和人が残業で遅くなり、夜もふけてあたりが暗くなって帰宅した時である。
和人は、「残業で遅くなったので、外で夕食を食べようか。」と帰宅後、普段着に着替え自宅マンションの玄関を出た時であった。
駅の方にある行きなれたレストランに歩いて自宅マンションを出て、隣りのマンション前を歩いていた時、暗がりであったがそのマンション入り口付近で妙な二人を見た。
背の低い老婆らしき人と中肉中背の髪がぼさぼさに見える若そうな男性の二人を見たのである。
和人が通りかかろうとしたとき、視線をこちらに向けたと同時に視線をそらし、何気ないそぶりをその男性がしたのである。
和人は
直感で何か怪しげな臭いを感じ取った。
和人は、通り過ぎずに二人の傍に寄って行った。
ひとりは背の低い年配のご婦人であったので、「こんばんは。」と声をかけた。
若そうな男性は何も返事をせず無言で視線をそらしていた。
背の低いご婦人は、ハンドバックから財布を取り出し、1万円札を出していた。
1万円札を持って差し出した手は、わずかながら震えていた。
和人は、「おばあさん、この方は息子さんですか?お孫さんですか?」
ご婦人は頭を横に振りながら震える小さな声で、「知らない方です。」
「お金を貸して欲しいというもんで・・・」
和人はその男性に問いただした。
「何で見ず知らずの人にお金を借りるんですか?しかもこんな暗がりで。」
「おばあさん、早くそのお金をしまいなさい。」
するとその男は、「財布を落としてねェ、金がないもんで、このばあさんに貸してくれと言ったらいいって言うもんだから・・・」
和人は、「何、非常識なことを言っているんだ!」と、その男の言い分に反論した。
男は、「このばあさんは、貸してくれると言ったんだョォ!」と、大声を出してきた。
更に「バカ野郎!、邪魔すんな!、俺は借りるだけだァ!」と、もっと大声を出して、「借りた金は返すつもりだァ!」とへ理屈を言いつつ、和人に近づき胸を突き飛ばした。
そのくらいでは飛ばされる和人ではなかった。
もう一度手を出してきたときは、必要な対応をするつもりでへ理屈に対応した。
和人は、「このご婦人は怖がっているじゃないか!」
「お金を借りる時は、あかの他人じゃなく知り合いが先だろう。しかももっと明るいところで借りるのが常識だろう!」
「チェッ!馬鹿野郎!」とその男は捨て台詞を吐いた。
すかさず和人は一喝した、
「ふざけたことを言うんじゃない!」
その和人の
丹(ハラ)の据わった一喝で男は後退りし、そして一目散に逃げて行った。
和人はご婦人に実害がなかったことを確認した。
しかしたとえ実害がなかったとはいえ、このような状況で貸したときも貸さずに抵抗しても、大きな傷害事件が起こることは間違いなかった。
貸したら貸したで、もっとよこせと強奪されていたであろうし、貸さずに抵抗したら、弱いご婦人相手に、強盗まがいの手段にまで発展しただろうことは目に見えていた。
ご婦人には、この件を必ず警察へ通報することと、マンション側に対して「防犯VTR」設置の申し入れをする様話した。
後日、同じような時間帯に隣りのマンション前を通った時、警察がパトカーでパトロールを実施していたことや、マンション玄関に「防犯VTR」設置と玄関回りにより一層明るい照明が設置されていた。
備えあれば憂いなしだ。しかし、「弱い者にたかるとは何たることか!」と心の中で嘆いた。
宇城憲治師に学ぶ心技体の鍛え方