オレは初めて葉月の家にやってきた。
最初に通されたのは広い和室。
20畳の和室なんて初めて見た気がする。
羽月はと言うと
『そ・・・そこで・・・ちょっとだけ・・・待っててください・・・』
と、おろおろと言い残し、小走りで消えていった。
一体何を話す気なのだろうか。
気になってしまうが、もっと気になるのは・・・
羽月の家系だ。
最初に出会ったのは学校。
伊織の後ろに隠れておどおどしていたのを覚えている。
みんな自己紹介して自分のことを教えてくれたが、羽月は
『あ、有吉・・・は・・・づき・・・で・・・す・・・』
しか言わず、それっきり黙りこんでしまったのだ。
それ以降は伊織がずーっと話していた気がする。
普段はおろおろしているが、ときどき鋭い顔になるのが気になるところ。
そして今日のみんなの姿を見てると、何かあるとしか思えない。
そんな時、普段話もしない羽月が声をかけたのだ。
絶対に何かあると断言してもいいだろう。
等とずっと考えていると、和室の襖が開いた。
「お待たせしました」
いつもの性格とはまるで別人のような姿で出てきた。
服だけではない、今の話し方、口調、全てにおいて違うのだ。
服は白い着物のようなものを着ていて、顔は時々みる鋭い顔だった。
「羽・・・月?」
本当にコイツは羽月なのだろうか。
一瞬疑ったが、その疑いを全て洗い流すかのような一言が飛んできた。
「私は・・・『有吉羽月』とは少し違う、もう1つの人格だと思ってくれれば構いません」
もう少しの・・・人格だと?
「な、なんだよ・・・それ、い、意味わかんねーんだけど・・・」
本当に何が何だかさっぱりだ。
いきなり見知らぬ土地につれてこられ、家に入れられ。
出てきた姿が羽月じゃない・・・!?
「いきなりこのようなことになって大変申し訳ないと思っています」
そういうと羽月は一礼し、話を続ける。
「ですが、もう遊びでは済まされないことがこの霧炉魅里では起こっているのです」
話している言葉、話し方・・・羽月ではないことが確信された。
だが、話し方はその中にも少しだけ羽月のように『不安』を持っている話し方だった。
「お話、聞いていただけますか?」
そう聞いてくる顔は有無を言わさぬ顔だった。
「あぁ・・いいよ、とりあえず・・さ、座っていいんじゃないか?」
少し違うとはいえ、羽月は羽月なのだろう。
オレの身を危険にさらすようなことはしない。
何故か、オレはそう思った。
第一、ここは羽月の家・・・だからな。
オレの言葉に羽月は1瞬考えたようだが、躊躇いなく正面に用意してあった座布団に座った。
「では、順をおってはなします。まず、貴方の聞きたいことなどがあれば」
聞きたいこと・・・沢山ありすぎて整理できないが、まずはあれだ。
「お前のこと・・・いや、お前について知りたい、家系や、お前じゃない・・・普段の羽月との関係とかな」
そうオレが言うと、少し躊躇ったが羽月は話し出した。
「私の意識が出始めたのは数年前。丁度、羽月が遊梨や稀菜たちと出会った頃です」
羽月ってのはもう一人の・・・か。
話してる羽月の姿はいたって真剣だった。
嘘や偽りなんて、さらさらする気がないような。
「私の家系・・・つまり、羽月の家系は『霊能者一族』と考えていただけたらいいかと思います」
霊能者一族・・!?
何だよそれ・・・!!!
「霊を直接的に除霊するなどはしません、私達の専門は『呪い』なのです」
「呪い・・・?」
オレが聞くと、羽月は淡々と話し出す。
「このような歌・・・遊梨たちから聞いたことはありませんか?」
「歌・・・?」
「霧が燦燦見上げるは黄色い目をしたお月様。その目を見ている影一つ明日には笑顔が亡き姿・・・・という歌です」
聞いたこと無い・・・そんな歌・・・!!!
もしかして、遊梨たちが隠してるのって・・・!!
「し、知らない・・・な、なんだよ・・・その歌・・・!」
平然を装っているつもりだが、抑えきれない。
かなり動揺している・・・理性はあるのだが・・・。
「やはり・・・そうですか、よかった・・・まだ間に合います、これは聞き逃しの無いようにしてください」
更に鋭い目つきになった羽月は、一息おいて話し出した。
「これは、私達の里に伝わる・・・言い伝えだと考えてくれればいいと思います」
「言い伝え・・・?」
「えぇ、言い伝えです。この里には、いくつかの言い伝えがあります。一番信じられているのはこの歌だと・・・」
「ど、どういうことだよ、歌の意味は・・・!?」
「・・・ある満月の晩に全てが始まりました・・・」
自分の動揺を抑えようとしているのか、羽月は目を瞑って話し出した。
「ある男が霧の晩、満月を見たのです」
「満月を・・・?ただ、それだけ?」
「それだけではないのです。おかしいと思いませんか?」
「何が?」
「霧の濃い晩だった・・・、満月が綺麗に見えるわけがありません・・・見えたとしても、何処が見えるのは一部。満月だと分かるくらいはっきり見えるなんてありえないのです」
「あ、そうか・・・!ってことは!?」
「そう・・・そして次におかしいのは、その翌日、その男性は変死体で発見されたのです」
「へ・・・変死体!?!?」
「えぇ・・・手も足もバラバラにされ、頭からは脳が飛び出し・・・首は切れ、腹が割れていた。と聞かされています。写真もあります・・・見たければ、見せますけど」
そう言って写真を取りに行こうとする羽月を、オレは慌てて止めた
「い、いいよ・・・気持ち悪い」
オレが言うと、また羽月は座りなおし、話を続ける。
「そして、一番おかしいのは・・・満月の晩、それが毎回起こっていることです」
「ま・・・・毎回!?だ、だって!それって頻繁じゃないか!見えることだっておかしいのに!!」
「落ち着いてください。私達も今、それのことについて調査中・・・今分かっている事は、全員が霧で満月の晩、満月を見た・・と知人に話していること」
「なんだよ・・・それ・・・」
「皆が今日、元気がなかった理由・・・それは今日が『霧で満月の晩』だからです」
「・・・!!!ってことは・・・今日も・・・!!!!!!」
「えぇ、恐らく、誰かが死ぬ・・・それが呪いによるものなのか、呪いを装った殺人なのか・・・私達は、それを調べているのです」
「今日はオレに・・・それを伝えるために呼んだのか?」
「はい・・・もう夜が近い、決して今日は空を見ないように・・・してください。死にたくなければ・・・」
「お、おう・・・!あ、当たり前だろ・・・!!!」
そんな不気味な会話をされたら、誰だって空なんか見たくない。
もしかしたら、遊梨たちはコレを怖がって・・・?
だったら、ここらへんに人があまり居ないのも分かる。
恐れているんだ・・・死ぬのを。
いろんな考えが頭を駆け巡り、混乱しかけたオレ。
そんなオレの背後には、誰かが立っていた・・・。

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