2009/2/27

長安黙示録 第4話  ニョロ現代

-第4話- 「兎」



小七は軒下から走り出した。


南門へ向かう途中
ゴスッという鈍い音を聞いたが
振り向かずに王牛を目指した。


鼠の名を持つ小七にとって
長安の街は狭すぎる。
南門階段へはすぐに到着した。


「なぜあいつがこの街にいるんだ」


考えても分からなかった。
あの事件以来、会うことのなかった仲間が
今この街にいる。それだけが事実であった。


階段下から門の上を見上げると
牛だけかと思っていた人影は
2つに増えていた。


「珊珊?」




門の上から黒服を眺める王牛は
肩に担いでいた珊珊をそっと降ろした。


「滑るから気をつけろぉ」
「あ・・・ありがとう」


高い位置から街を見下ろすと
黒服達の人数がざっと把握できた。
1分隊の規模で兵士が展開している。


「肉まんより多いなぁ」
またヘラヘラ笑っている王牛を見て
珊珊の緊張も若干ほぐれてきた。


「ねぇ。あいつらは何?」
王牛は答えない。笑っている。


「あんた知ってるんでしょぉ?!」
王牛の雨に濡れた背中が
ぺチンと叩かれたその瞬間
また珊珊の足がふわりと宙に浮いた。




小七は珊珊を抱え、王牛から距離をとった。
彼の戦闘能力を知っている小七は
かつての仲間であっても油断しなかった。
もしも、敵であったら・・・と。


「久しぶりだね。牛」
王牛の細長い目が大きく見開いた。
「ね・・・鼠っ?!」
驚きを隠せない王牛に小七はそっと答えた。


「鼠と呼ばれるのも久しぶりだ。」
数年ぶりに呼ばれたその名は
かつての仲間以外は知るはずもない。
小七の知る牛に間違いなかった。
敵意もなさそうである。


「それより何故おまえがここに?」
珊珊を自分の後ろに立たせると
小七は王牛をまっすぐ見据えた。


「連絡こなかったのか?」
王牛は不思議そうな顔をしている。


「何のことだ?」
小七はいつもと変わらぬ生活をしており
連絡なんて受けていなかった。


「なーんだ。知らねぇのかぁ」
王牛はモゾモゾとカバンの中を物色し
大きな手で何かを掴んで取り出した。


「ほれ。これが俺のとこに」
耳を持たれてジタバタしているその動物は
「兎」と書かれたバンダナを首に巻いている。


小七はこの動物に見覚えがあった。
彼女が連絡用に使っていたペットだ。
バンダナに書かれた「兎」は
言うまでもなく彼女のコードネームである。


見た目は耳が長くて可愛い動物なのだが
運んでくる手紙は・・・
地獄への招待状であった。


「召集か・・・」


二人のやり取りを
不思議そうに聞いていた珊珊が
恋人の背中をじっと見つめていたその時


噴水の方で叫び声と共に
黒服が数人、宙を舞った。
まるで黒い花火のように。


「ん?・・・」


-第4話- 完


「ニョロ現代」2月27日号掲載
著者:谷野伯爵
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2009/2/24

長安黙示録 第3話  ニョロ現代

-第3話- 「虎」



俺の一日は乾布摩擦から始まる。
そして1杯のトマトジュースに
タバスコを少々入れて一気飲み。
これが健康の秘訣だ。


今朝は雨が降っていたが
いつもと同じく外で乾布摩擦したぞ。
雨で濡れてるから乾布じゃないって?
いいんだ。心は晴天だったから。


近所の長安酒店に泥棒がはいって
かれこれ1週間か。
あの日はジャンプ買いに行ったから
しっかり覚えているんだ。


今日発売のが合併号だから来週は休刊だし
続きが気になるけど我慢だな。
さすが俺は忍耐強い。


そういえば犯人は捕まったと聞いたが
まったく酒を盗むなんぞけしからんな。


自分の金で買うからこそ酒は旨いというのに
まったく分かってない人間もいるもんだ。
男なら働いて稼げっ!


あぁ考えただけでもイライラしてきた。
もう1回ジャンプ読もうかな。
ん?なんだあの黒服たちは。
モジモジ君か?


街の中心部のほうに走っていくようだが
何かの訓練か?訓練なら良い。
体を鍛えることはネセサリーだ。


今日も自宅警備の仕事は完璧だし
夜ご飯まで時間があるから
ちょっと野次馬に行ってみるか。


えーと傘はどこだっけ・・・
たしかここら辺に刀と一緒に・・・
あぁあった。


ん?なんだなんだ?
訓練してる奴が随分多いな。
それに銃まで持ってる。


男なら刀だろう!KA TA NA!
ったく侍とは何かってのを教えてやるか。


おい、ちょっと待てお前っ!
なんで銃を持って訓練・・・


貴様ぁぁぁ!
セーフティーロックを解除してるとは
何事だぁぁぁ!!!
(ゴスッ!  パタッ・・・)


