2009/3/21

長安黙示録 第7話  ニョロ現代

-第7話- 「馬」



皇宮の警備は退屈だ。
相棒の崔平とは一年程の付き合いだが
彼は明るくて責任感の強い男だ。
頼りになる。


馬軒は、今日もいつもと同じ
退屈で穏やかな一日になると
当たり前のように思っていた。
今朝までは。


「馬軒!今の悲鳴はなんだっ!?」
崔平が皇宮に響いた声に反応した。
「分からん。とにかく皇宮へ急ごう!」
二人は皇宮へと走った。


皇宮門の前で起きた喧嘩も、今の悲鳴も
今日は何かが変だと感じつつ
皇宮へと急いだ。


大きな階段を登ると
そこには皇室の凛とした空気が
張り詰めている。中々踏み入れられない。


「おい。どうする?」
崔平は今までこの中へ入った事はない。
「でも、この中から悲鳴が聞こえたぞ」
馬軒は中を覗き込んだ。


暗闇で何も見えない。
物音すら聞こえなかった。


「おかしい・・・」
「静か過ぎるよな」
少し震える手に持った槍を構えて
二人は皇宮内へ入る決意をしたその時


「何があったぁぁぁ!」
背後に周虎が立っている。
「うわぁ!コーチ?!」
馬軒は心臓が口から出るかと思った。


周虎は皇宮警備指南役として
彼ら二人の訓練を任されており
崔平と馬軒からすればコーチである。


「おぉお前らか。何があった?!」
「それが・・・よく分かりません」
「お前ら今朝もちゃんと乾布摩擦したか?」
「えぇ・・・まぁ一応・・・」
「よし」
悲鳴を聞きつけて走ってきた星闘士も
中の様子を気にしている。


「あのぅ・・そちらの方々は?」
馬軒はコーチと一緒に来た人たちを見て
恐る恐る質問した。
「あぁ気にするな。お前らより強い」
「えぇぇぇぇ?!」


皇宮から蹄鉄の音がする。
徐々にこちらへ近づいてくる。
蹄鉄の独特な音が大きくなり
暗闇から馬の姿が見えた。
黒服の男が馬上からこちらを見ている。


「そこで何をしているっ!」
警備兵としての任務を果たすべく
馬軒と崔平が槍を構えて行く手を遮った。


黒服はニヤリと白い歯をみせた。
白いたてがみを振る彼の愛馬には
「馬」の文字が金色に輝いている。


「どけ・・・」
低い声でそう言うと
聖闘士たちに向かって突っ込んできた。


郭威は咄嗟に刀を抜き身構えたが
黒服を乗せたその動物は
ひらりと刀をかわし宙へと舞った。


皇宮入口を塞ぐ馬軒と崔平が
翼のはためきを感じた時には
すでに空へと逃げられていた。


「くそっ!待てっ!」
待てと言われて待つ賊などいないと
分かっているが、言わずにはいられない。
馬軒の声が無人の皇宮内に響いた。


空へと飛び去る白馬の背には
黒服と朱色の衣装が風に揺れていた。
連れ去られた女性は気を失っている。


「姫ぇぇ!姫を返せぇ!」
崔平の声はもう届かない。
「くそぉ!何者ですか彼はっ!?」
郭威は黙っている。


そして馬軒も
横を通り過ぎた黒服の顔を見てから
様子がおかしい。


小七も王牛もその男を知っていた。
郭威と彼の関係も知っている。


男の名は馬千里
聖闘士随一の騎馬兵だった男である。
周虎は蛇爺と何やら話をしていた。


「ふむ・・それがいいようじゃの」
「では彼らを連れて参ります」
周虎はそういうと街へと走り出した。


白馬の消えていった闇夜を見詰め
珊珊は姫の身を心配した。
雨もあがり、しばらくすれば
星も見えるだろう。


深まる闇と深まる疑念
飛び去る白馬の羽が
噴水に舞い落ちて揺れていた。


-第7話- 完


「ニョロ現代」3月21日号掲載
著者:谷野伯爵
0



この記事へのトラックバックURLはありません
トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