1976年7月、西ドイツ・バイエルン地方のアシャッフェンブルクという街で、アンネリーゼ・ミシェル(Anneliese Michel)という23歳の女性が死亡した。
アンネリーゼは、その数年前から「悪魔に取り憑かれて」おり(周囲も本人もそう信じていた)、二人のカトリック神父が9ヶ月に渡って悪魔祓い(exorcism)の儀式を行っていた。
アンネリーゼは約2ヶ月間ほぼ絶食状態にあり、死因は餓死に近い栄養失調だった。
両親と神父二人は、保護責任者遺棄致死で起訴されたが、この裁判は前代未聞の奇妙なものとなった。被告側の弁護士が、アンネリーゼの悪魔憑きが真実であると主張し、法廷で悪魔の存在を証明しようとしたからだ。
証拠として、神父たちが儀式の最中に録音した51巻の音声テープが提出された。
結局主張は認められず、被告たちには懲役6カ月、執行猶予3年の判決が下された。ただし法廷は、悪魔の実在については信仰の問題であるとして判断を避けた。
この事件は、2005年に舞台をアメリカに移して『
エミリー・ローズ(原題:The Exorcism of Emily Rose)』という題名で映画化された。
(エミリー・ローズという主人公の名前も、アンネリーゼ・ミシェルをもじったものと言われる。)
映画は、法廷劇を中心に据えた、ホラー・サスペンス映画としては異色のものだったが、劇的な演出を含め、かなりの脚色が加えられたもので、事実とは異なる部分も多かった。
2006年、アンネリーゼ・ミシェルのストーリーは、事件のあったドイツで『
Requiem』のタイトルで映画化された。主演女優がベルリン映画祭の女優賞を受賞するなど高い評価を得たが、日本では未公開のままだ。
以前からこの事件は知っていて興味はあったものの、情報が少なくて困っていたところが、この事件のドキュメンタリーが2007年にポーランドで製作されていて、しかも日本語字幕付きのものがYouTubeに上がっていることを最近知ったのだった。
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アンネリーゼ・ミシェルのエクソシズム 1/6
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アンネリーゼ・ミシェルのエクソシズム 2/6
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アンネリーゼ・ミシェルのエクソシズム 3/6
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アンネリーゼ・ミシェルのエクソシズム 4/6
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アンネリーゼ・ミシェルのエクソシズム 5/6
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アンネリーゼ・ミシェルのエクソシズム 6/6
…果たして悪魔は実在するのだろうか?
そして悪魔は本当にアンネリーゼ・ミシェルに取り憑いたのだろうか?
このドキュメンタリー映画を観終わって、そう思える人は、意外に少ないのではないか。
もちろん、彼女の「悪魔憑き」の状態が、演技などでなかったことは間違いないだろう。
何しろ彼女は自分の全身を昼夜を問わず痛めつけ、食事を拒否し、やせ衰え、ついには悲惨な死を迎えたのだから。(写真の彼女の両目の周りが真っ黒になっているのは、「くま」ではなく、打撲による痣である。)
いくつかヒントはある。
まず、事件が起きたのは、1973年に公開され、世界中でセンセーションを巻き起こした映画『エクソシスト』の公開の「後」であるということ。アンネリーゼは、まず間違いなく『エクソシスト』を観ていたはずだ。憑依状態の彼女の凶暴なうめき声は、『エクソシスト』のリンダ・ブレアの完全なコピーに聴こえる。
さらにアンネリーゼ・ミシェルもその家族も、非常に敬虔なキリスト教徒であり、彼女自身も聖職に就くことを目指していたこと。
そして彼女の中の「悪魔」と神父たちの対話が、現代カトリックの儀式の在り方についての驚くほど詳細な議論だったことだ。
キリスト教徒、それも敬虔なキリスト教徒でない人間は、はじめから悪魔憑きなどにはならない。
悪魔はキリストという存在の裏返しであり、キリスト教が存在することによって初めて存在し得る。キリスト教が生まれる前は、悪魔は存在しなかった。
サタニズムの儀式は、キリスト教の儀式を全て逆さまにひっくり返したパロディとして行われる。そしてサタニズムの教義は、意外なほどにモラリスティックでストイック、つまりキリスト教的だ。サタニズムはキリスト教のひとつの宗派であるとさえ言われるのもわかる。
結局、悪魔憑きの症状とは、敬虔な信徒の精神生活を日常的に支配し束縛する、キリスト教というモラルと秩序の体系に対する破壊衝動、そしてそこから逃れたい、解放されたいという無意識の衝動の現れなのではないだろうか。
同時にその解放は、信仰への強力な意思によって支えられ、自己破壊的な破滅に向かっていく。アンネリーゼは自分の中の獣によって、自分自身の信仰を試していたのではないか。
破壊衝動が自己へと向かい、時には快楽的な放縦にさえ接近する様は、まさにロシアの「鞭身派」だ。
『エミリー・ローズ』の主人公や『エクソシスト』のリーガンは、悪魔憑きという悲惨で理不尽な状況におびえ、ただ周囲に振り回されるだけの存在だった。
しかしアンネリーゼ・ミシェルは、むしろ「悪魔の口を借りて」、堕落していくキリスト教徒に対するアジテーションを行い、殉教者として、自ら人類の原罪を背負って死んでいく。その姿は、非キリスト教徒から見ても感動的なものだ。『エクソシスト』では、神父たちが担っていた役割を、彼女自身が負っているのだ。
ウィリアム・ピーター・ブラッティによる『エクソシスト』の原作は、優れたキリスト教文学だったが、彼がアンネリーゼ・ミシェルの存在を知った後であれば、『エクソシスト』はきっと違った作品になったことだろう。
これが「悪魔憑き」であるなら、ジャンヌ・ダルクやキリストも、やはり「悪魔憑き」だったとさえ言えるのではないか。あるいはあの「東電OL」も。
参考:
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アンネリーゼ・ミシェルの悪魔祓い
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このエクソシズムで悪魔達が言ったこと
録音されたテープの音声。(読みにくいけど英語字幕付き。)
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Audio tape from exorcism of Anneliese Michel -german/english subtitles 1/10
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Audio tape from exorcism of Anneliese Michel - english subtitles 2/10
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Audio tape from exorcism of Anneliese Michel -german/english subtitles 3/10
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Audio tape from exorcism of Anneliese Michel -german/english subtitles 4/10
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Audio tape from exorcism of Anneliese Michel -german/english subtitles 5/10
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Audio tape from exorcism of Anneliese Michel -german/english subtitles 6/10
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Audio tape from exorcism of Anneliese Michel -german/english subtitles 7/10
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Audio tape from exorcism of Anneliese Michel -german/english subtitles 8/10
