十三手詰
(練習問題)
図式百番第一番

四二桂成(邪魔駒を捌く手筋Cの甲)、同金、三三金(模様見の手筋)同金、四四銀、同金、三三龍(逃走を牽制する手筋)同玉、四五桂、同金、三四金迄十一手詰。註、この詰手順は「妙手説」を採用してある。
(練習問題)

(自作「逃走牽制」練習問題)二一馬、一三玉、四三飛成、一四玉、二三龍、同玉、三二角、三四玉、四四金、同玉、五四角成、三四玉、四六桂、二三玉、三二馬行、一三玉、二二馬引迄十七手詰。
(七月号研究問題)

〇二九香の一手で詰みそうだが、二三金合の妙手で詰まないことは大方諸賢既に御存知でしょう。
(つづく)
--------------------------------------------------------------------
内容は兎も角、谷向氏の作品の例題が、いまひとつだと思う。中篇を選ぶと手筋紹介の主眼部分が呆けると思うのですが、、、。
また本筋からは反れますが、パラの学校に投稿してある作品を例題として出したりするのも、今では考えられないです。特に無双五十七番の改作を今月の大学に投稿して採用されている辺り、パラの採用基準も今と違って、古作物の改作もOKだった点も今からは想像もつきません。しかも、この改作図は余詰・早詰が多数あり、この部分に関しては谷向氏の姿勢も問われると思います。
しかし、自作ばかり例題に選ぶというのはどうなのだろうか?上述の手筋紹介ならいくらでも短編で題材があるはずだと思う。珍しい手筋で自分で原理図を作るのなら解りますが、、、。上述のように雑誌に投稿中の作品まで例題にするのは、納得出来ないのですが、そういう点も昔は寛容だったのでしょうか?

3