旧パラを検証する3
創刊号2
板谷八段の詰将棋の次に、鶴田主幹による。「詰将棋パラダイス発刊の辞」がある。今回はそれを全文掲載したい。
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どんなつまらないものでも、一つのものが新しく生まれ出るといふ事は意義深いものである。この世の中に、たとえ貧弱なものにせよ、一つのものが創り出されるといふ事については、それが生まれ出づる必然の因縁が働いていると見るべきであらう。ただそのものが永き命を保つか、或は短命に終わるかは、生まれ出てからの運命で、其処に努力その他あらゆる発展的要素の添加如何が之を決するであらう。
詰将棋パラダイスは、中京の一角から発行されて居たガリ版刷りの寔に貧弱極まる、だが、熱と誠意を以て作られていた「紳棋会報」が、通巻四十九号に達し、その初期より企図せる成果が、一応の限界点に達したと測定された必然の結果として、会報を発展的に解消して、之に新たなる生命力を付与して、之に「詰将棋パラダイス」と命名し、諸彦の座右に送らんとするものである。現今、我将棋界は未曾有のケンラン期にあり。その盛況は戦前の黄金時代を凌ぐものあるは明白たる現実である。
之に件つて将棋専門誌の如きも、将棋世界をはじめとして、将棋評論、将棋教室、王将、将棋とチェス、近代将棋、将棋(?)将棋芸術、将棋新聞、仙台将棋月報、アマチュア将棋新聞、棋陣(?)詰棋人(?)と百花繚乱。之亦戦前を遥に凌駕するケンラン振りである。
将棋ファンの数の増加、質的向上も目覚しいものがあり、各大新聞が競って将棋欄の充実に意を用いつつある事も、この情勢からして当然の事と云い得るであらう。小粒なりと雖も紳棋会報も棋界隆盛の一翼として将棋の一分野に確固たる地歩を占めつつあった事は、知る人ぞ知る厳然たる事実であった。今その会報を解消して、パラダイスを誕生せしめる。豈一個の抱負なからざるべけんや、と云ふ所である。
今更申す迄もなく、将棋は一個の娯楽であり、専門棋士は暫く措くもアマチュアたる吾人は、之を楽しむ事によりて、明日の活動へのエネルギー補給、リクリエーションの一形態として、之を考へて良からうと思ふ。その楽しむ仕方にも各人各様指将棋を楽しむあり、詰将棋を楽しむあり、その双方を楽しむもの。高段者棋譜を鑑賞するもの。他人の対局を観戦して楽しみとなすもの等等。千差万別であらう。然し将棋が最後に敵玉を詰める事により終了するゲームである以上、終盤の攻防に最大の興味を感ずるのは、独りアマチュアのみではなからう。その終盤の攻防を一個の局面として凝集せしめたものが詰将棋であり、将棋ファンの大多数が詰将棋ファンたる事実は、之を雄弁に物語るものでなくて何であらう。このファン最大の興味たる詰将棋のパラダイスを実現せんと意図して、紳棋会報の発行に立到ったのであるが、何せガリ版刷りにてはあらゆる点で意に満たず、百万考慮の末本誌の発刊となった次第である。その名の示す如く、本誌の使命は、詰将棋の楽園を現出せんとするにある。その希望の余りに大なるに比し、その力のあまりにも小なるを畏れる。然し人生万事意気と熱之に加ふるに会員諸賢の万福の後援を以てせば、この片々たる小冊子の前途も、必ずや洋々たるものあるを確信するものである。
本誌は全巻会員に開放される。詰将棋の楽園に悠々漫歩せんとせらるるファンの為に開放される。虹の如き気焔、火の如き熱論静林明月の如き枯淡な閑話。事、将棋特に詰将棋に関する事なれば、諸賢の意図は百パーセント誌上に公開され、会員相互の親近感は弥が上にも満たされる事であらう。
曩に信州に将棋月報なるものあり、今尚我等にとりて恋人の如くなつかしき存在であった。戦争の為廃刊せられ再びなし。我々はこのパラダイスを月報の生れ代りとして育成してゆきたいと思ふ。否月報以上の立派な良い子に育ててゆきたいと誓ふものである。パラダイスはかくの如き理由の下に、当然生まれ出づるべくして生れた赤ん坊である。
孤々の声をあげたばかりである。これがすくすくと育つや否やは偏に会員諸氏の愛情にかかっている。生かすも殺すも御意の儘である。各専門雑誌といふ群雄割拠する中で、一人歩きする迄には並大抵の苦労が要る事も充分承知している。それは楽しい苦労であり、背後に皆様の暖かい庇護の手がある事を思へば、勇気百倍して来る。生誕当初から皆様のお気に召すものをお眼にかける程の芸当は持ち合はしていないが、月を遂ふて漸次御意に召す身づくろいを整へるだけの誠意は誰にも負けず持合はせているつもりである。
随分手前勝手ばかり申し上げて恐縮の至りであるが、このパラダイスこそおいらのものとして、立派に育ててやらうぢゃないかと御賛同下されて、何時何時迄もお見捨てなくご眷顧の程、遥か三尺飛び下つて平伏お願い申上げる次第である。
尚本誌は会報の延長として、大道五目並べの研究を連載する。大道連珠の研究は他では見られない異色篇である事を断言しておく。又紳棋会から出版した「大道詰将棋五百題明解」の不備欠点は逐次本誌上で補遺改良させて頂く事も御諒承願っておく。何に致せアマチュアの素人仕事。不整不良は万々御海容下されて、皆んなの力でより良きパラダイスを築き上げて頂きますやう重ねて衷心からお願ひ申上げて「詰将棋パラダイス」発刊の辞といたします。 敬 白
最後に諸賢の御健康と万福を祈ります。
昭和二十五年三月吉日 編 集 主 幹
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いやあ、熱いですねえ。熱気が伝わってきますね。
鶴田主幹は今の方はご存知ないかもしれませんが、良くも悪くもカリスマで、「詰将棋パラダイス」といえば鶴田主幹。鶴田主幹といえば「詰将棋パラダイス」と、ほとんど「詰将棋パラダイス」と一心同体の人生を歩まれた方でした。
今は詰将棋のレベルは遥かに向上しましたが、これほどの熱気は誌上に無いのは、時代の流れとはいえ寂しい面もあると思います。