明後日、30日(土)の本番のリハーサルのために、京都府相楽郡
精華町へ行ってきました。ここは僕にとって思い出の地なのです。
2006年2月に精華町の
けいはんなプラザのホールでJ.シュトラウスUのオペレッタ『こうもり』が上演されました。指揮は牧村邦彦さん、キャストはロザリンデに並河寿美をはじめ、関西の実力派歌手たちの豪華な顔ぶれでした。僕は、牧村さんから合唱指揮者として呼ばれ、皆よりもいち早く、前年の9月から合唱の音楽稽古のためにほぼ毎週精華町に訪れていました。
しかし、これだけでは思い出に残るほどのことではありません。それは本番の40日前、2005年も終わろうとしていた年の瀬でした。主役であるアイゼンシュタインを演る方が急病で降板されたのです! 主催者側は大慌て! 公演を実現させるべく、代役探しに奔走。この『こうもり』はシングル・キャストによる2日公演でしたので、キャストは一人で2日間歌わなければなりませんし、オケ合わせおよびゲネプロはそれぞれ1回(一人分)しか予定されていませんでした。このスケジュールに合う歌手がなかなかおらず、代役探しは難航し、公演中止という最悪の結果を迎えるかに思われました。
そこで救世主のごとく現れたのがこの僕です。というのは大袈裟ですが、合唱指揮者としてゲネプロ・本番を含めて合唱が関わるすべての稽古の日程が押さえられていましたし、歌手でもあるので、白羽の矢が当たったのでした。本番を40日後に控え、主催者一同はそれこそ成功のために全力で準備されていましたし、合唱の方々もこのために練習を重ねてきました。公演が中止となって、皆さんの今までの多大な努力が水の泡となることだけは避けたい。短期間で初めて取り組む役への不安よりも、そういう思いのほうが強く、僕はアイゼンシュタインの代役を引き受けることにしたのでした。
それまでオペラに重きを置いて活動してこなかった僕にアイゼンシュタイン役はきつかった! 初役であることに加え、オペレッタということでいっそう演技力が求められますし、台詞もたくさんあって、本当に苦労しました。それだけでなく、演出がコロコロ変わりますし、本番1週間前に台詞が大幅に変更。また、キャストの皆さんは関西のトップ歌手たちばかりで、なかなか稽古にいらっしゃらなく、本番で即興でやった場面もありました。そのような方々と絡むことは僕の能力を越えていました。
しかし、皆が支えて下さったお陰で、幾多もの困難を乗り越えることができ、僕は無事に代役を務めることができました。やけっぱちの火事場のクソ力で、「大根役者」ぶりを発揮しました(笑)。本当に得難い経験をさせて頂きました。また、合唱が素晴らしかった! もちろん合唱経験者の方はいらっしゃいましたが、オペラ(オペレッタ)の合唱は初めての方がほとんど。一から作った合唱団が音楽的にも演技的にも上達し、どこに出しても恥ずかしくないパフォーマンスを披露してくれました。皆ノリノリで『こうもり』の夜会を盛り上げてくれました。合唱指揮者としても無事責務を果たすことができました。打ち上げが終わった後、合唱団の方々が僕を胴上げして下さったうれしさを僕は一生忘れない!
そして、出演者全員を裏から支えて下さった主催者の特定非営利活動法人舞台芸術トレーニングセンター(PAT)の方々の、この公演にかけた情熱とご尽力、出演者への細かな心配りも決して忘れることはありません。キャストあるいは音楽スタッフの送り迎え、ホッと息をつける手作りのケータリング(これで出演者がどれだけ癒されたことか!)等々、本当によくして下さいました。こういったことが公演の成功につながったのです。
しかし、『こうもり』だけで終わりませんでした。京都府木津川市での声楽レッスンはこの『こうもり』がきっかけで始まりました。また、2006年には精華町で3つのコンサートをさせて頂きましたし、2007年1月には精華町主催・PAT制作による「クランゲルコンサート」にも出演させて頂いたのでした。
思い出がいっぱい詰まった精華町に訪れるのはちょうど3年ぶり。明後日の本番会場である精華町役場の最寄りである祝園駅を降り立つと、その激変ぶりにびっくり! 町役場までほとんど更地だったのに、今ではショッピングセンターができ、大きなマンションが建っていました。浦島太郎状態。時の移り変わりを感じました。
さて、明後日の本番は精華町主催・PAT制作による「クランゲルコンサート」です(鑑賞希望は締め切られ、満席です)。僕は3年ぶり2回目の出演となります。精華町役場の交流ホールには立派なパイプ・オルガンが設置されています。前回に引き続き、今回もパイプ・オルガンの伴奏で歌わせて頂きます。オルガンを弾いてくれるのはお馴染みの多久潤子さん。パイプ・オルガンで歌うことは滅多にありませんし、その響きに包まれて歌うことには格別な喜びがあります。
また、この本番は僕の独唱による久しぶりのコンサートで、「歌手 中村貴志 復活」ののろしを上げている僕にとって前哨戦となります。良いコンサートにしたいですし、今日のリハーサルの感触では良いものになるでしょう。明後日が楽しみ!
