なんでも今度の『Remix』誌はまさかのサルサ特集(!)らしいのですが、それについて、このブログとしては非常に光栄な話を耳にしました。まあまだ本当かどうかは確認してないんですが、素直にうれしいです。ブログやってて良かった。
まさかのサルサブーム到来か…?でもレコードの値段が上がっちゃったりしたらイヤだな…。
で、今回はFANIA特集で。
●WILLIE COLON & RUBEN BRADES / Siembra(LP) FANIA
まだサルサを聴き始めて日が浅いわりには、玉石混淆、既にかなりの枚数のレコードを聴いてきたわけだけど、まだまだ名盤と言われるものを聴き逃している。
いい加減飽きたかと思ったところでこんなものに出くわすんだから大変だ。
FANIAレーベルのリリースの中でも最高の売り上げを記録したという作品。針を落とした直後に、間違いなく今まで聴いてきたサルサのレコードとは何かがはっきり違うのがわかる。
完全なディスコ調で始まる冒頭もご愛嬌、重心低めに終始絶妙なクロスオーバーっぷりを見せながら、あくまで足場はサルサ。
全編、最高度の粋や洗練とイナタさが、強烈なコントラストで同居している。
やろうと思えばなんでもできる。でも僕たちはあえてこれをやるんだよ。そういう宣言の固まりのような1枚。
ウィリー・コローンのアレンジは天才を超えてもはや超人の域に達している。ルベン・ブラデスのボーカルも自由自在。
こういうものを聴くと、自分がなぜレゲエやヒップホップと同じ視点でサルサを聴けるのかがはっきりとわかる。審美のポイントが同じなんだよな。
78年作、NYサルサの爛熟期に咲いた巨大な肉厚の花。
●LARRY HARLOW / Erectric Harlow(LP) FANIA
エレクトリックと言っても、ピアノの代わりにシンセサイザーが多用されている以外には、表面的にはそこまで電気楽器が際だっているわけではない。
むしろタイトルのニュアンスとしては、本当は「Heavy Metal Harlow」とでも付けたかったのではないだろうか。つまりT-REXがアルバムに「電気の武者」と付けたのと同じようなことだ。
そう思わせるぐらい重くファナティックで鋭角に尖ったサルサ。そしてそのニュアンスはむしろシンセが前に出てくる以外の部分にこそ強烈に感じられる。
特にもはやメタル・パーカッションと呼びたくなるティンバレスの響きとレーザー光線のようなホーンが強烈。イスマエル・ミランダの青光りするボーカルがそれに輪をかけている。
前期ソフト・マシーンがサルサ化したような、と書いても大袈裟ではないと思うんだけどどうだろうか?
素晴らしくクールでかっこいいレコードです。
●ORCHESTRA HARLOW / El Exigente(LP) FANIA
そのLarry Harlowの初期の録音を後年になってまとめたアルバム。当時としてはオールディーズにあたるものだったのだろう。
「Hippies, flower children, or psychedelic; which-ever way you look at it, there is definite change in ORCHESTRA HARLOW.」と裏ジャケには書いてあるが、ブーガルーからサルサへの「変化」とは本当にそういうものだったんだろうか。どサイケな表ジャケはまさにそんな感じだが。
ともかく、ここに収められているのは、そうした「変化」が訪れる前の、スーツに蝶ネクタイでブーガルーやガラーチャ、アフロ・ツイスト、シンガリングといったかつてアメリカのラテン音楽シーンでトレンドだったスタイルをプレイする若きHarlow楽団の姿。
ブーガルーは以前にも書いたように、サルサ以前に流行したロックやソウルとラテン音楽を融合した猥雑でウサン臭い音楽。
このアルバムも、後のサルサのように比較的キューバのソンに近いものもあるが、ほとんどマージービートのような8ビートの曲もある。歌詞ももちろん英語。しかしこれはこれで、図太くてワルそうで、なんとも言えずかっこいい音楽だ。
下手すると同時代のロックよりパワフルで強烈だったかも知れない。なるほど売れたはずだ。
サルサがレゲエだとすると、ブーガルーというのはちょうどスカやジャマイカン・ソウルにあたる存在なのがよくわかる。
●JOE BATAAN / Riot!(LP) FANIA
レアグルーブ方面でも評価されているFANIAの異色作。
どちらかと言うとこのレーベルがぽつぽつと出しているラテン・ロックやラテン・ソウルのラインに並ぶようなクロスオーバー的な作品で、完全なソン・モントゥーノスタイルもあるが、半分はイナタいR&Bナンバーで、それらは英語で歌われている。バックにはFANIAのスタープレイヤーは誰も参加しておらず、トッポい若手に好き放題させているといった趣。
正直歌も上手くないし、目の覚めるようなプレイがあるわけでもないが、渋さと荒さが同居した素朴なアンサンブルには、時代の空気がたっぷり含まれていて、なんとも言えない味がある。
