2008/7/18

-Episode Final-  ニョロ現代

楽しい夢民一家
〜梅雨とモヤシと引き篭もり〜



最終章

地下2階は魔物の巣窟(ソウクツ)であった
風呂売無の後を追う吉田を

「何だちみはっ!」

「何だちみはってかっ!」

と壮絶な戦闘を延々と繰り返した


吉田は疲労困憊であった
極度の緊張と不安 そして空腹に襲われ
まっすぐ歩くことすら限界に近かった


「いったい・・・どこを目指しているんだ彼女は?」
長安で聞いた噂が吉田の脳内を駆け巡る
地下組織について調査している時に耳にした
【ヒデオ】という言葉が気になっていた


「ヒデオ・・・ひでお・・・」


両国国技館のような部屋を更に移動する
また口に咥えた枝が伸びた
尾行の途中 石像から話を聞くことができた
この石像は他の魔物と違い
意外と話せる男だった


その石像の名前は
屁夢錬(ヘムレン)というらしい


「ハーイ タイショウ」
「地下組織の秘密について何か知らないか?」
「シリマセーン デモ」
「コノサキニハ タカラバコガアリマース」

「何?宝だと?」
「ソウデース デモ ナカミハシリマセーン」
「その箱に 組織の宝あるのか?」
「ワタシニハ ワカラナイダロー?」
「オトトイキテクダサーイ」

「そうか・・・わかったありがとう」
「チャホー♪」


吉田は新たな情報を得た
屁夢錬が何人だったかは謎だが
所詮石像なので気にしないことにした


「この先に美白の宝があるにちがいない」
吉田は そう推理し風呂売無の尾行を
再開しようとした
ところが屁夢錬と話をしているうちに
「なんてこった・・・」
彼女を見失ってしまった


吉田は部屋を見渡す
赤いネグリジェを着た風呂売無は見当たらない
「俺としたことが・・・」
そこで吉田はふと気付く


【もやし】だ


風呂売無の食べカスである
只の食べカスだったもやしのヒゲが
彼女に繋がる唯一の鍵となってしまった
「これを辿るしかないか」
点々と続くヒゲを拾いながら吉田は走った


部屋がどのように繋がっているか
吉田は分からなかったが
もやしが彼女の行き先を教えてくれた
数回部屋を移動するうちに
吉田は空中に箱が浮く部屋へ辿りついた


「あ・・あれはっ!」
箱が怪しく光り輝いている
宙に浮く箱の下に風呂売無が立っている
吉田は彼女に気付かれないよう柱に隠れる
その時であった


「我は英雄の箱・・汝は鍵を持つ者か?」
箱が話し始めた
「美白・・・美白・・・美白・・・」
すでに風呂売無はトランス状態になっている


「英雄の箱?鍵を持つ者?」
「そうかっ!」
吉田の頭の中でパズルが繋がった


今回の依頼主は谷の父という男だった
そして今 箱は英雄という名を口にした
親友夢民の父の名と一致する
そう 長安で聞いた名前だ


英雄【ヒデオ】


正体を明かさない依頼主
それは引き篭もりの親友 夢民の父親
谷野英雄(タニノヒデオ)からの依頼だったのだ


屁夢錬の母国は謎のままだが
吉田は依頼の目的が今はっきりと理解できた


風呂売無の執拗なストーキング行為のあまり
引き篭もりとなってしまった夢民を救うため
衛兵を雇ったのだ
きっとカニでもご馳走したのだろう


長安の街に「美白組織」の噂を流したのも
おそらく英雄にちがいない
さすがはシルクハット伯爵である
根回しがうまい そして髭が良く似合う



最初は息子へのストーキングを止めさせる目的だったが
風呂売無の美白願望が予想よりも激しく
極度に錯乱していることを知った英雄は
息子に申し訳ないと感じ吉田に救出を依頼したらしい


