2009/2/23

長安黙示録 第2話  ニョロ現代

-第2話- 「牛」



もう1週間になる。
街の中心部にある噴水の前という目立つ場所に
鎖で縛られてから7日目を迎えた。


「なぁ いつまでここにいるのぉ?」
王牛は自分を見張っている女に尋ねた。


「・・・」
珊珊は答えなかった。というよりも
答えられなかったと言うべきか。
知らないものは知らないのだ。


「腹が減ったから何か食わせてぇ〜」
巨漢の胃袋はいつも満たされず
王牛は空腹だった。
食べてもすぐ減るのだが。


「はいはい・・・」
毎日毎日空腹を訴える王牛に
珊珊は呆れながらも肉まんを買ってきた。
仕事中だったが珊珊も内緒で1個食べた。
「この肉まんンマッ♪」
言った後で恥ずかしくなった。


珊珊は長安警察の婦人警官であり
窃盗罪で逮捕された王牛を拘束する任務で
今日まで監視していたのである。


上層部に王牛の拘束期間を確認したが
ムニャムニャと返事をされ結局分からずであった。


長安酒店から鳥飼という焼酎2本を窃盗し
店の外で飲んでいた王牛を
現行犯逮捕したのである。


逃げる様子もなかった王牛は
前科があったので拘束されているのだ。


「あんたが万引きなんてしなければ・・・」
珊珊は深いタメ息をつきながら
肉まんを嬉しそうに頬張る王牛に呆れていた。


「ほーんと良く食べるね」
「普通でしょ〜にゃはは〜」
「やれやれ・・・」


休暇返上で勤務していた珊珊は
デートの約束をキャンセルしていたのだった。


珊珊の彼氏は同じ街に住む青年で
王牛とは比べ物にならないくらい
真面目で働き者の好青年であった。


「じゃぁ俺とデートするかぁ?」
王牛がニヤニヤしながら見ている。
「だ・・誰があんたなんかとっ!!」
「この肉まんンマッ♪」
頭をぺチンと叩かれても王牛は
ヘラヘラ笑って肉まんを食べ続けていた。


珊珊が雨の降る長安の街並みを
ぼんやりと見ていたその時
王牛が珊珊の腕を掴んだ。


「何?もう肉まんはないわよ?」
突然の出来事に珊珊は困惑したが
王牛は次元の門の方をじっと見ている。


「どうしたの?」
いつもニヤニヤしている王牛が
別人のように見えた。


「黙ってないで何かいいなさ・・・」
言いかけたところで珊珊は気付いた。


物陰に走り込む黒い戦闘服の兵士が
銃を構えてこちらを見ている。
「えっ?」


黒服たちの動きを見ていた王牛が
「まったくモゥ・・・」
そう呟きながら自分をつないでいた鎖を
納豆の糸のように引きちぎった。
鎖が発酵していたわけではない。
まして藁でもない。


珊珊をヒョイと担いだ王牛は
南門へ向いたかと思うとヒラリと跳躍した。
「キャッ!」
短い悲鳴が噴水に響いた頃には
すでに珊珊は南門の上にいた。


口の中で肉まんをモグモグしながら
追ってくる黒服たちを見詰め
王牛はニヤリと白い歯を見せた。


肩に担がれていた珊珊は
王牛の胸元に輝く金属プレートに気付いた。
「11030・・・?」




長安に降り注ぐ雨は止む気配がない。
まるで何かを喜んでいるかのように
だんだんと強くなっていった。


色街の女たちが
軒下で雨宿りをしながら
曇った空を見ている。


その女たちと同じ軒下で
南門の上をじっと見ている青年の胸にも
輝く金属のプレートが輝いていた。


「牛・・・」
小七の呟きは雨音に消えていった。


-第2話- 完


「ニョロ現代」2月23日号掲載
著者:谷野伯爵
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