音楽は耳だけで聴くものじゃない。
最近再発されたのでLPは簡単に入手可。
●CELIA RAY ADALBERTO / Tremendo Trio!(LP) FANIA
83年作、完全な安定期に入ったFANIAのまさに横綱相撲。
Ray BarettoのオーケストラにCelia CruzとAdalberto Santiagoの二人のゲスト歌手を迎えてのセッション。
延々と続くゆるやかな一定のリズムの上で、華麗なトリックが次々と繰り出される。雄大なホーンを中心としたアレンジだけでなく、歌メロも素晴らしい。
火の出るようなデスカルガだけがサルサではない。この悠然たる構築美と大人の粋。
80年代もまだまだサルサは凄かった。
●V.A. / Los Hits Gordos De Fania(LP) FANIA
なんと90年に編纂されたベスト・コンピ。FANIAのビジネスサイドの総帥、ジェリー・マスッチによるセレクション。
しっとりした歌ものから、デスカルガ色の強い怒涛のナンバーまでかなり幅広く収められているが、FANIAの平均値よりもアーバンな洗練とキレを数段強めた楽曲が多数入った素晴らしい内容。
まさかレアグルーヴブームを当て込んで出したわけじゃないだろうけど、やっぱり全盛期から10年以上経過した時点での独自の視点でチョイスされたことが伺える見事なベスト盤です。
●HECTOR RIVERA Y SU ORCHESTRA / Para Mi Gente(LP) TICO
これはFANIAじゃないです、すみません。
かわいい子供たちをピアノの周りに集めたジャケの通りの、ほのぼのとした1枚。
シンプルでアタックの強いピアノの上で、ビッグバンド的な厚みのあるホーンセクションがよく動き、大らかなボーカルが楽しそうに歌う。
オーソドックスなようで、何げに少しも普通な所がない。なんて素敵なアレンジなんだ。
そのくせ少しも気取ったところはなく、肩の力はフワッと抜けている。
めくるめくようなファンタジックな空気と牧歌的な気配が同居している。
素晴らしい。
●JUSTO BETANCOURT / Pa Bravo Yo(LP) FANIA
72年作。非常に落ち着いた物腰の酒脱なサルサ。しかしのほほんとした雰囲気の中にも鋭いアレンジがさりげなくビシビシ決まる。
独特の柔らかく転がるようなボーカルの後ろで、まろやかなホーンリフ、エッジの効いたパーカッション、リリカルなピアノが輝く。
プロデュースはLarry Harlow、アレンジはJavier Vasquez。
FANIA全盛期の底力を示す1枚。
●JOHNNY PACHECO / Tres De Cafe Y Dos De Azucar(LP) FANIA
FANIAの総帥名義の作品なだけあって、まさに典型的なNYサルサ。哀愁を帯びたパワフルで軽やかなソン・モントゥーノスタイル、見事なまでの一本調子。
しかし安定した輝きを放つ音や声の鳴りと響き合いには、文句のつけようもない。
バラードのバッキングなどにはやはりソウルの影響もみられ、時代との緊張感も絶妙。
FANIA作品の中でも最高水準の素晴らしい1枚。しかしこのぐらいのレベルのアルバムがゴロゴロしているのも当時のサルサ・シーンの凄いところなのだ。
●V.A. / Tico-Alegre All Stars Vol.1(LP) TICO
これもFANIAじゃないんですが…。
参加アーティストはTito PuenteとJoe Cuba Sextet、Ismael Rivera、Vicentico Valdez、Charlie Palmieri、Vitin Aviles、Yayo Elindo、Hector Rivera、Javier Vazquez、Vitin Aviles他。
サルサのライブで面白いのは、ステージに文字通りのMC(Master of Celemony)=司会進行役が居ること。コール・アンド・レスポンスを求めて客を煽りまくるが、レゲエのDJやヒップホップのMCのように音楽の一部として喋りを入れるわけではない。あくまで司会進行役なのだ。
Tito Puenteの『2001年宇宙の旅』のテーマのノリノリのハイスピードなカバー「Tito's Odyssey」で始まり、熱狂の中でグイッと甘いバラードに持ち込み、激しいコール・アンド・レスポンスで煽り立てた後、ご機嫌なソン・モントゥーノナンバーに移行し、テンポチェンジを繰り返して再び激しいコール・アンド・レスポンス、さらに女性ボーカルのバックで次々とハイテンションにリズムが変化する超絶ナンバー…という、めくるめくような展開が本当に素晴らしい。まるでオーディエンスと一緒に呼吸しているようなスムースさ。これはスタジオ盤では味わえない。
スタジオ録音の5割増しぐらいでパーカッションが叩きまくられ、楽しげなコーラスや掛け声が入り乱れる。