誤射したらどうなるか分からんのかっ!
危険が危ないだろぉがぁぁぁ!
(ピクピク・・・・)


まったく最近の訓練生は
人の話も聞かずに寝るし
マナーと言うものを知らんな。
あとで小一時間ほど説教してやるか。


それにしても仲間が倒れているというのに
他の訓練生は見向きもしないのか。
まぁそれだけ集中しているのだな。


あぁ忘れてた。
セーフティーロックをしないとな
安全はネセサリーだからな


ん?この銃・・・




意識を失った黒服の自動小銃を
曇った眼差しで見つめる周虎と
彼の背中を守る長身の刀。


「虎」の称号を持つ大業物の刀は
所有者である周虎の肩越しに
街の中心部へ走り去る黒服たちを
じっと睨んでいた。


刀身に刻み込まれた5つの数字は
見る者全てに赤い雨を降らせる
悪魔の数字である。


街の中心部、噴水のあたりだろうか
1つの影が南へと飛ぶのを見た周虎は
穴のあいたビニール傘を投げ捨てた。


-第3話- 完


「ニョロ現代」2月24日号掲載
著者:谷野伯爵
0

2009/2/23

長安黙示録 第2話  ニョロ現代

-第2話- 「牛」



もう1週間になる。
街の中心部にある噴水の前という目立つ場所に
鎖で縛られてから7日目を迎えた。


「なぁ いつまでここにいるのぉ?」
王牛は自分を見張っている女に尋ねた。


「・・・」
珊珊は答えなかった。というよりも
答えられなかったと言うべきか。
知らないものは知らないのだ。


「腹が減ったから何か食わせてぇ〜」
巨漢の胃袋はいつも満たされず
王牛は空腹だった。
食べてもすぐ減るのだが。


「はいはい・・・」
毎日毎日空腹を訴える王牛に
珊珊は呆れながらも肉まんを買ってきた。
仕事中だったが珊珊も内緒で1個食べた。
「この肉まんンマッ♪」
言った後で恥ずかしくなった。


珊珊は長安警察の婦人警官であり
窃盗罪で逮捕された王牛を拘束する任務で
今日まで監視していたのである。


上層部に王牛の拘束期間を確認したが
ムニャムニャと返事をされ結局分からずであった。


長安酒店から鳥飼という焼酎2本を窃盗し
店の外で飲んでいた王牛を
現行犯逮捕したのである。


逃げる様子もなかった王牛は
前科があったので拘束されているのだ。


「あんたが万引きなんてしなければ・・・」
珊珊は深いタメ息をつきながら
肉まんを嬉しそうに頬張る王牛に呆れていた。


「ほーんと良く食べるね」
「普通でしょ〜にゃはは〜」
「やれやれ・・・」


休暇返上で勤務していた珊珊は
デートの約束をキャンセルしていたのだった。


珊珊の彼氏は同じ街に住む青年で
王牛とは比べ物にならないくらい
真面目で働き者の好青年であった。


「じゃぁ俺とデートするかぁ?」
王牛がニヤニヤしながら見ている。
「だ・・誰があんたなんかとっ!!」
「この肉まんンマッ♪」
頭をぺチンと叩かれても王牛は
ヘラヘラ笑って肉まんを食べ続けていた。


珊珊が雨の降る長安の街並みを
ぼんやりと見ていたその時
王牛が珊珊の腕を掴んだ。


「何?もう肉まんはないわよ?」
突然の出来事に珊珊は困惑したが
王牛は次元の門の方をじっと見ている。


「どうしたの?」
いつもニヤニヤしている王牛が
別人のように見えた。


「黙ってないで何かいいなさ・・・」
言いかけたところで珊珊は気付いた。


物陰に走り込む黒い戦闘服の兵士が
銃を構えてこちらを見ている。
「えっ?」


黒服たちの動きを見ていた王牛が
「まったくモゥ・・・」
そう呟きながら自分をつないでいた鎖を
納豆の糸のように引きちぎった。
鎖が発酵していたわけではない。
まして藁でもない。


珊珊をヒョイと担いだ王牛は
南門へ向いたかと思うとヒラリと跳躍した。
「キャッ!」
短い悲鳴が噴水に響いた頃には
すでに珊珊は南門の上にいた。


口の中で肉まんをモグモグしながら
追ってくる黒服たちを見詰め
王牛はニヤリと白い歯を見せた。


肩に担がれていた珊珊は
王牛の胸元に輝く金属プレートに気付いた。
「11030・・・?」




長安に降り注ぐ雨は止む気配がない。
まるで何かを喜んでいるかのように
だんだんと強くなっていった。


色街の女たちが
軒下で雨宿りをしながら
曇った空を見ている。


その女たちと同じ軒下で
南門の上をじっと見ている青年の胸にも
輝く金属のプレートが輝いていた。


「牛・・・」
小七の呟きは雨音に消えていった。


-第2話- 完


「ニョロ現代」2月23日号掲載
著者:谷野伯爵
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