SF作家、小川一水の初の中編集です。以前読んだ、民間企業が月面への施設建設に挑む長編『第六大陸』が傑作だったので知り合いに借りて読んでみました。全四編。
『ギャルナフカの迷宮』 政治犯として迷宮に送られる刑に服した男の挑むことになることとは? 前半のサバイバルに比べ、後半の○○を築き上げていくところがややリーダビリティに欠けるきらいはありますが(おそらくここが描きたかったのでしょうが)、力のこもった作品です。結末は好き嫌いが分かれるところですがいかにもこの作者らしいものです。
『老ヴォールの惑星』 厳しい状況下の惑星で生まれた珪素でできた生命体は、その知識を次の世代に伝えながら生活していた。しかしそのサイクルを壊す出来事がやって来る。SFではおなじみのあるテーマに挑戦し、見事成功を収めた傑作。自分はあまりSFは読んでいませんが、この作品に限っていえば、海外でも通用するレベルではないでしょうか。2003年度SFマガジン読者賞受賞作。
『幸せになる箱庭』 木製の物質を搾取する機械の創造者と交渉する為に、その機械に運ばれていった一行が体験したものとは。これまたSFに深くないので自信を持ってはいえませんが、中盤も終盤も、どこか展開に既視感を覚えてしまいます。作者らしい結末ですが、もっと苦味があったものでもいいと思いました。
『漂った男』 墜落事故により、表面積8億平方キロ、全てが海面の惑星に着水、たった一人の彼を救助するにも、位置の特定は不可能だった。はじめ、如何に位置を特定して救助してもらえるか? というミステリ的興味を持つ作品かと思いましたが違いました(360頁14行で見つかるものに関してはもっと伏線を張ってほしかった)。しかしテーマはそちらにはありません(後述)。器具を使っての通話でのみ描かれる救助担当の軍人など実に印象的で、読み応えのある秀作。
『第六大陸』や他の作品の概要を聞いてのイメージはTV番組の『プロジェクトX』でした。何か達成困難なものに挑むイメージですね。本書もまたそのイメージを崩しませんでしたが(全作品が”これから、希望を持って困難に挑戦する”ところで終わっているのが凄い)、加えて全編に共通する”異界とのコミュニケーション”というテーマが(勿論『漂った男』もそうです。そして本編のみが書き下ろし)一本芯を通すことにより、ただの作品集に終わらない魅力を放っています。SF好きならば御一読を。(ハヤカワ文庫JA)
PS:表紙はやはりあの作品なのでしょうが、イメージが違いすぎ。昔の創元SFにあったような、抽象的なものの方がこの本には合っていたと思います(でも売れないか)。