旧パラを検証する36
第四号6
六二龍をめぐる作図の発展 金田秀信
A図

A図は私の街の棋客の指将棋に現れた局面の一部で、ここで先手を握った後手は一気呵成に敵玉を詰めてしまつた。即ち、三一銀、同玉、二一飛、四二玉、六二龍、同金、四一金、五二玉、五一金、四二玉、四一飛成迄。
私は右の六二龍に創作意欲を刺激されたとでもゆうか、何か詰将棋が作れそうな気がして早速A図の修正を試みてみた。
B図

A図は実戦そのままの図としてはよく整っていて既に詰将棋であると言えよう。で私も次のように難なくB図をこしらえることが出来た。先ずA図一一銀を除いて二三歩を垂らした。この時一一に香か歩のようなものを置くべきで、そうしないと詰手順三手目二一飛が一一飛でもよいということになるから面白くない。次にA図三二歩を払ってA図四三歩を銀に換え玉辺を広々とさせ紛らわしくしたつもりである。B図四三銀が三二金打以下の余詰を消していることはゆうまでもない。
A図を整え終わると更にB図の四三銀と三三桂をそれぞれ一段もどして置いて、B図のような位置に引き上げることを成立させようとして考えた。その結果がC図である。
C図

C図詰手順八三銀、同銀、六二龍、同金、九三銀、同桂、八一金、七二玉、七一金、八二玉、八一飛成迄十一手詰
C図を作るのに考えさせられたのは右の詰手順三手目六二龍に七二銀引とした時、金銀の持駒でいかにこれを本手順数より短く詰ますかとゆうことだった。(変化は内容に於いて実戦的に本手順と区別される限り、詰手数がそれと同手数であつても差支えないが、この区別がつき兼ねる場合もあるからより短くするに越したことはない。)単に詰方九五歩を置くだけでもよいがC図のような方が九四飛成の軽手があつて気持がよい。このように出来たことは私にとつて一つの部分的な成功であった。
私はこの六二龍を主眼とした創作はC図を以って終ったと思っていた。それ以上作図を進展させ得べき何等の想も湧いて来なかったからである。しかし、十人の作家に一つ主題を与えて創作を強いるならば、必ず十色の詰将棋が見られるであろうよう、私の場合六二龍を表現する異なった棋形はまだまだあつたわけである。
半年も後になつて再び想をねりD図を得た。
D図

D図詰手順三四桂、同歩、三三銀、同桂、三二金、同金、六二龍、同金、四一金、五二玉、五一金、四二玉、41飛成迄十三手詰
D図に就いては持駒を金金桂として詰方二五桂を附す方法もあつた。三四桂打後の、三三銀打より三三桂成の方が、その前提の三四桂打の意味を単一にし、それによつて幾分なりとも紛れを広めているとゆう点ではすぐれている。がD図の場合は二五桂がないと棋形の感じがよいばかりでなく、五四桂打などの紛れもないではない。それでD図を選んだ。
龍をななめに敵金頭に投げ出す味に、もの足らなくなつた私は、今度はE図のように飛車を一直線に捨てる構想を立てて考えた。
E図

E図詰手順四三銀、同金、五二飛成、同金、二三角、四二玉、四一飛成迄七手詰
しかしE図を発展させることは案外難しかった。漸く出来た作図に余詰があり、それを消そうと手を加えているうちに棋形を損ね、作意を傷つけて結局あきらめてしまうことはしばしばであつた。で私はE図を考えることにいや気がさして暫くの間かえりみなかつたのであるが、その後或ヒントを得てF図を作ることが出来た。
F図

F図作意 五三銀、同銀、五四桂、同銀、六二飛成、同金、六四角成、五三金上る、四一金、五二玉、五一金、六二玉、六一金、七二玉、七一金、六二玉、六一飛成迄十七手詰。
私は軽率にも十分な検討を経ずしてF図を某誌へ投稿してしまつたが、次の余詰があつた。
(一) 五三銀、同銀、四一金、五二玉、六一飛成、同玉、四二金、七二玉、(六二玉)、七三金迄
(二) 右手順最後の七三金を七一龍、六三玉、七五桂、五四玉、五五金迄
私は次のようにF図の余詰を消すことが出来た。最初本手順を変えないようにして工夫してみたが、それは失敗した。つまり余詰手順(一)の七三金を消して玉方八一桂を(二)の七五桂を消して玉方七五歩を置いたのであるが、八一桂が七三え利いていると詰まない。(不詰手順五三銀、同玉、五四飛、同玉、五五金、六三玉、六四金、七二玉、次に七三金と行けない)
この不詰を解消させるには玉を七二へ行けぬようにする手段をこうずるより他にないようだ。それで八二角を馬にしてみたが、これは余詰が生じた。
(三) 五三銀、同銀、四一金、五二玉、六一飛成、同玉、四二金、六二玉、六一龍、同玉、七二金迄である。余詰を消そうとすれば不詰、不詰を解こうとすると余詰。こうなると少しは本手順を変えてもこれを解決せねばならない。そこでさきの不詰、余詰の原因を知ることから、玉が七二え行けず、詰方が七二に駒を打てないようにすればよいとゆうことが解る。玉方七二歩こそ、その唯一の適役であつた。更に七三え利くから八一桂は要らないし、飛が七一え廻った際、飛の利き筋を断つので七五桂打もなくなる。
こうしてG図は出来上がった。
G図

G図は此の文章の最後に挙げるに足る作品ではないけれども以上六二龍に関した私の創作経路をありのまま綴ったつもりである。実戦から取材そて詰将棋を作ったことは私にはこれが始めてと言ってもよい程で、それだけに又印象に残っている。
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大御所の金田氏の創作方法で、一つのネタでこんなに沢山の時間と構図を考えるというのは凄いですね。だから今でも新作を出し続けられるのだと思います。
個人的には、C図の仕上げが、駒の広がりも左程無いので、好みですね。

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