旧パラを検証する43
第五号4
将棋世界(22.7.1)

塚田新名人襲位記念作
本作品を駁す 金田秀信
パラダイス六月号谷向氏の「詰将棋解剖学」の第三節「詰手順について」の中に、「塚田前名人(当時八段)の採決によつて現在では最長手順に統一せられた。」とあるのに私は関心を持った。とゆうのは、過日塚田氏の作品に、妙手説によつているものが一つあることに気づいたからである。現今、木村名人や土居八段などの作品にその種のものがることは知っているが最長手順説賛成者として、塚田詰将棋のファンとして前名人の作品にはたとえ一つであつても妙手説に基づいた詰将棋を見たくなかつた。
私は、かねてこのことを残念に思っていたが、たまたま前名人が最長手順の採決者であることを知るに及んで、これを黙殺してしまう気にはなれなかつたのである。
詰手順 42飛、23玉、13桂成、同桂、22金、34玉、43飛成、同銀、16角、25歩、35銀迄、十一手詰。
八手目43同銀が妙手説によつた応手であつて、最長手順をとれば25玉である。しかしこれは角と歩が余るから、谷向氏の文によれば「準手余りと称せられる軽度のもの」にもならない。よしこれを軽度のものと云い得るとしても、塚田氏は当然、さきの手順中、25玉をとり十三手詰とすべきである。
最長手順を採決したのは、前名人が八段当時とあるから、ゆうまでもなく名人襲位記念作の発表はその後である。すると塚田氏が何故、自ら定めた規約に反した作品を公開したか了解に苦しむのである。これについて敢えて想像を逞しくしてみた。
一、佳作であるが故に(事実その構想は最新で難解性がありすぐれたものと思う)妙手説作品として抹殺し去るにしのびなかった。
二、当時は最長手順の支持に自らが徹底していなかった。
即ち前者は一時的に支持をひるがえしたと見るべきで、うなずける点もないではないが若し、前名人の心境が後者であつたならば、採決者として無責任に過ぎはしなかったろうか。
本稿に対する塚田前名人の御意見を聞けば幸甚である。
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この時代に二手長の変長も認めない金田氏の姿勢は、時代を50年は先取りしている感じですね。私が思うに塚田先生は最長手順説賛成者ですが、二手長くらいは許容範囲だと思ってたんじゃないですかね。二上先生なんかは、つい最近まで変長作品を発表していましたからねえ。(初期の伊藤果先生も変長作が結構多かったしねえ)
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ブックレビュー 八段土居市太郎著 最新詰将棋読本(大阪屋号書店百二十円)について T.T.生(京都)
嘗ての「近代詰将棋読本」「初心詰将棋読本」「傑作五十番」「詰将棋名作選」等以来、たゆまずに、初心者指導の為に尽力して来られた老八段の近著である。その熱意に対し心からの敬意を表する次第である。
さて、その内容を見るに、以前の数著と同じく、初心者の指導(終盤戦への寄与)を目標として居られる故か、我々の様に、詰将棋を芸術として見る者に取っては、余りに月並みであり、陳腐であると云わざるを得ない。
一、古名作の焼直しの散見される事(中略)
一、手筋がきまつていて、それが何度も登場する事。従って此の一冊の中にさえ、類似作品が見られる事。(中略)
一、 実戦の参考と主張する故か、変化長手順、駒余り等に割合無関心である事。
このようにいろいろな欠点があるにも拘らず、仲には相当の傑作好作もあり、之等数局のためにだけでも此の一冊を見る値打は十分ありと信じ、あえて広くおすすめする次第です。
次に小生の気付いた同書中の作品の欠陥について二、三述べよう。
(以下不完全作の指摘。中略)
以上の如き不完全はあるが、初心者向の好著である。(以上)
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この原稿を書いて間もなく、同じ事を土居先生のところへ申し込んだ処、暫く経ってから次の如き手紙が寄せられて来た。併せて掲載して以てご参考に供する事とする。
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拝復 老生多忙の為詰将棋読本の質問延引申訳無之候。
第八番はご質問の通り余詰有之候。再版の節些か改良致すべく候。
第二十番八四桂打の処、御申越の通り八二金打以下余詰有之候。玉方九四歩を追加すれば完全に候。
第二十八番玉方五三歩は五二歩の誤り。
第四十五番玉方の四二歩脱駒。従って同解説二行目の同玉以下三手を除き玉方は相手にせず三二玉で矢張り詰なし。
第七十三番余詰がある様です。但し此の余詰めは手数が長引く。本譜の方が面白いようです。しかし再版の際追加しておきます。
色々御注意お礼申します。尚他にも間違御座候節は御報知下さい。
五月八日 土居老人
T.T.生殿
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中々凄いブックレビューですね。それより感心したのが、土居先生の対応ですね。棋界の大長老がいちいち返答してくれるとは、土居先生がファンを大事にしていた、という逸話は本当のようですね。

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