幻の様な音像が、現れては消え現れては消え、まるで白昼夢でも見ているような感覚に陥りそうになる。
プロダクションは貧弱とまでは言わないものの、決して誉められた物ではないし、この手の音楽にしては上物のアレンジも控えめ。
しかしそれらの要因ですら、このアルバムの持つ世界観に飲み込まれ、歯痒さや過不足などは微塵も感じさせられない。
上手いや下手だとかを論じる事が空虚な物に思えるカリ・ルエスラッテン嬢の歌声
。
普段音楽を聴く時に反応する感覚とは違う、別の感覚が刺激されているような。
世間一般ではこの音楽はゴシック・ドゥームメタルとして語られることが多いが、ドゥームというほど殺伐とはしてないし、メタル的な整合感も無い。
ゴシックな風合いは辛うじて感じられる物の、今のゴシックメタルの定義には当てはまる部分は極めて少ない。
しかしこの音は、一部の人にとっては非常に馴染み深い物でもある。
悠久の時を経た今でも尚、その音の輝きは失われる事は無い。
このバンドの目指していたのは、60、70年代のヨーロッパのバンド達が築き上げたサウンド。フォーク、プログレ、ハードロックその他様々なジャンルのバンドが音楽の形態こそ異なれど、ある特定のサウンドを求め、多様な形で表現していたように思える。
このバンドはそんな先代達の遺伝子を受け継いだバンドであったことには違いない。
ただ残念なことに、ボーカルのカリは1st発表後に脱退してしまっている。その後はフォークの分野で作品を発表しているのは納得。(聞きたいけど売ってねぇ・・・)
その後の3rd〜は新たにボーカルを加入させ、今も活動を続けているそうだが、本作とは似ても似付かない音になってしまってるそうな。(でも2ndは良いらしいよ)
俺は今まで(そしてこれからも)いくつものこういうバンドを取り溢してきたんだろうか。
物凄くいいアルバムなんだけどキャッチーなメロや、分かりやすい展開などの要素は皆無なので、そういうのは期待しないように。

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