一昨日と昨日は「名古屋大学グリーンハーモニー第50回記念定期演奏会」の練習がありました。半世紀に渡る活動の集大成で僕が指揮するのは山崎佳代子さん作詞、松下耕さん作曲による混声合唱とオーケストラのためのカンタータ『水脈速み』。僕が指揮したいと思っていた作品の一つです。初回の練習で良い形になりましたが、この2日間に渡る練習でさらに完成度が上がりました。歌詞がよりはっきり聞こえるようになってきたのが何よりも良いこと。
音楽的には申し分ないところまできています。しかし、一味足りません。それは何か?一言で言えば、リアリティーです。この曲は夢見がちで、安っぽい、陳腐な「平和の歌」ではありません。一国が激しい民族紛争にさらされ、さらにNATO軍の攻撃を受けて崩壊する中、命からがら逃げ出して、生き延びた者の壮絶な言葉によって書かれた切なる思いの歌なのです。その核心にどこまで迫れるか?
山崎さんが1979年以来住まわれている旧ユーゴスラビアの崩壊と民族紛争、NATOの空爆を、思春期だった僕はテレビで目の当たりにしました。その時はその後にこの地に訪れるとは露ほどにも思いませんでした。
それが2010年と11年に旧ユーゴの中心的存在で独裁的だったセルビア共和国に訪れることができました。下の写真は首都ベオグラードに残るNATO軍の攻撃を受けた旧政府施設。2010年に僕が撮影したものですが、現在でも変わらず残っているようです。この建物の前に立ち、テレビで見た悲惨な光景が浮かびました。
セルビア人は暖かく、親切でした。親日なので、特に日本人に対してはそうでしょう。とても民族紛争を引き起こすような人々には思えませんでした。しかし、現実に起きた。もちろん政治が大きな要因ですが、それぞれの利己がぶつかった時、何人も何をするか、どうなるか、わからないということか?
人々は誰しも幸せと平和を求めています。しかし、互いの利己がぶつかり合って争いは絶えません。こういった矛盾の中で人類はこれまで生き延びてきました。さて、これからは?この疑問こそが『水脈速み』のテーマです。何百年、何千年続いた矛盾がそう簡単になくならない。なくならないけれども、声を上げる。これも歌の重要な役割の一つです。
昨日は『水脈速み』の練習の後、大阪府河内長野市に移動して、久しぶりの河内長野ラブリーホール合唱団の指導。2月26日の演奏会でJ.ブラームスの『運命の歌』と『ドイツ・レクイエム』を取り上げます。
ようやく一通り練習したということで、昨日から2巡目に入りました(少し遅すぎやしないか?)。以前よりは良くなりましたが、まだまだ。ブラームスは相当神経を使わないと、曲として成り立ちません。ある面ではバッハ以上に手強い。団員一人一人がもっともっと作品を掘り下げなければなりません!