2009/3/17

長安黙示録 第6話  ニョロ現代

-第6話- 「蛇」



龍虎の咆哮は南門の上にいる二人にも
はっきりと聞こえた。
小七と王牛は、尋常でない殺気を感じ
噴水前にいる猛獣には気付いていたが。


「彼らもこの街にいたのか・・・」
小七は懐かしくもあったが
戦いに満ちたあの頃を思い出し
苦々しい気持ちでもあった。


「奴らもまだまだ若いのぅ」
突如二人の背後から声がした。


小七と王牛は飛び退いた。
まったく気配に気付かなかった。
珊珊は何故か老人と手をつないでいた。
「あんた・・・誰?」


「あなたも来ていたのですか!蛇爺」
「爺さん久しぶりだなぁ」
二人は警戒を解き老人と握手した。


「蛇」のコードネームを持つこの老人だが
本当の年齢を知る者はいないらしい。
知ってる者は、皆寿命で亡くなっているのだ。


小七も王牛も、この蛇爺には頭があがらない。
何故なら、二人の先生がこの蛇爺なのだ。
部隊に配属されてからというもの
この蛇爺が訓練生の教育を行っていた。


「ふぉふぉふぉ 精進しとるかぃ?」
蛇爺は弟子と握手するとニコニコ笑った。
そして三人は噴水へと視線を動かした。


「周虎と郭威じゃの」
「えぇ彼等に間違いないでしょう」
蛇爺はしょぼくれたその瞳で
自分の弟子が戦うのを見詰めている。


「ちょいと仲裁してくるかの」
そういうと蛇爺はひょいと門から飛んだ。
「ちょっ 蛇爺!!」
小七が止めようとしたが遅かった。


蛇爺はフワリと着地すると
スタスタと噴水へ向かって歩いた。
その先には二匹の猛獣が睨みあっている。


「ん?」
先に周虎が気付いた。そして郭威も振り向く。
「やぁ元気じゃったか?」
「せ・・・先生!?」


蛇爺を追って小七と王牛も噴水へ向かう。
珊珊は小七に抱えられ地上へ降りた。
「小七さん・・・あなた一体・・・」
彼氏の身体能力に驚いている場合ではない。
今日体験したこと全てが常識はずれなのだ。


周虎が「虎」を鞘へ納刀すると
郭威も戦意を解いた。
先生の前では二人の猛獣も仔犬同然である。


「ご無沙汰しておりました先生」
郭威が深々と頭をさげ蛇爺と握手をしている。
続いて周虎も一礼した。


「元気そうで何よりじゃよ。
 ところで、なぜ闘っておったのじゃ?」
周虎と郭威がうつむく。
「闘う理由が無いなら仲直りせぃ」


そう言うと蛇爺は二人の手を取り
互いに握手させた。
蛇爺の顔には満面の笑顔が戻った。


蛇爺が現れたことで郭威は疑問に思った。
周虎だけではない。小七と王牛までいる。
偶然にも長安に現れた仲間達を見渡し
疑問は確信へと変わる。


聖闘士と呼ばれた戦士たちが召集され
この長安で何かが始まろうとしている。


郭威がその事を蛇爺へ伝えようと
口を開きかけた刹那
北の皇宮から叫び声が響いた。


雨も弱まり、長安の街に夜が訪れる。
闇を切り裂く悲鳴が
小七達の足を皇宮へと急がせた。


-第6話- 完


「ニョロ現代」3月17日号掲載
著者:谷野伯爵
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2009/3/11

