2008/6/7
「ブルームーズ=マイルス・ムード」
JAZZ、BLUESアルバム評
「マイルス・デイヴィス/ブルー・ムーズ」
(debut/ユニバーサル:UCCO−9303)
【パーソネル】
マイルス・デイヴィス(tp)
ブリット・ウッドマン(tb)
テディ・チャールズ(vib)
チャールス・ミンガス(b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)
【収録曲】
1.ネイチャー・ボーイ
2.アローン・トゥギャザー
3.ゼアズ・ノー・ユー
4.イージー・リヴィング
頭の中に「マイルス・デイヴィス」と打ち込んで画像検索をかけてみたら、暗闇の中で一人スポットライトを浴びている細身の男が浮かんできた。
男は背中を丸めてミュートを被せたトランペットを吹いている。その繊細なサウンドは、暗闇にいる我々を、スポットライトの中に一気に引き寄せる。気が付くといつの間にかスポットライトの中の男は、”背中を丸めてトランペットを吹く男のシルエット”になっている。
このマイルス典型的なイメージが、最初の一音が出てきた時からむくむくと沸き上がって、最後の一音が消えるまで頭の中で消えない作品がある。それが今日ご紹介する「ブルー・ムーズ」だ。
マイルスがまだ自己のレギュラー・バンドを持つ前の1955年に、先輩格のチャールス・ミンガスの肝煎り(借金のカタにミンガスのレーベルでタダ働きさせられた、というウワサもある)で行われたレコーディングに、クール・ジャズの代表的ヴィブラフォン奏者テディ・チャールズ、エリントン楽団出身で、ミンガスとの関わりも深いトロンボーン奏者ブリッド・ウッドマン、更に若手ドラマーのエルヴィン・ジョーンズという、一見どういう繋がりで集まったのか分からない多種多様なメンバーが入り交じったこのアルバム、多分ファンには馴染みが薄いものが多いんじゃないだろうか。
事実マイルスのアルバムの中でも話題になることはあまりなく、国内盤のCDの、オビにまで「マイルスの作品の中では比較的地味なアルバムだが」とまで書かれている始末。しかし、このアルバムから「もわぁ〜ん」と立ち上がる、何とも冷たく気怠い雰囲気の美しさはどうだ。暗がりに映し出されたマイルスのシルエットが、脳内で蜃気楼のように揺れ続けるではありませんか。
最近の私なんか「マイルスが聴きたいな」と思ったら迷わずコレ。「カインド・オブ・ブルー」も「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」も「イン・ア・サイレント・ウェイ」も「マラソン4部作」も後でいい。寝転がってトロ〜ンとまどろみながら聴く時に「あ〜、やっぱマイルスいいわ〜」とさせてくれるアルバムは、コレ以外にない。派手な曲、盛り上がる曲は一切なく、ペダル踏みっ放しのチャールズのヴィブラフォン、静かも黙々とリズムを刻むミンガス&エルヴィンのベース、ドラムスの上で、マイルスは淡々と吹いている。アドリブ・パートとて、トリッキーな面を一切出さず、慎重に慎重を重ねたような音の選び方で、音そのものというよりも音の隙間や消えゆくフレーズの余韻でマイルスは聴かせる。
超初期(つまりは自分のバンドを持つ以前)のマイルスといえば、割とポップなハードバップ・アルバムが多い。そう考えると終始一貫して”ひんやり”とした、いかにも「マイルスぅ〜!」な肌触りを持つこのアルバムは、例えば60年代の「カインド・オブ・ブルー」なんかに通じるストイックさを感じる。
「凄いねマイルス。この時代で既にあんな感じのクールな音世界を完成させてたんだ」と思っていたら、このアルバムのアレンジのほとんどは、テディ・チャールズによるものらしい。雰囲気で聴いて「いいなあ〜」となるのが一番正しい聴き方だが、深入りして「マイルスとクール派の関係」というキーワードを頭の片隅ででも意識しながら聴けば、より深く楽しめる奥深い作品でもあるのだ。
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