■ 大正から通天閣まで・ミシシッピデルタブルース
アメリカ南部
ミシシッピ州‥‥‥デルタブルースの発祥の地
ガスキャノンが
ジョーキャリコットが
ウィリーブラウンが
そしてチャーリーパットンが駆け抜けた
あのミシシッピデルタ地帯‥‥‥
大阪で言うたら
此花区、港区、大正区あたりになるやろか
友人ハヤマテツオが幼少の頃
親に連れられて歩いたという道がある
大正区の千島から木津川を船で渡り通天閣まで
約3キロの道程
わずか3キロやけど
5歳の子供の足にはずいぶん長い距離やったに違いない
2002年7月4日
50歳になった今日
その道を辿ってみることにした
「暑い」
「とにかく暑いわ」
梅雨の晴れ間っちゅうのは
ただ単に暑いだけの八月とは違うて
蒸し暑さがプラスされる
ほんの数百メートル歩いただけで
頭といわず足といわず
体中いたるところから汗が噴き出してくる
環状線大正駅から
千島の落合上渡船まで約1.5kmの
何の変哲もない殺風景な道を歩く
「しっかし暑いわー」
「たまらんわー」
道中見つけた喫茶店で2回も避暑をする
水都大阪には古うから渡し船があって
淀川、安治川、尻無川、木津川など
多いときは31ヶ所もの渡船場があったらしい
利用者が激減して
現在は8ヶ所が残ってる
木津川にはそのうちの4ヶ所の渡しが運行してて
上流から落合上渡し、落合下渡し、千本松渡し、木津川渡しとある
友人ハヤマテツオは
「落合上か、あるいは落合下の渡しに乗った」
と記憶している
なにしろ子供のじぶんの記憶やから
定かではないらしい
とりあえず一番上流の落合上渡しに乗ることにする
船着き場に行くと
オバハン二人、少年が一人
それぞれ自転車で渡しの出船を待ってる
ベンチに腰を下ろすと
待つ間もなく若い船頭とさらに若い助手らしき市の職員が現れて
「はいどうぞ乗って下さい」
と客に声をかける
渡船の利用者はこの付近の住民だけのはずで
船頭は
見慣れぬボクの顔にけげんそうな表情
渡船料は不要
つまりタダ
すべて市の税金でまかなってる
毎日利用してるらしいオバハンは
船頭と親しげに世間話をしてる
「あんた明日休みやろ、朝からパチンコ行くんか」
「ボク明日も仕事ですよ」
「ほんまかいな、よう働くなあ」
このあたりの木津川の水は
やや黄褐色に濁っていて透明度はゼロ
海からは3、4キロの汽水域である
ミノープラグを投げたらシーバスが入れ食いかもしれへん
船頭の合図で出船したかと思うと
船はあっという間に対岸に着いた
客が降りると
すぐにまた対岸で待っていた客を数人乗せて
元の船着き場へと戻る
乗船時間約2分
ちょっと大きな声を出せば対岸に聞こえる
いわゆる目と鼻の距離
友人ハヤマテツオが送ってくれた時刻表を見ると
ピーク時は10分間隔
それ以外は15分間隔で対岸を往復する
朝の6時過ぎから、夜は9時過ぎまで運行してるというから驚く
船を降りて少し東へ歩くと南海電車の高野線に出る
このあたりは商都大阪らしき華やかさはまったくない
ほこりにまみれた小さな町工場が並ぶ
線路を渡ってさらに東へ歩くと府道大阪臨海線(新なにわ筋)に出る
突然
交通量の多い幹線道路に出ると気温も一気に上がったような気がする
背中から汗が吹き出してくる
ああ、のどが渇く
ビールが飲みたい‥‥‥。
新なにわ筋を南に下がると津守商店街の入り口が見えてくる
いかにも古めかしい、昔なつかしい風情の商店街や
自動販売機でビールを出して
たこ焼きを買う
たこ焼き屋のおばちゃんが
「ソースにする? 醤油にする?」
と、きいてくる
たこ焼きに醤油って‥‥‥?