「あのヒゲ親父め・・・」


このままでは風呂売無はトランス状態のまま
箱の下で餓死してしまう
夢民のためにも 彼女は救出しなければ
吉田は箱に向かって走り始めた


吉田は風呂売無に近づき声をかけた
「何だちみはっ!」
じゃなくて
「大丈夫か?!」


風呂売無は驚き意識を取り戻した
「何だちみはっ!」
吉田は答えずに箱を凝視した


再び箱は話し始めた
「我は英雄の箱・・汝は鍵を持つ者か?」
吉田は戸惑った
「鍵とは一体何のことだ・・・」


風呂売無を支えている左手の中で
何かが光った
「もしや・・これが鍵?!」
吉田は左手をゆっくりと開いた


そこには黄色く輝く物があった
もやしのヒゲに混じり
【英雄の鍵】
と黄色いテプラで貼ってある鍵だった


尾行中に拾ったもやしの中に
混じっていたようである
気付け吉田


「我は英雄の箱・・汝は鍵を持つ者か?」
吉田は答えた


「私が孔明だ」
じゃなくて
「私が鍵を持つ者だっ!」


「ならば開けるがよい冒険者よ・・・」
吉田は英雄の箱に鍵をさし
ゆっくりと開けた


箱から光が漏れたその時である


中から現れた物は魔物であった
吉田が太刀打ちできる数ではない
風呂売無を抱えたまま
吉田は必死に逃げた


「ちっ!これが谷の父のやりかたか!」
そう これは英雄の罠だった


風呂売無の救出を依頼した英雄は
息子を苦しめた風呂売無と一緒に
探偵吉田も亡き者にしようとしたのだ



吉田は意識を取り戻した風呂売無を
柱のかげに隠すと
魔物に立ち向かっていった


友のために
自分のために
そして・・・生きるために


「死んでたまるかぁぁぁぁ!」
吉田の声が両国国技館に響き渡った






目が覚めると
そこはベッドの上だった
意識が朦朧としている


「ここは?・・・」
吉田はゆっくりと上体を起こし
周りを見渡した
珈琲の香ばしい匂いがする


「おはよう」
声をかけてきたのは夢民だった


「お・・・おはよう夢民」
「俺はどうしてここに!?」
吉田の脳内は混乱していた
「宝は?魔物は?風呂売無は!?」


夢民が困った顔をしている
「覚えてないの?」
「すまない・・・分からないんだ」
夢民がため息をひとつ吐き
ヤレヤレといった顔で呟いた



「お酒も程々にしてよねっ!」

「すみませんでした・・・」



おしまい



週刊「ニョロ現代」7月18日号掲載
著者:谷野伯爵
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2008/7/14

-Episode2-  ニョロ現代

楽しい夢民一家
〜梅雨とモヤシと引き篭もり〜



第2章

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吉田は右手にもやしのヒゲを強く握り締め
怪しく光り輝く紋章の中へと消えていった
自分の体が一瞬軽くなり
気付くと別の空間へと移動していた


「なんだこの部屋は・・・」
吉田が咥えている枝が少し伸びた
「時空を超えたのか?」
しかし、葉は枯れていなかった


移動した先の部屋は
両国国技館のような造りになっていた。
吉田は相撲が好きだった
と同時に、親友である夢民の力士体型を思い出し
愛しさと切なさと心強さを感じた


「俺はここで死ぬわけにはいかないっ!」
吉田が感じていた恐怖は
友情の力でなんとか抑えこんだ


その時である
吉田は 部屋を西へ向かう少女の後姿を見つけた
依然としてフラフラと歩いているようだ
少女の手からはポトリ・・ポトリと
もやしのヒゲが落ち続けている


地下1階のフロアを歩いている時は
気付かなかったことがあった
少女の近くを何かが歩いている
距離を一定に保っているが
少女を守っているわけではなさそうだ


「あ・・・あれは?」
それは、少女のメイドであった
名前を巳(ミー)という




時は1ヶ月前に戻る
梅雨の季節で外はジメジメしていた
そんなある日
とある豪邸に怒号が響き渡った


「あたしは 絶対に負けないんだからっ!」
少女は顔を真っ赤にし怒っていた
巳はヤレヤレといった顔をして少女を見ている
言い出したら聞かない性格を良く知っているからだ


少女の名前は西川風呂売無(ニシカワフローレン)
数日前に砂漠で出会った骸骨に
「あなた少し肌が黄色いのね」
「そんなんじゃ手タレになれないわよ」
と言われ、悔しくて怒っていた