長安黙示録 第5話  ニョロ現代

-第5話- 「辰」



周虎の首筋に汗が垂れている。
ダウニーを使っているので臭くはない。
やはり柔軟剤はネセサリーである。


先程、黒服達を吹き飛ばしたが
この程度で疲れる周虎ではなかった。
汗の理由は別にあった。


自分の周りにいた黒服達とは
違うオーラを纏った者が目の前にいる。


周虎の剣風によって宙を舞った雑魚共は
花火のように咲いて散ったが
一人、微動だにしなかったのだ。


「ほぅ。貴様中々・・・」
その黒服は顔を覆面で隠していたが
周虎の前に近寄ると
ハラリと覆面をはずし、素顔を見せた。


「少し太ったんじゃないのか?周虎」
周虎は言葉を失った。
驚きを隠せない。鼓動が高まる。


「お前は・・・郭威なのか?」
「あぁそうだ。久しぶりだな」




時は遡る。


「もうすぐこの戦争も終わりだな」
「あぁもうすぐ家に帰れるな」
郭威と周虎は土豪の中で
敵陣を睨みながら語り合っていた。


二人は龍・虎と呼ばれ
部隊の中でも別格の戦闘力を持ち
各々が隊長として活躍していた。


「帰ったら俺・・彼女と結婚するんだ」
そう言って郭威は照れながら笑った。
胸ポケットから取り出した彼女の写真も
泥と汗で汚れていた。


「俺も帰ったら溜まったジャンプ読まなきゃ」
「周虎・・おまえって奴は あはは」
笑い声は、鳴り止まぬ銃声に消えていった。


周虎の持つ無線から声が聞こえる。
「総帥より伝令 総帥より伝令」
「虎隊及び辰隊は防衛ラインを死守すること」
「敵軍の進行を何としても食い止めろ」
「以上」


二人は無言で頷き、土豪を飛び出した。
隊長を任されている二人は
考えていることも同じであった。
攻撃は最大の防御であると。


龍虎の咆哮が夢民谷に響く。
敵軍の弾幕を気にもせず
二人の影が敵軍を切り裂いていった。


1年続いた戦争も
その数日後、終結を迎えたが
辰隊の隊長だった郭威の生死は
不明のまま時が過ぎていった。




それから数年後の今日
お互いの安否も分からぬままだったが
偶然にも長安の街で再会したのである。


「生きていたんだな・・・」
周虎の目が潤んでいる。
親友でありライバルだった郭威と
また再会出来たことを心から喜んだ。


「お前程の男が死ぬわけがないと
 ずっと信じていたんだが
 本当に良かった。良かった・・・」


周虎の笑顔を見て郭威も笑った。
笑うのはいつ以来だろうか・・・


郭威は、静かに抜刀した。
すらりとした刀身は翠色に光り
まさに龍鱗のようである。


周虎の笑顔が曇る。
「おい・・何の真似だ?」
親友だった男が自分に向けた刃にも
5桁の数字が刻まれている。


大業物「辰」を構える郭威が
静かに、そしてゆっくりと言った。
「主が変われば、敵となることもある
 いざ・・・尋常に」


「やらねばならぬのか お前と・・」
周虎は手にした「虎」を構えた。
研ぎ澄まされた殺気が二人を包み
周辺の空気は張り詰めた。


降り止まぬ雨は銃声にも似ている
そう。あの時のように。


龍虎の咆哮が長安に轟く。
二人の心が揺れているように
噴水の水面も揺れていた。


-第5話- 完


「ニョロ現代」3月11日号掲載
著者:谷野伯爵
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2009/2/27

長安黙示録 第4話  ニョロ現代

-第4話- 「兎」



小七は軒下から走り出した。


南門へ向かう途中
ゴスッという鈍い音を聞いたが
振り向かずに王牛を目指した。


鼠の名を持つ小七にとって
長安の街は狭すぎる。
南門階段へはすぐに到着した。


「なぜあいつがこの街にいるんだ」


考えても分からなかった。
あの事件以来、会うことのなかった仲間が
今この街にいる。それだけが事実であった。


階段下から門の上を見上げると
牛だけかと思っていた人影は
2つに増えていた。


「珊珊?」




門の上から黒服を眺める王牛は
肩に担いでいた珊珊をそっと降ろした。


「滑るから気をつけろぉ」
「あ・・・ありがとう」


高い位置から街を見下ろすと
黒服達の人数がざっと把握できた。
1分隊の規模で兵士が展開している。


「肉まんより多いなぁ」
またヘラヘラ笑っている王牛を見て
珊珊の緊張も若干ほぐれてきた。


「ねぇ。あいつらは何?」
王牛は答えない。笑っている。


「あんた知ってるんでしょぉ?!」
王牛の雨に濡れた背中が
ぺチンと叩かれたその瞬間
また珊珊の足がふわりと宙に浮いた。




小七は珊珊を抱え、王牛から距離をとった。
彼の戦闘能力を知っている小七は
かつての仲間であっても油断しなかった。
もしも、敵であったら・・・と。


「久しぶりだね。牛」
王牛の細長い目が大きく見開いた。
「ね・・・鼠っ?!」
驚きを隠せない王牛に小七はそっと答えた。


「鼠と呼ばれるのも久しぶりだ。」
数年ぶりに呼ばれたその名は
かつての仲間以外は知るはずもない。
小七の知る牛に間違いなかった。
敵意もなさそうである。


「それより何故おまえがここに?」
珊珊を自分の後ろに立たせると
小七は王牛をまっすぐ見据えた。


「連絡こなかったのか?」
王牛は不思議そうな顔をしている。


「何のことだ?」
小七はいつもと変わらぬ生活をしており
連絡なんて受けていなかった。


「なーんだ。知らねぇのかぁ」
王牛はモゾモゾとカバンの中を物色し
大きな手で何かを掴んで取り出した。


「ほれ。これが俺のとこに」
耳を持たれてジタバタしているその動物は
「兎」と書かれたバンダナを首に巻いている。


小七はこの動物に見覚えがあった。
彼女が連絡用に使っていたペットだ。
バンダナに書かれた「兎」は
言うまでもなく彼女のコードネームである。


見た目は耳が長くて可愛い動物なのだが
運んでくる手紙は・・・
地獄への招待状であった。


「召集か・・・」


二人のやり取りを
不思議そうに聞いていた珊珊が
恋人の背中をじっと見つめていたその時


噴水の方で叫び声と共に
黒服が数人、宙を舞った。
まるで黒い花火のように。


「ん?・・・」


-第4話- 完


「ニョロ現代」2月27日号掲載
著者:谷野伯爵
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