宮本輝作品を読み出したのは、それほど古くはありません。最初のきっかけは、やはり映画。誰もが良く知る「川」の三部作のひとつ「泥の河」が小栗康平監督によって映画化されたときからです。この映画を見てから、宮本作品を読み始めました。「海岸列車」も気になっていた作品。とくに、冒頭の第一章「無人駅」に登場する山陰の海沿いの小さな駅「鎧(よろい)」がどんなところやら、いつも気になっていました。
宮本輝氏の小説「海岸列車」の書き出し。『かおりの目的地は、城崎から鳥取のほうへ向かって五つ目の駅の「鎧」である。そこは無人駅で、東西に低い山があり、北西に暗い口をあける日本海の小さな入り江が切り込んでいる。』(抜粋)と、その「鎧」のことを描いています。
ある夏の終わりの日、山陰の鳥取からの帰り道、その「鎧」へと向かう機会がありました。近々、取り壊されるという「余部鉄橋」を過ぎると、「鎧駅」は間近、しばらく山道を走ると小さな看板で「JR鎧駅」との表示がありました。よほど、気をつけて走らないと見落としてしまうほどの小さな看板。矢印にそって左折、しばらく走ると狭い二又の道に、左側が鎧駅、右側は急坂になっており、海沿いの集落に向かう道です。そのまま左の駅方向へ走らせますと、2〜3分で駅前広場に行き着きました。
エンジンを切り、冷房のきいた車から降りると夏の日差しが突き刺してくるよう、そして、セミの鳴き声だけが大きく響き渡っていました。汗がジワーッとあふれてきました。駅前には数軒の民家がありますが、人の気配は全くありません。白い平屋の建物には、「鎧駅」と書いてあります。無人駅です。電車が来る様子もなく、乗ろうとする人影もありません。
無人の駅舎に入り、ホームへ、そして地下道を通らず線路を横切り、向かい側のホームへと。そのホームから見えるのは、はるか眼下に見える小さな港、そして、さらに向こうへと広がる青い海、素晴らしい景色です。小説「海岸列車」の”かおり”もここから真冬の小さな港を見下ろしたのでしょうか。一艘の漁船が港に白い波を残しながら入ってきます。空には、鳶(とんび)が大きく弧を描いて獲物を狙っています。真冬の季節、真っ白の世界に閉じ込められたこの村落は、ひたすら春が来るのを待ち続けているのでしょう。
ホーム脇に看板が立っていました。そこには、NHKテレビ「二人っ子」のロケ地と書いてありました。そうか、ここは小説「海岸列車」よりも、テレビのロケ地としてのほうが、有名なのかと納得。

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