「何なのよっ!たかが衛兵のくせにっ!」
風呂売無は好物のもやしを食べながら
自宅である長安要塞をウロウロしていた


イライラした気分を変えようとした風呂売無は
買い物に出掛けた長安の街で噂話を聞いた


「始皇帝地下に【美】を追求している組織がいるらしい」
「しかし 組織に関与して帰ってきた者はいない」
「地下2階にある箱に隠された秘密」
「ヒデオ・・・?」


風呂売無は噂を聞いてからずっと
頭の中は組織のことでいっぱいであった
しかし もやしは食べ続けた


「永遠の白い肌・・・」
脳内で繰り返される美白の誘惑に負け
風呂売無は催眠状態に陥り
ついには もやしを握ったまま
始皇帝地下へと歩き出してしまったのであった
赤いネグリジェを着たまま・・・


風呂売無の異変に気が付いた巳は
すぐさま後を追う
巳と同時に長安要塞を飛び出した一人の男がいた
それが吉田である


1通の手紙で依頼を受けた吉田は
依頼主の名前を知らない
手紙の右下には【谷の父】とだけ書かれていた
風呂売無を救出できれば
望むものを与えると手紙には書いてあった


風呂売無の不可解な行動
谷の父という人物とは
地下組織の謎


調査を進める吉田の脳裏に
大切な友人の笑顔が浮かんだ
体中に力がみなぎってくる
「親友の彼女を必ず救い出してみせる!」
「そして彼を・・・夢民をNeetから救ってみせる!」



吉田は少女の後を追い
地下2階の奥へと進むのであった
その先に待つ人物とは・・・



第2章 完

週刊「ニョロ現代」7月14日号掲載
著者:谷野伯爵
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2008/7/14

-Episode1-  ニョロ現代

【楽しい夢民一家】
〜梅雨とモヤシと引き篭もり〜



第1章

顔面蒼白・・・何が彼女をそうさせたのか
彼は思った
「きっと 何かあったに違いない」
そして その蒼白い顔をした少女は
今夜もフラフラと地下へ向かうのであった


「あの地下で いったい何が行われているんだ?」
探偵である彼は 少女に気付かれないよう
コッソリと 後を追うのであった


「なんだ この白いものは・・・」
そう彼女の歩いたあとには
白い糸状の物が 点々としていた
それは、糸のようにも見え
まるで 彼を誘っているかのように
少女の歩いた形跡を残しているのであった。


彼は その糸状の白い痕跡を
ひとつ拾い上げてみた
「こ・・・これはっ!!」


そう
それは【もやしのヒゲ】であった


もやしのヒゲを握り締め彼はまた少女の後を追った
地下1階は 広大なフロアになっていて
彼は その広さに言葉を失った
「ここは いったいどこなんだ?」
全体的に青白い景色が広がっている
天井には竜のようなオブジェが吊下がっていた


彼が部屋の雰囲気にのまれていると
広大な部屋の左側に
追いかけている少女がいるのを見つけた


地下に入るまえは 赤い服を着ているようだったが
今では 色が変わって見える
目の錯覚であろうか
彼は 自分の目をこすった
しかし同じである。


「俺は・・・彼女を救えるのか?」
彼は少女を追いかける目的を忘れないよう
自分を奮い立たせ 少女の後を更に追うのであった


彼はフロアの左側を歩いた
ここで彼は 背中のバックパックから
あるものを取り出した


それは 彼のトレードマークにもなっている代物だった
彼はそれを取り出すと 口に咥えて歩き始めた
彼の取り出したのは【葉のついた枝】であった


彼の名前は吉田
吉田砂布巾(ヨシダスナフキン)という


「放浪の旅も これで終わりにしなければ」
「ついに・・・ついに少女を助けることができるんだ」
「谷の仲間には悪いが・・・ここで倒れても」
「私はかまわない・・・すまない夢民」
彼は覚悟を決めた
少女の目指す先には 円形の紋章が光を放つ
少女はその中へ消えていった
彼は走る
「この先に・・・この先には・・・」


第1章 完

週刊「ニョロ現代」7月7日号掲載
著者:谷野伯爵
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