旧パラを検証する15
第二号3
次に、将棋月報で連載した後、本になった前田三桂氏の「失礼御免 ヘタの横槍 乾の巻」の転載がされている。
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前田三桂著
失礼御免 ヘタの横槍 乾の巻
自序
我れヘタの横槍を堤げて跳り出で、縦横無尽に付き捲る。流血杵を漂はし、伏屍累々として堆をなす。客は当代に於る屈指の巨匠。槍は時世後れの無用の長物。突けども突けども蚊子鉄牛を咬むが如し。豈其の盛名に累ひせんや。本是れ臍茶を沸さんとする筆墨の遊戯のみ。他意あるにあらず。然りと雖もヘタの横槍をして跋扈跳梁、徒に臍茶を沸し、臍の宿替で哄笑せしむるものは断じて国手の名誉にあらざるべし。誰か言ふ今の棋は古の棋に勝ると。古の棋は素朴今の棋は精細。爰を以て古を貶して今を揚ぐ。古の棋は素朴と雖も精神充実す。今の棋は精細と雖も心身緊張を缼く。既に精神充実するあり。是を以て詰を逸する者なし。心身緊張を缼く。是を以て失着相継ぐ。古人詰を逸するを以て恥となし而して身後の名を惜む。今人詰を逸する者何ぞ夫れ多きや、抑々目前の利を遂ふに急にして、恥を後世に留むるを憂ひざるか。我れヘタの横槍を揮ひ、其の不用意を襲ひて、惰眠の夢を驚かす。若夫れ調子外れの掛士声に覚醒し、棋の注意を喚起するを得ば、ヘタの横槍も亦全く無用の長物に終わらざるべし。今我れ臍茶百杯を啜って、天井裏の長押に皈臥せんとす。オサラバ、サラバ、失礼御免。
昭和十四年五月下澣
横槍は昭和三年五月以降十年余に亘り将棋月報に掲載したものであるが、棋譜の散逸したものもあるので、今回更に取捨増補し、類聚整理して菖来の面目を一新したものである。
目次(省略)
道標(省略)
第一槍
もうそろそろ将棋の季節に入って来た。王より飛車を大事がる縁台将棋には、必ずヘタの横槍がはいる。助言は将棋の禁ずる所であるが、ぼーふらが湧く日南水のやうな生温い手を指すのを見ると、もう黙って観ては居られない。そこで不知不識禁を破って、つい横槍を入れるのである。
だが此の横槍を入れる奴にかぎつて、串柿のやうにヘタに固まった代物と、昔から相場は決まって居る。而して大抵は急所を外れて居るのである。斯様な御愛嬌のある横槍に、見物人はどつと歓声を揚げて、無上に嬉しがるのである。俺も矢張り御多聞に洩れぬ木端屑だから、生温い指手を見ると、ヘタの横槍を入れて見たくなる。どうせ急所を外れた横槍で御愛嬌を振撒く事であらう。だが木屑の縁台将棋や木葉武者や雑兵ばらには眼もくれずお雛祭りの段より高い八段だの九段だのといふ飛ぶ鳥も落す偉い先生達が、脳漿を絞り心血を注いだ金玉の名棋譜に向つて、横槍を突出さうといふのである。随分大胆な無鉄砲の話だ。で迂闊に手出しをしては返討が恐しい。と言って無闇に怖がって居た日には、ヘタの横槍も天井裏の長押に一生燻って世に出る時がない。煤掃の外には卸す折のない埃だらけの横詰をリュウリュウとしごいて一遍世間へ出し、前代未聞の活躍をさせることにした。凡そ棋士には夫々特徴がある。金子氏の将棋は序盤にありとの主張で、序の策戦に斬新奇抜な工夫を凝し、不断棋界に清新な息を吹込み棋士を刺激して居る。今爰に選出したやうな最初に七八金と締つたり或は四八銀と繰るなど俗眼を驚す珍奇の趣向は主に金子氏によって試みられて居る。蓋し序の指方に余り凝り過ぎる所為か、毎時尻がお留守になつて、見苦しい放屁的醜悪な棋譜を遺して居るのは遺憾である。
昭和七年十二月
開始日時:昭和七年十二月
先手:勝 金子金五郎 七段
後手:大崎熊雄 八段
78金、34歩、76歩、44歩、56歩、54歩、58飛、62銀、55歩、同歩、同飛、42玉、58飛、32玉、68銀、42銀、57銀、52金右、56銀、43金、48銀、84歩、57銀、85歩、77角、33銀、69玉、31角、59角、86歩、同歩、同角、77桂、42角、87歩、22玉、66銀、94歩、36歩、95歩、88金、64歩、46歩、32金、78玉、74歩、26角、54歩、45歩、53角、55歩、45歩、37角、63銀、45銀、31角、54歩、44歩、56銀、54銀、26角、53角、59金、73桂、68金、85桂、同桂、同飛、37角、81飛、55銀直、57歩、同飛、45桂、56飛、37桂成、54銀、47角、43銀成、同金、54銀、同金、同飛、52歩、43金、32銀、55桂、41銀打、53飛成、同歩、63角、82飛、37桂、12玉、25桂、22銀、42歩、43銀、41角成、52銀で次の局面となった。

此時金子七段は「慌ててはいけない。焦ってはいけない」と自ら戒めつつ真剣に慎重の態度で三二馬と慌てて居る。
以下三十二手は見当違いの斜視将棋であるから抹殺した。
此処には二四桂打の好手がある。
二四桂打つと、同歩一三桂成(同銀では二三金打の詰だ。又同玉と取るなら一四銀、一二玉、二三金、同銀、同馬の詰)同桂、二一銀打、同玉、三二金、一二玉、二二金、同玉、二三銀、三三玉、三二馬で見事な詰である。
高段者の詰抜けと武士の腰抜けは、孰れ劣らぬ世の物笑ひである。
アツハツハ。失礼御免。
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これは、本人が悪意は無いといっても、書かれた棋士は怒るのは当然でしょうね。将棋月報もこの「ヘタの横槍」のおかげでプロと疎遠になったみたいですが、当然だと思います。
昔は大人気だったそうですが、今読むとそんなに面白いとは思わない。
また、昔の棋譜は詰を逃さないと書いてあるのも当然間違いで、昔の棋譜は詰みがあるのに詰まさないで勝った場合、棋譜を修正して即詰みにして勝ったように棋譜を改竄したことも多かったみたいです。
今のプロの将棋を柿木将棋で詰検索したら、かなりの確率で詰みを逃していると思いますけどね、、、。
ただこの例題の将棋は簡単な詰みだから、詰みを逃したのは恥ずかしいと言われても仕方ないような気もしますね。