「どっちが美味しん?」
「そら好き好きや。わては醤油の方があっさりしてて好っきゃけどな」
「ほな醤油にするわ」
「よっしゃ。海苔はどないする?」
「ぎょうさんかけといて」
「200円ね、おおきに」
あつあつのたこ焼きを口に放り込んで、ビールを一気のみする
‥‥‥うまい
暑さで萎えかけた気力が蘇る
ここからは東に一直線に延びる商店街を歩く
鶴見橋商店街、萩ノ茶屋商店街、今池商店街、動物園前商店街
総延長1.5キロのアーケード(所々切れている)
日差しは遮られるが
湿気はさらに高い
商店街を東へ行くほど雰囲気がディープになる
鶴見橋商店街の西の方は普通のおばちゃんが多かったけど
東へ行くほど普通の買い物客より
労務者風、浮浪者風のおっさんが多くなる
服装はもちろんボロボロの作業服風
みながみなダークグレイな出立ちや
とくに南海本線萩ノ茶屋駅のガード下周辺は
ほとんどヨレヨレのおっさんばっかりになる
徒歩のおっさんも
自転車のおっさんも
みんなフラフラしている
アルコールで脳がやられているのか
背筋を伸ばして真っ直ぐ歩いている者は皆無
立ち飲みの串カツ屋は
昼間からそんなおっさんらで溢れ返ってる。
動物園前商店街を抜けて国道を渡ってJRのガードをくぐると新世界
ジャンジャン横丁の南の入り口が見える
しかし
昔の面影はない
数年前
テレビや雑誌が「ディープ大阪」としてここを紹介してからは
ジャンジャン横丁は完全に観光化されてただの奇麗な街になってしもた
ジャンジャン横丁を北へ抜けると
づぼらやの看板越しに通天閣が姿を現す
ディープ大阪の象徴、通天閣
誰が何と言おうと
天に通じる閣なんや
つーてんかくこーて
つーてんかくたかい
たーかいはえんとつ
えんとつはくーろい
くーろいはどーじん
どーじんはつーよい
つーよいは‥‥‥
しかしこのクソ暑いときに「てっちり」はないんちゃうん
あまりの暑さに頭のてっぺんから湯気が出てるのがわかる
づぼらやのフグ‥‥‥
かに道楽のカニ‥‥‥
中納言の伊勢エビ‥‥‥
看板ばっかり巨大で
中身が薄いんが大阪の特徴かもしれへん
旧き佳き昭和を思い出させてくれるスマートボール
もう、大阪でもここぐらいにしかないんちゃうか
15と書いてある穴に玉が入ると
台のガラスの上に「ガチャガチャ」と玉が15個出てくる
しかし
ぜんぜん入らへん
ディープサウスは地べたに寝てるおっさんが多い
家もなければ泊まる宿代もない
道路やろおじが寝床になる
鶴見橋商店街にて
オーマイゴッドな人生で、唯一安らぐ時‥‥‥
スリッパを枕にして
とても行儀の良い寝方のおっさん
きっと育ちがええんやろな
カラオケ酒場「小鉄」前にて
ビッグジョーウィリアムスが倒れてるんかと思た
あまりにもサドンデスっぽい寝方やから死んでるんかと思たがなもう
よう見たら幸せそうな寝顔
人生の佳き頃の夢でも見てるんやろなあ
ああ、夢の果てはまた夢‥‥‥か
萩ノ茶屋駅ガード下にて
うぉ、このおっさん
Merrellのジャングルモックはいとるぞ
ボーディドリーのジャングルビートが似合いそうな
めっちゃシブイ浮浪者のおっさんのちょっと短かめの汚い足
通天閣の下にて
最初は死体かと思た犬とおっさん
よくみると腹がベコベコしてるので生きてるとわかる
それにしても犬よ犬
まるで油まみれのボロギレのようやんか
人生は長いようで短い
ついこないだまで若者だった私が
もう五十になっている
中学生でギターを覚えて
カントリーだ
ブルースだと
歌ってる間に気が付くと五十である
だから何なんだと開き直っても仕方がない
どうならんならんことはない
なるようになる‥‥‥しかないのである
4 July 2002(My 50th birthday)