◇今から12年ほどまえに、《サディスティック・チバ・バンド》というバンドを短期間だったけれど組んだ事があった。 バンドリーダーでボーカル&ギターのチバさんがその豊富な人脈からある特種な理由でチョイスしたメンバーで、結婚式なんかで演奏して御祝儀でも頂こうとする姑息で、尚かつ音楽のジャンルも指向もバラバラの寄せ集めバンドだった。
そこに、どういった事の成り行きだったのかは忘れてしまったが、何故か私もギターで参加した。
◇意外な事に、このバンドは良く練習をするバンドだった。 離農した農家の一軒家を借り練習場にしてヒマがあれば集まり練習をするのだが、実体は練習という名を借りた宴会で手の届く所にはいつも必ずビールが豊富にあった。◇誰かが音を出すと皆がそれについて行く。同じ曲を酔っぱらっているから苦もなく何度も何度もエンドレスで繰り返していると、そのうちなんとなく形になってくるモノだ。ただ普通はだんだんと熱が入ってきて更に磨きがかかってきて完成度の高いモノを目指すのだろうが、このバンドは突然に誰かが「こんなもんじゃない?」と言い出し、「そうだね、こんなもんだね」で練習は終わり、「喉が渇いた」で皆はまたビールを飲み始めるのであった。要するにビールを飲む事の方が練習より・・そんなバンドであった。
私はそんないい加減さが好きだったし、バンド内で最年少って事もあったのか、このバンド内での責任の無いポジションの居心地の良さが気にいっていた。◇毎回「こんなもんじゃない?」とニコニコしながら切り出すのが決ってドラムのエンドウさんで、「そうだね」とそれにニコニコしながら頷くのはリーダーのチバさん。私とベースのイケダさんもそれにはまったく異議は無いのでやっぱりニコニコしている。プシュ・プシュとビールのリングプルを開ける音がたて続けに鳴る。毎回そうだった。
◇結局、私はこのバンドで2度ほど結婚式のステージに立っただろうか。その後仕事の都合で私は脱退したが、メンバーチェンジを何度かしながらもこのバンドはスナックの開店や閉店その他宴会等々、本当にいろんな所でいろんなジャンルの曲を演奏をしていたみたいだ。私も時間の都合が合えばたまに練習場に顔をだした。その時はチバさんもエンドウさんも笑顔で温かく向かえてくれて、気が付くと手にはギターとビールがいつのまにやら。そしてボリュームの壊れた酔いどれ達のセッションは深夜まで続くのでした。
今、これを書きながら当時の事がつい最近の出来事のように鮮明に蘇る。
◇このバンドのリーダーだったチバさんは2年まえに本当にあっけなく思い出の人になってしまった。葬儀の時のエンドウさんの悲しみを堪えた顔が、あまりにも突然の事で実感の湧かない私に夢や幻ではなく現実である事を教えてくれた。
あれから2年
まさか、エンドウさんとは、あの日あの時が最後となってしまうとは思いもしなかった。体調が良くない事は人づてには聞いてはいたが。そんなに深刻な状態だとは知らなかった。 彼もまた思い出の人になってしまった。

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